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データサイエンティストがSlackの草スタンプから企業カルチャーを紐解いた結果www

atama plusという教育スタートアップでデータまわりのお仕事をしている内藤と申します。毎日膨大なデータの海の中で素敵なサムシングを良しなに何かできないかを企んでおります。今回、atama plusにおけるデータのお仕事ってどんな感じで自由にやっているのかの一事例を紹介しようかと思います。(※とは言いながら仕事ではなくほぼ趣味の分析です

背景と課題

さてさて。
近年様々な企業がミッション・ビジョン・バリューというのを打ち出していますね。atama plusも「ミッションドリブンカンパニー」と言われているように、ミッションやバリューを非常に重視しています。
「ミッションドリブンカンパニー」の真意──新オフィスに移転したatama plusに聞く、カルチャーの育て方 | FastGrow

データと格闘している毎日の中でふと疑問が浮かびました。
ミッションやバリューが実現したか、メンバーに浸透しているかどうかは定量的に評価できるのか?

何でも定量的に表し、いじってみたくなるのはデータ屋の性でもあります。そこでやり方がないかを考えてみました。

ふわっとしたものをなんとかして定量化する

まず、簡単に思いつくのはアンケートなどで認知率を測定していくことが考えられます。微妙に文言を変えた選択肢を作ったり、記述式にしたりして、毎月点数の平均や分散などをモニタリングしていけばいいですね。もし正答率が低い人、意識の低い人やカンニングするような不届き者がいたら鬼軍曹的な人が完全復唱できるまで正拳突きをさせる、とかでもいいでしょう。

しかし、よく考えるとミッションやバリューを設定する目的はメンバーが暗唱できるようになることではたぶんありませんね。正拳突きの無駄遣いもよくありません。

おそらく、どんなミッションやバリューが設定されるにせよ、それらが一人ひとりの日々の行動に体現されていることが重要でしょう。今回本当に測定したいのはこの「行動変容」の部分です。

これらを測定できるデータは何かないものか、、、ざっくり要件は以下です。
①社内の大多数の人から取れる
②できるだけ頻度が高い
③個人の特性や嗜好性を判別できる
④月次くらいで集計したい
⑤ミッションやバリューを体現してることを定量化できる

Slackという宇宙

そうこう考えていると、最適なものがあるではありませんか。そう、みんな大好きSlackです。
atama plusでは基本的なコミュニケーションはすべてSlackです。そしてあらゆる会話は特別な理由がない限りオープンというのが徹底されているため、どんな人でもSlack上の情報にアクセスすることができます。

※ちなみに、「オープンな社風」というのはいろいろな会社でよく聞きますが、atama plusにおいてどれくらいオープンかというと、会社の財務状況もオープンになっていたり、その徹底ぶりには最初かなり驚きました。

というわけで、データ屋にとってatama plusのSlackはデータの宝庫なのです。みんなの喜びも悲しみも、脳内のあれやこれやがここに漏れ出していると考えると、ありとあらゆる現象を推定できるはずです。

Slackは単なるビジネスチャットツールを超えて宇宙だったのです!興奮してきますね!


「草」スタンプ文化

さて、偶然にもatama plusという会社はデータ分析者にとって非常にハックしやすいことに気づいたのですが、最後の難題は如何にしてミッションやバリューを観測するかということです。

atama plusのバリューは以下の4つになります。
Wow students. 生徒が熱狂する学びを。
Think beyond. 常識は、さておき。
Speak up. 話そう、とことん。
Love fun. 楽しくなくっちゃ。

要はこれらを明らかに体現しているようなSlack上の行動を特定し、集計すればいいわけです。そこであるatama plus特有の自然現象に着目しました。

それはSlackに突然生える「草」です。

atama plusのSlackでは「草」というシンプルなスタンプがなぜか頻繁に使われています。このスタンプは様々な意味を持つ可能性もありますが、おそらく「とても面白かったです」、「大変興味深い」、「ワロタwwww」などと同じ意味を持つと考えられます。
そうすると、この草シグナルは4つのバリューのうちの一つ「Love fun」につながる行動のひとつと解釈できそうです。
つまり「草」の総量を観測する事によってバリューの一つを定量的に評価することが可能になります。
詳細は、カルチャーコードを参照してください。
http://corp.atama.plus/culture-code/atamaplus_culturecode.pdf


本当にLove Funは体現されているのか?

さて、それでは本題にいきます。
データ収集方法
ここは本題とはそれるので割愛しますが、単純にSlackのAPIを良しなにいっぱい叩いていい感じにこねこねしました。やり方はグーグル先生に聞けばいくらでも出てくると思います。ちなみにatama plusはまだ創業から5年未満なので全量データ引っこ抜くことができました。


草数の推移
まずは単純に草スタンプの総量がどのように変化してきたのかを見てみます。

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おおよそ指数関数的な成長曲線を描いていることがわかります。atama plusはここ数年で急激に社員数も増加しているため、その増加に合わせて増加していくのは自明ではありますが、注目するべきはその社員の増加の速度よりもさらに加速しているということです。直近2年の社員数の伸びはおおよそ3倍程度ですが、草数はおおよそ10倍に伸びています。まさに驚異的な成長です。
ちなみに最初の草は2018年11月12日のようです。社内ではこれを草記念日として制定する動きがあるとかないとか。

一投稿あたりの草数の分布
Slackでは一つの投稿に対し、特定のスタンプを一人一回までリアクションとしてつけることができます。つまり10個の草が生えたということは10人が「ワロタwww」という反応を示したということです。この一投稿あたりの草数の頻度を調べることで、どれくらいの合計獲得草数が野球で言うホームランに該当するのか、のような疑問に答えを出せると考えました。

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対数軸にしてみるとおおよそ直線的なきれいな関係になっていることがわかります。非常にロングテールな分布であるため、草が発生した90%は10個以下です。一回の投稿で10個以上草が付くと結構珍しい現象が起きたと言えるでしょう。つまり野球で例えるなら10個以上草が生えればホームランです。ただしこのしきい値は社員数(現状160人くらい)に少なからず相関していると考えられるため、今後会社の成長に従って適宜見直しをしていく必要があります。
また今時点での最高記録は53個のようで、頻度的には逆転満塁サヨナラ場外ホームランくらいでしょうか。このように分布で見るとその値の特異性がよくわかります。ちなみに僕は野球に詳しくありません。


草ヒット率
草を獲得するとしても大量にSlackに投稿している人と、少ない投稿の中で獲得している人では大きくそのスタイルは大きく異なります。そこですべての投稿の中で草獲得した投稿の割合を草ヒット率と定義し、その分布を観察してみます。野球でいうバッターの打率と同様ですね。

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このように打率もロングテールな分布になっています。中央値は約0.6%であり、草を獲得することはそれほど簡単なことではありません。また上位層に着目すると、ランキング争いをするには最低4%程度以上、トップは8%台の打率が必要であり、プロの厳しさが垣間見えます。


草研究に終わりはない

さて、ここまで全体像を眺めてきましたが、まだまだ載せられなかった興味深い分析結果が山程あります。Slackという宇宙の中で引き続き真理を探求しつつ、機会があればワロタwwwなやつをアウトプットしていきたいと思います。


まとめ
・ビジネスチャットにおけるコミュニケーションログは宝の宝庫
・ミッションやバリューは工夫次第で定量的に観測できる
・atama plusのバリューの一つであるLove Funが確実に体現されていると思われる

※こぼれ話

▼偽草の出現、感謝の草
何かをゲーム化すればルールをハックしようとするのが人間の性と言えるでしょう。上記の草分析について全社会議で情報開示したところ、すぐに以下のような偽草スタンプが出現しました。

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また草スタンプが賄賂のように扱われる事例も報告としてあがっています。これはスタンプの意味は不変なものではなく変動的であることを示唆しており、非常に興味深い変化です。

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当初このような変化は想定しておらず、コミュニティを健全に維持し続けることが如何に難しいかを痛感しました。データの分析だけではなく治安の維持も気を引き締めて行っていきたいと思います。


▼トップランカーの草イップス
今までは気軽に押す草スタンプでしたが、情報公開以降、様々な市場の変化が報告されてきました。

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プロの世界では継続的にパフォーマンスを出し続けることがいかに難しいことなのかがよくわかります。また情報を開示するだけでも市場にこのような想定していない変化を引き起こしてしまうため、今後タイミングや内容は十分検討していく必要性が浮き彫りになりました。

▼Slackに住む少数コロニーの発見
データを眺めていると、思わぬ発見があるものです。何の目的で作られたのかわからないチャンネルもSlackにはたくさんあります。その大多数はアーカイブされていたり最後のポストから時間が経過したりしていたのですが、まだ少数で生きているものも存在します。

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ここはおそらく「ponpon」が「pain」したときに情報共有されるところだとは思いますが、その正確な意図は定かではありません。引き続きこれらの少数コロニーの保護と観察を続けていきたいと考えています。


最後にまじめなやつ

このように(?)atama plusでは施策決定や改善活動など、あらゆる物事がデータドリブンに動き出しつつあります。データも膨大にあります。まだ解決できていない課題も特定できていない因果もやりたいABテストも山程あります。

人間が何かを習得するには何が最適か?」という問いは、過去の人類史の中で多くの試行錯誤されてきましたが、まだ確固たる答えは出ていないと思います。僕はこの大きな問いに今の時代だったら答えが出せるかもしれないという期待があり、そこに純粋に挑めることがatama plusにおけるデータのお仕事の魅力だと感じています。

データの力で教育業界の改革に魂を燃やせる方をお待ちしています!
https://recruiting.atama.plus/

※ちなみにサムネイルの草はオフィスの芝です。atama plusのオフィスにはリアルに草(人工芝)がめっちゃ生えています。

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