月虹
ひとつでは在りえず
ふたつで初めて在りえて
ふえることをどこまでも許す
それぞれにとってのかたちへ
限られているたくさんのかたちへ
それは
元素のように互いに結び
そして
言葉のように呼び寄せる
決して昂ぶるものではなく
仄かに温かく甘い
かぞえることのできないひとつ
もしも
しあわせが自足しないなら
それぞれのかたちへ
たれかと在りえて始めて成されるなら
決して
それは凭れ合う石柱のような
重さでなく
色相の
溶け合う重なりの
移ろう色合い
遥かを見上げ
見惚れている眼差しを知らず
しあわせから離れて
ひとつきりの月が輝いている
願いがいつか透き
コバルトの凪に
月虹は微かに揺れる
ひとつとはなにか
観測者などまったく関せずに
美しさはいつも自足している