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コント袋その1 くじらの骨

〈シチュエーション〉
1人の旅行者らしき青年が砂浜に降り立つ。すると足元に小さな骨の入った小瓶を発見する。そこに1人の老人が話しかけてくる。

〈登場人物〉
Y:青年(ツッコミ);O:老人(ボケ)

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[漣の音〜明転]
Y:(靴から砂を出す仕草で)「めちゃくちゃ砂入っちゃったな…ビーサン持ってくればよかった。(小瓶を発見)ん?なんだこれ?……小さな骨が入ってる…」

O:(杖をついて近づいてくる)「それは伝説のくじらじゃよ」

Y:「お爺さん…伝説のくじらとは一体?」

O:「この地に古くから伝わる話でなぁ、その昔この海岸に一頭の大きなくじらが打ち上げられたんじゃ。街の人はそのくじらに群がって、あっという間にみんな食べてしまった。するとどうだろう。その日を境に、街には雨・風・高波が襲うようになったのじゃ。街の人たちはこれはくじらがもたらした祟りだと信じ、残っている骨だけでもと瓶に詰めて海へ帰したんじゃと。それを今お前さんが拾ったってことじゃ。」

Y:「てことは……今奇跡に近いことが起こってるんですね!」

O:「そうじゃ。それを手にした君はきっと幸せになるじゃろう。」

Y:「本当ですか!いやぁすごいもの拾っちゃったな…
[舞台袖からもう一つ骨の入った瓶が転がってくる]
…ん?これは?」

O:「伝説のくじらじゃよ」

Y:「またですか!?」

O: 「その昔この海岸に一頭の大きなくじらが打ち上げられたんじゃ。街の人はそのくじらに」

Y:「お爺さん!その話は聞いたって!それよりも一気に2つも見つかることなんて今まであったんですか!?」

O:「こんなの滅多にないことじゃ。そんなお前さんは幸運じゃよ。きっといいことが起こるに違いない。」

Y:「えぇ…こんな奇跡ある!?絶対大切にしよう。
[舞台袖から骨が入ったペットボトルが転がってくる]
なんだゴミか…ん?中に骨が…?」

O:「それは伝説のくじらじゃよ」

Y:「え?」

O: 「その昔この海岸に一頭の大きなくじらが」

Y:「いや待って待って!その…容れ物おかしくないですか?この時代にペットボトルって」

O:「はて?何を言いたいのじゃ。」

Y:「その…なんというか……」

O:「はっきり言わんか!」

Y:「その……お爺さん、この街をバズらせようとしてません?」

O:「というと?」

Y:「この砂浜に骨を入れた容器をばら撒いて、それを拾った人に今のエピソードを話してSNSで拡散させようとしてません?」

O:「なんじゃ!このワシが嘘をついてると言うのか!」

Y:「いやいや決めつけてるわけじゃなくて…その…そうだったら辻褄が合うなぁ…というか…」

O:「第一バズるとは何じゃ!わしゃそんなもん知らんぞ!」

Y:「すみませんそうですよね…私の勘違いでしたアハハ…
[舞台袖からくじらの骨とタピオカが少量入ったプラカップが転がってくる]
ん?タピオカ!?こんなに残して…ん?中に骨が!?お爺さんこれって」

O: 「うぉりゃあ!!」(青年からカップを奪い反対方向へ投げる)

Y:「何してるんですか!」

O:「うるさい!なんか文句でもあるのか!」

Y:「文句って…今のが動かぬ証拠ですよ!やっぱり嘘だったんですね!それにタピオカも全部飲みきらないで捨てるなんて!あなた人間のクズですよクズ!」

O:「なんださっきからタピオカタピオカって!タピオカなんて昔からあったじゃろ!」

Y:「昔って1990年代の話じゃないですか!その歳でタピオカまで飲んで!本当はお爺さん、流行に詳しいんでしょ!」

O:「そんなはずあるか!第一田舎は情報が遅いんだ。読んでるのなんて日経トレンディと東京カレンダーだけだ!」

Y:「最先端の紙媒体!道理でおかしいと思った!そうやって観光客騙して、良心が咎めないのか!」

O:「何が悪い!こっちだってな綿密なマーケティング調査とSNSの言語処理を用いて、どうやったらバイラルからバズへ変えられるのか必死に考えてんのじゃ!」

Y:「今バズるって!さっき知らないって言ってたのに!しかも俺より詳しい…」

O:「うるさい!もうこんなとこで話してても埒が明かない!近くに古民家を改装したオーシャンビューのカフェがあるからそこで話つけるぞ!」

Y:「いやここまで計算済みだったー!!!」
[暗転]

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〈後記〉

私の好きな曲・Galileo Galileiの「老人と海」を基にコントを書いてみました。優しくて心温まる歌なので読んで下さった方是非聴いてみてください!