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ボット先生  【第33話/全35話】

 ドローン軍団は、蚊柱みたいに散らばった。飛び上がるボットPを避け、ふわふわとかわす。ボットPはまっすぐにしか飛べないから、命中しなければむなしく飛び去るだけ。外れたボットPは、逆さまに落ちて砂浜に突き刺さった。
 ドローンが反撃を開始した。四、五機が一体になって急降下し、地上のボットPに向かって足からパチンコ玉を発射した。集中砲火を浴びたボットPは、体のゴム状の繊維を切られ、くの字に折れてその場に倒れた。
 ああ、ヤバい。
 ドローンは、いくつかの組を作り、順繰りに降下して、切れ間なく攻撃を繰り返した。ボットPは一台ずつ攻撃されて破壊された。旗色悪し。ドローンはヒット、アンド、アウェイ方式でていねいに攻撃したので、ボットPはミサイル発射する機会を失った。
 今度は、地上のボットPが散らばった。一台を目掛けてドローンが降下する。そのドローンの群れを囲むように陣形を組んだ。ボットPの胸の辺りの繊維が開いた。天ぷら油が爆ぜるような音がした。
 五台のドローンが、一度に墜落した。ボットPの体の中に装備されたパチンコ玉発射機が、ドローンを撃ち落としたんだ。
 おお、スゲエ!
 また、形勢逆転。ボットPは降りて来るドローンを狙って三、四台で囲み、バチバチと撃ち落とした。接近戦でも負けないんだ、ボットPは。さすが神奈川県警。
『下りる準備をするんでアリマス』
上から声を掛けられた。振り仰ぐと、ボクを吊っている中央のドローンの縁が、緑色に点滅していた。
『胸に腕を当てて、足を折り畳むんでアリマス』
ボット先生だ! ボクは言われた通り、ネコみたいに縮まった。
 ボクを吊っていた九台のドローンは、旋回しながら砂浜に向かって降下した。ボットPと戦闘している間に、ボット先生が中央のドローンを占領したんだ。よかった。ボクはホッとした。だんだん、白い砂浜が近づいた。これで、助かる。
 はじめは思った。ロボットが先生なんて。ボクらは人間なのに、ロボットに言われたことを守らなきゃいけないの? それって、かた焼きそばをご飯だと言い張るのと、同じじゃないの? 
 今は、そうは思わない。ロボットだって、人間と同じくらい、イヤ、人間以上に人間だ。だって、ボクを助けてくれたのは、人間じゃなく、ロボットなんだから。
 おや、何だ?
 ブチッと音がしてロープが切れた。足首が楽になった。またブチ。今度は手首。ブチッ、ブチッ。次々とロープが切れて、肘、膝、肩と、動けなかった関節が自由になった。
 おいおい、まだ地上は遠いんだけど。
『頭を抱えて、体を丸めるんでアリマス!』
ボット先生の声が焦っていた。周りのドローンが、ボット先生に反逆してロープを切ったんだ。
 ヤバい! 落ちる。
 とうとうボクは、腰のロープで、ボット先生のドローン一台だけに吊るされた状態になった。砂浜がぐんぐん迫ってきた。怖い! ボクは思わず目を閉じた。このまま落ちたら死んじゃうよ。
 また、ボットPミサイルの音がした。うわ、何だ? ボクの体は、グーンと勢いをつけて運ばれた。そして、ドボンと落ちた。海の中だ。
『捕まるんでアリマス』
水から顔を出したボクの前に、白い抱き枕みたいなものが浮かんでいた。ボクは水を掻いてそれに近寄り、乗っかった。横倒しになって海に浮かんだボットPだ。ボットPはスルスルと音を立てて浜に向けて進んだ。根元の方にスクリューがついてるんだ。スゲェ。ボクはボットPに感心した。エリンギ型ロボットのボットPは、ツルンとしたゴムみたいな胴体の中に、いろんな仕掛けが隠れているんだ。砂浜に落ちそうになったボクは、間一髪、ボットPミサイルの一撃でドローンごと海に吹き飛ばされた。おかげでボクは、浜に落ちて怪我をせずに済んだ。
 ドローンの中のボット先生も、ボクらの後から浜に上がった。その頃には、他のドローンは全部ボットPに撃ち落とされていた。ボットPは、ドローンの残骸を拾い集めていた。
「どうするんだろ?」とボクが呟くと、『リサイクルするのでアリマス』とボット先生が教えてくれた。ボット先生は、ボットPの一台に乗り移っていた。
 先生は、警察からの情報でボクの行方不明を知った。お母さんは、ボクがいなくなったことに気づいて、すぐに警察に連絡したってわけだ。『連絡が早かったので、間に合ったのでアリマス』と先生は言うけど、要するにお母さんは、自分で探すのが面倒だから、警察を頼ったんだ。
「ボク、帰りたくないんだけど」
そういうと先生は、『心配いらないんでアリマス』と言った。
『お母さんは、再婚を延ばすそうでアリマス。キミの進学が決まるまで、二人で頑張りたい、とおっしゃったのでアリマス』
ボクは、ニコニコ顔のボット先生を見つめた。そりゃ困る。それって、ボクが原因で、再婚できないってことだ。つまり、再婚できるようになるまで、いじめられ続けるってことだ。
 ボクの目を見て、ボット先生も気づいたらしく、眉を寄せて難しい顔になった。
「てめえら、そこを動くな!」
浜に、ヤクザめいたランボーな声が響いた。


ボット先生  【第34話/全35話】|nkd34 (note.com)

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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