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ボット先生  【第22話/全35話】

 なんてこった。ボット先生は、もう来ないって?
 さやか先生は相変わらずサンキューだ。で、今日から来た先生。さやか先生の代わりにきたボット先生の、代わりの先生。
「ナーイス、チュー、ミーチュー、エヴィバディ。 タクト先生と呼んでくれ。フュー!」
お尻に張り付くズボンに、ムキムキの胸板がくっきり浮かぶシャツ、額に垂れた前髪。塾のタクト先生が教壇に現れた。まあ、彼も先生にちがいはないけども。ボクはウーちゃんを見た。ウーちゃんも、下唇を突き出して眉を寄せていた。
 先生は、塾でやっている通り、英語まじりの変なしゃべり方でボクらに自己紹介した。でも、ボクらは白ける一方。塾だから、ちょっと変わった先生でもウケたんだ。ここは、小学校じゃないか。みんな、マジメに通っている。先生のくせに、ふざけていいの? 
 休み時間、波多野君がボクの席にきた。
「アイツ、むかつくよな」
ああ、やっぱり。波多野君でもそう思うんだ。
 波多野君は、体が大きいし目つきは鋭いし、いつもふんぞり返って威張っている子で、ボクは苦手だった。でも、案外ケンタとは仲が良くて、四年の頃までは、三人で遊んだことも何度かあった。彼は一面、分かりやすいところがあった。相手によって態度を変える奴が嫌いなんだ。だから、ケンタみたいに、誰の前でも態度が変わらない子は気に入る。反対に、ボクみたいな、相手の好き嫌いが表に出るタイプは嫌いらしかった。でも、ケンタを通して波多野君を知ったので、一応今までは、ボクも彼とうまくやれていた。五年になってからあまり遊ばなくなったのは、カスヤンみたいな、平気で相手を見下す奴と一緒にいることが多くなったからだ。
 波多野君は、ボット先生が好きだった。ボット先生はロボットだから、どんな子にも同じように対応していた。誰からの質問でも嫌がることなく、平等だった。波多野君も、ボット先生なら勉強できる、と思っていたのだ。
 それが、タクト氏に変わったからむかつく。
 ボクも同意だ。
 ケンタとマミちゃんが、学校に来なくなった。理由は、誰も教えてくれない。今朝、お母さんが、ケンタ君は引っ越したんだって、と言っただけ。学校に来る前に、ウーちゃんと二人でケンタの部屋に行ったけど、もう表札もなかった。ケンタだけじゃなくて、ケンタのお母さんも引っ越したんだ。
 ボクは、ポツリ。
 ケンタがいないと、なんだか足が地面から浮いているような気分だ。ウーちゃんも幼馴染みだけど、女の子だし、ボクと一緒のときもあれば、あちこちふらついてどこにいるのか分からないときもあったりして、落ち着きがなくて当てにならない。ケンタがいないと、教室に居ても、ボクは話し相手がいないことに気づいた。別に他の子と仲が悪いわけじゃないんだけど、何となく、気を許して話すことができない。結局ボクは、放課後までポツンとして、誰にも誘われないまま一人で帰った。
 ケンタは、本当にアメリカに行ったんだろうか。ボット先生は、何とかすると言っていた。でも、何ともできなかった上に、自分は電源を落とされちゃったんじゃないだろうか。分からない。誰も、何がどうなったが教えてくれない。フジモト君も、今日は学校に来ていなかったようだ。
 YTSは、子どもを連れ去る悪い団体。ボクはそう思っていた。フジモト君もそう言っていた。実際ボクは、昨日の学校帰り、公園で黒服の男たちに連れ去られたんだ。
 でも、連れ去られた船の中には、ケンタとマミちゃんがいた。二人は、そのまま外国に行くと言った。外国に行けば、里親がいて、新しい学校に通わせてもらえる。お金の心配をせずに、学びたいことを学ばせてもらえる。
 そんなところに連れて行ってくれるYTSは、いい団体? 一人で逃げ帰ったボクは、ひょっとして、損をしたんだろうか?
 後ろ頭を叩かれた。振り向くと、「一緒に帰ろうぜ」と波多野君が笑っていた。
 波多野君は、児童クラブをサボった。「ホンマがむかつくからよ」と悪ぶって言った。ホンマ君は、六年生の女子だ。『海菜』っていう外国風の洒落た名前があるのに、カイナちゃんと呼ぶと怒る。チャン付けはせいぜい四年までで、五年からは、男も女も君付けじゃないと差別になるそうだ。確かに彼女は、色が黒くて、腕も脚も陸上選手みたいにムキムキだから、チャンではおかしい。彼女が言い張ったので、児童クラブでは、男子も女子も君付けで呼んでいるらしかった。
 児童公園で寄り道しよう、と誘われた。「いや、それは、」とボクは言葉を濁した。公園は怖い。また、浚われたら困る。その話をすると、「オレ、それ知ってるぞ」と波多野君は顔を寄せて目を吊り上げた。


ボット先生  【第23話/全35話】|nkd34 (note.com)

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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