見出し画像

桜の秘密


すっかり春になり
手入れされた
明るい川辺に
今年も桜が咲いた
並木の下を
恋人たちが手を繋いで歩く
子どもは母親と手を繋いでいる

暖かな曇り空の下
真っ黒な林を背に
桜が妖しく映え
おいでおいでと手招きして
誘うように燐光している

わたしたちを
これほどまで
深く妖しく魅了する
桜には
秘密がある

夜になり
桜の老樹の根元から
呻く声が低く響く
果たされなかった恨みが
報われなかった祈りが
真っ黒な墨絵となって
浮かび上がる

朝になれば何処かへ消える
亡者たちの彷徨いを
桜たちは
根から吸い上げ続けている
吸えば吸うほどに
桜の炎は高く
美しく舞いあがる

舞い散る花に
水面は覆われるころ
青葉城の堀では
花見客の喧噪を
よそ目に
花筏の下
怨嗟の顔たちが
深く沈んでいく