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ボット先生  【第32話/全35話】

 前にフジモト君が言っていたけど、ボット先生は、日本製の人工知能だ。ボットPも同じで、やはりフジモト君の会社で製造したものらしい。人工知能同士はお互いに知識や経験を融通し合うので、ボット先生とボットPは仲がいいのだ。というより、ほとんど同じ人格だと言ってもいいのかも知れない。
 いや、おかしい。ロボットに『人格』は変だ。そもそも、人格って言葉自体、よく分からない。
 駅舎から出たボクらは、夜空からプロペラの音が降ってくるのを聞いた。
 ヘリコプター? じゃない。暗闇に点々と浮かんだ黒い物体。
 ドローンだ! カラスぐらいの大きさのドローンが、駅の改札前の広場の上空に、やぶ蚊みたいに群れを成していた。
『逃げるのでアリマス!』
ボット先生に言われて、ボクらは辺りを見回した。逃げるって、どっちへ? すると、もたもたしている間に、ドローンの群れがボクの方へ急降下してきた。
 ゲゲ。何しやがるんだ!
 ドローンから、次々と小石のようなものが飛んで来た。小石にはロープが結ばれていて、ボクの首、肩、肘、胴体、腰、膝に巻き付いた。ありゃりゃ! ボクはドローンの群れに引っ張られて空中に浮いた。
「ああ、待て!」
駅員さんが駆け寄ってボクの足を掴んだ。一台のドローンが、その手にパチンコ玉のようなものを連射した。駅員さんはたまらず手を離した。
 ボクは吊り上げられて夜空に浮かんだ。やめてくれ! 高いところ、苦手なんだ。
「応援を、呼ぶんだナス」
ドローンの群れは、明るい海岸線の国道の方へボクを運んだ。ああ、一体、どうなっちまうんだろう? こいつらはきっと、YTSの秘密兵器だ。
 マーさんが現れたとき、気づくべきだった。YTSは、ボクも捕まえるつもりなんだ。豪華客船の出航には間に合わなかったけど、ボクも、ウーちゃんも、外国に連れて行くつもりなんだ。スマホなんて、すぐに捨てればよかった。せっかく家出したのに、ここの海で捨てたから、居場所がバレたってわけだ。
 ボクは、襟首を掴まれたネコみたいに吊るされて、海岸の上まで来た。月が出ていて、砂浜は白い帯になっていた。ああ、ボクは、どうなっちまうんだろう? 空は晴れ、海は凪いでいた。まさか、このままどこかの国まで運ばれるのかな。そんなことされたら、カゼを引いてしまいそうだ。
 近くで見るドローンは、八角形の箱だった。中央の一台と、周りの八台からロープが伸びて、ボクを吊るしていた。さらにその周りを、二重にドローンが取り巻いて、大きな円を描いていた。それぞれのドローンの、上に四つのプロペラがついていて、下から四本の足が垂れ下がっていた。この足の先に、いろんな道具がぶら下がっていた。
 外側の一台のドローンが、隊列から離れた。砂浜に向かって、らせん状に回って降下した。二、三台のドローンが、それを追って、同じように降下した。
 おっと、何だよ。
 ボクの体勢がぐらぐら揺れた。ドローンの陣形が乱れたので、全体が傾いたんだ。
 そのとき、眩い光が下から照らされた。ドローン軍団はさらに動揺した。見ると、砂浜の上から光線がボクの方へ向かっていた。光線の周りに、頭に皿を乗せたようなロボットの群れ。大量のボットPだ。ボットP軍団だ。
『抵抗は無駄だナス!』拡声器を通して、ボットPが警告した。『少年を放して、降伏するだナス。そうしなければ、神奈川県警の威信をかけて、アンタ方を捕まえるんだナス』
 ボットPがそう宣言する間にも、ドローンは次々と降下した。上空と砂浜、間合いを詰めて睨み合い。ボクを吊るしたドローン九台は、ややスピードを速めて海を目指した。
 闇夜をつんざく音が鳴った。ロケット花火みたいだ。いや、それは、まさにロケット。エリンギ型のボットPが、足元から火花を吹いて飛び上がった。一本、また一本。ロケットじゃない。ミサイルだ。それは空中でホバリングしたドローンに突撃し、体当たりして、次々と撃ち落とした。


ボット先生  【第33話/全35話】|nkd34 (note.com)

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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