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高らかに響くリブートの咆哮『トランスフォーマー:ビースト覚醒』

あらすじ

1995年のブルックリン、軍を除隊してから定職に就けず難病の弟の治療費にも頭を悩ませる青年ノアと、考古学者見習いのインターン生エレーナはひょんなことからトランスフォーマーの戦いに巻き込まれてしまう。星を食らう邪神ユニクロンを地球に呼び込もうとするテラーコンとそれを阻止せんとするオートボット、さらに古代から地球に潜伏していたマクシマルズも加わり、決戦の舞台は神秘の遺跡マチュピチュを頂くペルーの地へ。はたして地球の運命は……

以下ネタバレを含みます


「軽さ」と「文脈」を乗りこなした良作

『バンブルビー』からじつに5年ぶりの実写トランスフォーマー新作となった『ビースト覚醒』。
正直なところ本作、観る前はあまり期待値が高くなかった。前作にあたる『バンブルビー』は「ワーゲンに変形するバンブルビー」という要素にフューチャーし、レトロ趣味とジュブナイル性に絞った傑作だったが『最後の騎士王』の凄まじい大風呂敷に比べるとこじんまりした優等生感は否めず、一向に聞こえてこない次回作の構想に「やはりマイケル・ベイ路線からのリブートは失敗したのか……」という空気になっていたのが大きい。

そんな浮かない気分を抱えつつ、スクリーンの大きさを取るか子安イボンコを取るかで散々迷って前者を取った私の不安はアバンタイトルで吹き飛んだ。
マクシマルズの惑星にガッツリ牙を突き立てる『ザ・ムービー』まんまのデザインのユニクロン!!
G1と実写らしさが融合したべらぼうなスケールに加え、銀のゴリラ=エイプリンクをチョイスしてくるマニアへの目配せも忘れない。
「古代文明で崇拝されていた巨大動物の正体はマクシマルズだったんだよ!」「な、なんだってー!!」
この軽快なハッタリ!他にも「まるでインディ・ジョーンズだぜ」と自己言及するような地下遺跡も登場し、トランスフォーマーといえば冒険とトンチキ史観だろ!という欲求も気味良く満たしてくれる。
オプティマスプライムの変形を舐めるように映すカットや、残忍だけど妙な愛嬌のあるテラーコン三人衆(ユニクロンにパワハラされるスカージを眺める他二人のシーンが良い)などなど、全体的に「トランスフォーマーならこれは外せないだろ!」というファンサを抑えつつ、ボリューム過剰にならない程度の編集が利いている。コクがあるのに後味スッキリタイプだ。

令和のゴリラは優しく強い

本作最大の売りとなったビースト戦士・マクシマルズ。特にプライムとプライマルのダブルオプティマスのマッチアップがどうなるかは注目点だったが、ここに本作独自の妙があった。
7年の地球潜伏ですっかりスレて人間不信になっていたプライムと、超古代から人間と共生してきたプライマルが対比となり、視野狭窄になっていたプライム(とノア)を導いていく―――正直マクシマルズの面子についてはエアレイザーに描写を割きすぎた感はあるが、ここではゴリラの賢者性をもって短い時間でゲストキャラの格担保を行う良差配が光る。プライマルの方が人生の先輩というのも『ビーストウォーズ』やNetflix『キングダム』と逆の関係になっていて面白い。
特に好きなのはプライマルが人間を評し「彼らには目で見た以上(more than meets the eye)の力がある」と語るくだりだ。トランスフォーマーのプレイバリューを称える伝統のキャッチフレーズを、トランスフォーマーが人間を称える文脈で引用してくるとは!このシーンだけで本作が忘れられない傑作になってしまう。

続編に繋がってほしい

切ない終わり方にはさせねえぜ!とばかりにハッピーエンドで終わった本作だが、ユニクロンは次元の狭間に幽閉されたままだし、『バンブルビー』時空の続きを考えればこれからメガトロンが地球に攻めてくる余地もまだ残っている。マイケル・ベイ的な超大作になりすぎず、それでいて世界を舞台にしたハッタリも利かせられる物語フォーマットを完成させた『ビースト覚醒』の続編はぜひ見たいところだ。

スカイリンクス航空ただいま到着

最後に小ネタ話。中盤突然出てきて強烈なインパクトを残す輸送機お爺ちゃんストラトスフィアだが、これの元ネタは『リベンジ』公開時に発売された同名の玩具展開キャラだろう。(参考URL:ガンプラの山を崩せ様)

デザインこそ大きく異なるがオプティマスも乗れる大型輸送機という点は一致しているし、軍用機に変形する老TFというキャラ付けは同作のジェットファイヤーを彷彿させなくもない。
(これに限らず『ビースト覚醒』には『リベンジ』のオマージュ要素も強く感じた。やはり製作で関わるマイケル・ベイ的にもリベンジは不本意な出来だったのだろうか)

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