オルソップ指揮ウィーン放送交響楽団with角野隼斗@アクロス福岡
はじめに
これは、2024年9月11日にアクロス福岡で行われた、ウィーン放送交響楽団来日ツアー福岡公演の、備忘を兼ねた個人的な感想です。
曲目
ストラム
モーツァルト:戴冠式
ベートーヴェン:交響曲「英雄」
概要
最初にオケの方が入ってくるのですが、トランペット?の方2人、間違えて出てきたのか、舞台袖に引き返していました。初めて見た。
ピアノ協奏曲の前にコンマスさんなど数人が舞台袖に戻りましたが残りはステージに残ったまま。ピアノを中央に持ってくるのに邪魔になると気が付いて数人は立ち上がったものの、他はあまり動く気配がない。ステージの縁すれすれをピアノは運ばれていきました。
ピアノ協奏曲が終わると、角野さんとオルソップさんはハグして肩をたたき合い、お辞儀して舞台袖に消えます。2人で再び戻ってきてオケに拍手、オケの方を立たせて拍手して、2人は手をつないでそれを高く上げ、お辞儀。
仲良く舞台袖に戻ります。やがて角野さんだけステージに戻ってきて、何も言わず黙ってピアノの椅子に腰かけ、華麗なる大円舞曲を弾き始めました。演奏が終わってBravoの声にお辞儀をし、いったん舞台袖に戻り、再びステージに戻ってきてお辞儀をしていました。すでに客席の照明は明るくなっていましたが、再び角野さんが舞台袖に戻るまで拍手は続きました。
後半が始まる前の会場内のアナウンスで、カーテンコールは撮影可であること、撮影してぜひSNSなどに上げてくださいと話していました。
ベートーヴェン交響曲が終わり、いったん舞台袖に引き上げ、ステージに戻ってきたオルソップさん。指揮台へと歩きながら、客席に向かって腰のあたりで両手でハートマークを作っています。ご機嫌です。指揮台に上がり、客席に向かって英語で「アンコールを2曲弾きます。1曲目はこのツアーのアンコールのために作ってもらった曲。もう1曲はヨハンシュトラウスです」
アンコール最初の曲は現代音楽のような感じでした。
シュトラウスのシャンパンポルカは、非常に軽快なリズムと速めのテンポで、ノリノリに進みます。曲の合間でオケの方がかわるがわるコルク栓を客席に向かって飛ばします。1発目は左ブロックと中央ブロックの間の5列目あたりの通路付近に落下。中央ブロックに座っていた男性が立ち上がってわざわざ拾いに行っていました。2発目は、射手がオルソップさんにどけと腕を振って合図しています。オルソップさんが指揮台から降りて身をかがめると、ポンと2発目。中央ブロックあたりに高く上がりストンと落下し、中央ブロック6列目の左側の通路付近の女性の頭に当たり大きくはじかれて落下。3発目は右ブロックの3列目の右端あたりに、ライナー性の鋭い軌道で飛んでいきました。最後は、オルソップさんの出番です。不意に指揮をやめ、どこからともなくごそごそと細長い筒状の装置を取り出し、オケに向かって胸の前で構えます。客席からは丸見えです。さあくるぞ、最後は大将だという愉快そうな笑い声が客席で上がります。ふいっとオルソップさんは客席を振り返り、オケの演奏が終わると同時にポンと打ち上げました。中央ブロックの中ほどまでコルクは緩やかな放物線を描いて飛んでいき、紙吹雪が舞いました。笑い声と歓声、盛大な拍手。オルソップさんはカーテンコールに1度現れ、上機嫌でお辞儀をし、コンサートは終わりました。
感想など
ストラムの序盤は、ヴィオラの方が、楽器をまるでウクレレかギターのように膝の上で横向きに構え、指で弦をはじいて演奏していた。はじめ、ウクレレを弾いているのかと思った。途中で顎の下にはさんで弾き始めたので、ヴィオラだったと思った。
モーツァルトの戴冠式。1楽章は、軽快に速いテンポでどんどん進みます。4小節で1つのフレーズのまとまりとして流れるように聞こえるようなテンポ設定になっていると感じました。角野さんは指が動くからいいけど、金管楽器やコントラバスなどの大きな楽器はついてこれるのかな?と思ったのですが、全体的にとても軽い演奏で、大音量を轟かせ力を込めてたっぷりとタメを作って弾くということは、しないようでした。オケが軽いので、角野さんのピアノの音がよく響いて聴こえました。
角野さんのピアノの音色は、楽章ごとに違っていました。1楽章は上品で柔らかい。2楽章は、透き通って美しく響く。3楽章は軽快にはずんで、流麗。
1楽章の冒頭のオケの部分は、角野さんはオケの方に上半身を向けて聴いているようで、弾いていなかったと思います。昨年は最初からオケと一緒に左手で弾いていた(楽譜には小さな音符で左手だけ書き込みがあり、それに沿っているようでした。弾かなくてもよい)。ピアノソロは、昨年と同じように、同じモティーフが繰り返されるとき、2回目に装飾音を入れたり、単音をアルペジオにしたりしていました。カデンツァは、メインテーマをもとにアレンジ。モーツァルトのピアノソナタKV.545の1楽章の主題が少し混じっていたような気がしました。しかし昨年のようにラプソディーインブルーまでは脱線していかなかったと思います。途中で少し長めのトリルをしたので、それをカデンツァの終わりの合図と感じ取ったコンマスや第1ヴァイオリンの方がさっと楽器を肩に載せました。オルソップさんもそれを見て指揮棒を上げたのですが、角野さんは弾き続けています。なんだ、まだだったのか・・という表情で楽器を膝におろすヴァイオリンの皆さん。オルソップさんも指揮棒を下げました。ははあ・・角野さん、毎回違うカデンツァを弾いているな・・と思った一コマでした。あまり長くはならずカデンツァは終わり、1楽章は終了。
2楽章は、角野さんのピアノソロから始まります。とても澄んだ美しい音色で、天から降り注いでくるかのようでした。中盤まではほぼ楽譜通り。中間部に差し掛かり、まず最初の単音をアルペジオにし、たまに装飾音をつけ始めます。そしてやはり、中間部の最後、フェルマータのところで、何やらプチカデンツァを始めました。スケールのようなフレーズです。ここの楽譜にはカデンツァの表記はありませんが1小節まるまるフェルマータで、続く個所はピアノソロなので、自由が利くのかなと思いました。オケもオルソップさんも驚く様子もない。そこが過ぎて、オケの箇所に入り、楽譜ではピアノソロは左手に小さな音符が書かれているだけのところで角野さん、2・3小節くらいずっと、右手のトリルをしていました。そのトリルが煌めくような美しい輝きで、素敵でした。
3楽章も、ピアノソロで始まります。どこかしっとりした美しさだった2楽章とまた表情が変わり、軽やかにはずんで明るい響き、切れとノリの良い指さばきです。3楽章のカデンツァは、昨年同様メインテーマではなく直前のフレーズをアレンジするところから始まり、中間部のフレーズにつないでいました。エルガーの曲に似ていると言って昨年はそこを少しエルガー風に弾いていましたが、今回はそのようなアレンジはありませんでした。あまり脱線することなく、クラシックの王道という感じのあっさりとしたカデンツァで短めに終わり、ピアノソロに入る。ピアノソロの終わりに差し掛かりタイミングばっちりにヴァイオリンが準備をし、オルソップさんも指揮をはじめました、よし、いい感じ!ぴったり合った!という声が聞こえてきそうでした。
全体として角野さんのピアノの音がクリアによく響いて聴こえました。可愛らしいモーツァルト。ピアノはお行儀よく、昨年ほどは暴れませんでした。オケに遠慮というか、あまり脱線するとひかれてしまうかも?というのもあるかもと考えました。1楽章と3楽章のカデンツァは、昨年に比べるとスタンダードで、長さも半分くらいだったと思います。昨年は自由奔放に、1楽章のカデンツァでは、どこまでいくのかな、と戴冠式であることを忘れるくらいアクロバティックに即興を次々と繰り出し、ラプソディーインブル―なども出てきて、忘れたころに突如戻ってくる、という感じ。3楽章は、どんどん転調してジャズなど色々なジャンル・時代の音楽を縦横無尽に目まぐるしく駆け抜けていました。楽しかった。ここはエルガーに似たフレーズでしょ?というオケへのメッセージもありました。今回おとなしいと感じたのは、そうした昨年の記憶が頭の中にあるからかもしれない。2楽章は昨年より少し自由に弾いているように感じました。プチカデンツァは、昨年と同じ個所で弾いていましたが、その後の長めのトリルはなかったと思います。そもそもそれら(カデンツァと長いトリル)は、2楽章の楽譜にないのです。
なぜこの曲にしたんだろうと最初思っていたのですが、演奏を聴いて、オケと角野さんの軽快かつ繊細に美しく響かせる演奏スタイルにぴったりだからなのだと納得しました。
アンコールの華麗なる大円舞曲、本当に華麗でした。表情豊かで、ダイナミックで美しい。滑らかに回転する指。危なげなく安定していて、かなり練習したのではないかと感じました。
おわりに
可愛らしく美しいモーツァルト、表情豊かで見事なショパン、コルクがポンポン飛んで愉快なアンコール、楽しかったです。
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