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角野隼斗ピアノリサイタル@日本武道館2024.7.14



はじめに

2024年7月14日、日本武道館での角野さんのピアノソロリサイタルに行きました。これはその備忘を兼ねた、とりとめのない感想です。長すぎますがご容赦ください。(書き直す可能性あり)

会場まで

16:25ころ九段下駅に着いた。ホームに出ると人ごみで先に進まない。武道館方面の改札を出て少し進むと長い列が。数十メートル先にある女性用お手洗いから伸びた待ち列だった。

とにかくお腹がすいてたまらないので少し食べ、櫓門と田安門をくぐって武道館正面へ。正面入り口に掲げられた表題上の写真のようなボードの下、色鮮やかなスタンドフラワーを見ながら館内に入った。

会場内

開演15分前には自席についた。客席は、中央に設けられた八角形のステージをぐるっと取り囲むように配置されていた。私の席は西側、当初ちょうどピアノの鍵盤側で、弾く角野さんの背中側から見る形だった。

舞台の上にはグランドピアノが1台。その上部に照明や大型スクリーンが掛けられていた。スクリーンには、アニメーションでスライドショーが繰り返し表示される。SuminoHayato2024.7.14の文字がタイピングするように1文字ずつ現れ、次に右側中央付近にCareenのサイン、最後に画面中央に角野さんの横向き上半身のシルエットが浮かび上がり、しばらくするとシルエットとサイン、文字の順に消えて真っ白の画面に戻る、の繰り返しだった。

MCと概要

プログラム
ショパン:スケルツォ1番
ショパン:ワルツ14番
ショパン:エチュードOp.25-11「木枯らし」
角野隼斗:24の調によるトルコ行進曲変奏曲
リスト:ハンガリー狂詩曲
角野隼斗:HumanUniverse
即興タイム
角野隼斗:追憶
角野隼斗:3つのノクターン
ラヴェル:ボレロ(角野隼斗アレンジ)
アンコール
バッハ:主よ、人の望みの喜びよ
ハッピーバースデーソング
ショパン:ポロネーズOp.53「英雄」

結局18時10分ころに開演を知らせるブザーが鳴り、それまでざわついていた会場は一気に静まり返った。黙って角野さんの登場を待つ13000人の観客。

アリーナ北側に黒いカーテンが張り巡らされ、ちょうど北側の中央あたりからステージに向かって黒いカーペットが敷かれている。そのカーペットの先にあるカーテンのあたりにスポットライトが当たり、するっとカーテンが開いて角野さんが躍り出てきた。拍手の中ステージ脇の階段を駆け上がりステージを横切り、正面となっている南側に向かってお辞儀をした。髪型はショパンのようにくるくるとパーマがかかり、白のシャツに黒の蝶ネクタイ、黒のジャケット。

ショパンのスケルツォ1番を勢い良く弾き始めた。続いてワルツとエチュードの木枯らし。照明はシンプルに角野さんをスポットライトで照らす感じだった。

ショパンを弾き終えた後のMC

武道館へようこそ。今日という特別な日を、特別な場所で迎えることができてとても光栄です。ありがとうございます。
センターステージということで360度お客さんに囲まれて、ここから見える景色は本当にすごいものですよ。
今日の武道館でのコンサートは、自分が音楽を始めた時からの歩みを振り返る集大成のような、また、未来にもつながるコンサートにもしたいと。自分にとって一生忘れられない思い出になると思う。ここにお集まりのみなさんも、忘れられないコンサートになるよう頑張りますので、どうか最後までお楽しみください。

舞台上を正面から西側に移動しながら話を続けます。

最初はショパンの曲を弾いたのですけども、これは小学生の時から弾いている曲で

(すると少しの間があって客席から笑いが起きる)

「?。ここは笑うところかよくわかりませんが・・
安心してください、長くはならないので」

どうやら客席から起こった笑いを角野さん、「小学生の時までさかのぼって、自分史を長々と語る気なのか?」という皮肉と捉えたようでした。

僕は理系の大学に進んで、音楽家になると決めたのは遅くて、4年くらい前でしたが、コロナなどもありコンサートができなくてYouTubeを主にやっていて

(僕はそれからコンクールにも出て・・と何か話していたと思いますが忘れた。このあたりの記憶があいまいです)

ぐるっとピアノの背後に回り北東方面に向かって

「こちらの方は、ピアノの鍵盤が見えないじゃないかと思っているかもしれませんが、安心してください。このステージ、回転します」

するとステージがゆっくりと回転し始める。なかなか止まらない。

回っている間次の曲の話をしようと思いますが

ステージは180度回転して停止。

「あ、止まった。

次は24の調によるトルコ行進曲変奏曲です。この曲は僕が作った曲で、トルコ行進曲を24の調すべてを使って変奏するという。何日か前にYouTubeに上げたもので、ツアーでも弾いたのですが。転調するたびにライトの色が変わるということで。

ステージを照らす照明が最初は青くなり、八角形のステージを縁取るように配置された照明が、転調するたびに鮮やかに変化していきます。

その次はリストのハンガリー狂詩曲。超絶技巧を駆使し、非常に愉快そうに弾いていました。舞台が回転したため鍵盤とは反対側になり、マレットで弦を叩いたり、タオルで弦を押さえたりしていたと思うがよく見えませんでした。

(蛇足:ただこの曲の最中に隣の方が首から下げたスマホから音楽が鳴りだし、鳴りやまないので周囲の人が振り返り集中できず、後半の記憶がないのが残念。)

MC↓

ありがとうございました。ハンガリアン・ラプソディーでした。

僕は10月にアルバムをリリースするのですが、HumanUniverseという。次はその中から1曲お送りしたいと思います。昔は宇宙には人には聞こえない音楽があると信じられていて、そのことに興味を持っていて、それで作った曲です。

僕はこう見えても理系だったことがあって、見えるか。ぼそぼそしゃべってね、もっとはっきりしゃべりたいと思うんですけど。数学って美しいと思いませんか?思わない?思いますよね?特に美しくしようとしてなくても法則や数式は美しいと思う。それは自然や宇宙を見ていても同じことを感じるし、音楽に対してもそう思うことがあって。
昔の人は、美しいモノを作るではなくて、宇宙の外に探しに行くものだと思っていたらしくて。その考え方が素敵だなと思ったんです。でもまあ僕という人間が作るので自分の感情も入る。自分という最も近い存在に向き合い、宇宙という最も遠い世界に思いをはせる、そんな気持ちで作りました。聞いてください。

(演奏)

バッハのような静かな旋律が、静まり返った会場に響きます。ステージは青いライトに照らされ、ピアノの上部、四方に向けて設置されたスクリーンの内側にあるミラーボールが光りながら回転し始めました。青いライトが周囲を満たし、会場内が無数の星で満たされるような照明の中に、静かに語りかけるようにピアノの音が訥々と染み込んでいく。最後は静寂を味わうように静かに終わり、最後の音が鳴り終わって静寂に包まれ、角野さんが鍵盤からゆっくり手を離すと少し間があって拍手が鳴り響きました。角野さんの世界観、演奏の余韻を壊さない、これぞ角野さんの観客ともいえる場面だったかもしれない。

何も言わずお辞儀をした角野さんは、花道を通ってさっとカーテンの向こうに消えました。

20分間の休憩というアナウンスがあり、スクリーンには次の即興のYouTubeライブのアドレスを埋め込んだQRコードが映し出され、消音にしてお楽しみください、と画面の下部に書かれています。QRコードを読み込むと、YouTubeの待機画面が現れました。チャット欄にはたくさんのコメントが流れていきます。おお、アップライトが出てきた、というコメントを見てステージを見ると、武道館の横にある中道場に展示されていた「かてぃんピアノ」が運ばれてきて、ちょうど舞台に乗ったところでした。シンセサイザーも登場し、最後にグランドピアノの蓋が取り外され、運ばれていきました。蓋が邪魔をして見えないお客さんを減らそうという配慮にも思えました。

花道の入り口。北側の舞台袖にスモークをたく機械があり、会場内にもやのようにスモークが充満していきます。これも演出の一つのようでした。内部奏法も含め、使用している楽器がすべて角野さん個人の持ち物だからこそできるのかもしれません。

ーーーー

後半最初の舞台の正面は西側でした。開演のブザーが鳴ると角野さんが北側のカーテンの向こうからトイピアノを大事そうに抱えて出てきて花道を通ってステージに上がり、トイピアノを床に置いて胡坐をかいて座りました。スクリーン右下に、赤に白抜きで「LIVE」の表示が現れました。

角野さんはトイピアノを弾き始めます。まずチャンチャンと3分クッキングの冒頭を少し弾いてちらっと客席を見る、お客さんが笑うとさらに続けて弾きます。次にガーシュウィンのラプソディー・イン・ブルー。チンチンと澄んだオルゴールのような音が、にぎやかに鳴り響きます。音域も鍵盤も狭いトイピアノでこれだけの曲を演奏できるのは、普通では考えられない。


弾き終わるとトイピアノを持って立ち上がり、シンセサイザーの横の台の上に置きました。

みなさんこんにちは。配信の皆さんもこんにちは。

せっかく武道館にいるので、YouTubeライブでもしようかなと思って。近頃サボっていましたからね。普段は自宅からしているのですけど、今日は家からこのスタインウェイとアップライトとシンセサイザーを持ってきて、ここでYouTubeライブをしようと思います。

と話し、グランドピアノを弾き始めます。

最初は1分間の砂時計から。ガーシュウィンのアイガットリズムやラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌ、リスト=サンサーンスの死の舞踏、カプースチン:トッカティーナ、バッハのインヴェンション13番、千のナイフの後にLive in This way (この2曲は似ていると思った)などを弾き、最後に胎動の旋律を和音でシンプルに奏で始めました。やがて和音がアルペジオになり、譜面通りのダイナミックな演奏へと展開していきました。

たまに弾くシンセサイザーの音は、ピアノと違ってクリアにはっきり聞こえ、天井付近のスピーカーから降り注いで会場を満たしていくようでした。

ありがとうございました。配信の皆さんもありがとうございました。配信の皆さんはここまでということで。配信の皆さんに武道館がいかに盛り上がっているか教えてあげてください。皆さん、盛り上がってますか?と言ってマイクを客席のほうへ向けます。うおーという声と拍手、指笛。

ありがとうございました。会場の皆さんは引き続き盛り上がっていきましょう。

というと、スクリーン上に出ていた「LIVE」の表示が消えました。

ステージが180度回転し、アップライトで角野さんの姿が覆いつくされてしまいました。かろうじてたまに頭だけが見える感じです。

「次は追憶を弾こうと思います。これはポーランド郊外のあるところで思い浮かんだ曲で、ショパンのバラード2番にインスパイアされた曲です。」

(演奏)

「次は3つのノクターンです。僕はありがたいことに世界中いろんなところに行ってコンサートをする機会があるのですが、その行った先で世界のいろんな夜空を見ながら作った曲です。どこの空かと想像しながら聴いてください。どこの空とわからなくても、空はつながっていますからね。」

ノクターンが終わりお辞儀をする角野さん。

ステージを含め会場が真っ暗になった。

かすかに、しかししっかりと刻むリズムが聞こえてきた。ボレロ。アップライトで弾いているようで、そのあたりにうっすらと青い照明がともる。グランドピアノやシンセサイザーなどでも弾きながら、次第に音数が増え、ボリュームも厚みもアップし、派手ににぎやかになってくる。それと同時に照明も次第に明るくなっていく。中盤、照明が燃えるような赤になり、アレンジが始まった。スネアのリズムはそのまま残し、ボレロとは違うフレーズが次々と現れ、展開していく。しばらくアレンジを弾いたのち、おなじみのボレロの旋律がさらにダイナミックに力強くなって戻ってきた。終盤に差し掛かると、ステージがゆっくりと回転し始め、それに呼応するかのように、角野さんの演奏も白熱し、ボルテージが上がっていく。最後は渾身の力で激情をほとばしらせ時折肘でも鍵盤を打ちながら、フィニッシュ。演奏が終わると同時にすべての照明が消え、会場は再び真っ暗に。照明がつくと拍手と歓声。ステージは南側を正面にして停止していました。角野さんはお辞儀をし、花道を通って舞台袖に消えました。

会場は盛大な拍手。しかしなかなか角野さん、出てきません。その間もずっと拍手は鳴り続けています。

しばらくして、ジャケットの下をTシャツに着替えた角野さんが現れました。花道をまるでスキップするかのように軽やかな足取りで進み、ステージに駆け上がり笑顔でお辞儀をして、アップライトピアノなどでバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」を弾きました。

「ありがとうございました。

さっき、前半に僕の背中にセミがとまっていたという話をしたんですけど、またセミが今度は楽屋までくっついてきていて、今度は足についていて。どんだけ僕のこと好きやねんて。

グッズのTシャツに着替えてきました。グッズ紹介はしませんが。一つ言わせてください。タオルハンカティンは僕がつけたのではないです。スタッフにやらされていますね。デザインがダサいですよね。まあ今回武道館公演ということで、頑張ってたくさんグッズを作りました。ああそれで、一つと言いながらまだ言いたいことがあるんですけど。

881024というのは何という質問を受けるので、答えたいと思います。なんだと思いますか?

お客「隼斗24公演目」

おお、頭がいいですね、そうです、8810は隼斗、24は、僕はソロツアーをやっていまして、今回で24公演目という、それから今年は2024年ということで、24に思い入れがあるんです。

あと、天井を見てください、武道館は八角形なんです。八角というのは、八が隼斗の八。角は角野の角ということで、武道館は実質、隼斗角野といっても過言ではないと思います。

(笑いと拍手が起きる)

僕は音楽家になろうと決めたのは遅くて、このピアノを買ったのは4年位前でしたが、そのくらいに決めたと思います。それからコロナがあってYouTubeに動画を上げるというのをずっとやっていて。この半年、1年くらいの間に、僕の周りがどんどん変化して想像もしなかったことが次々と起こって、まさか武道館でコンサートすることになるとは思っていなかった。このピアノもここに連れて来られるとは想像していなかったのではないかと。今日僕がここに立てているのも、みなさんが僕の演奏を聴いて楽しんでくれるからであって、ありがとうございます。皆さんに少しでも還元できるようにこれからも全力でやっていきたいと思っていますので、みなさん、僕についてきてください!

盛大な拍手が起きました。

今日という日をここ武道館で迎えることができで。本当に幸せ者だと思います。

お客:お誕生日おめでとう!

「ありがとうございます。そう、今日は僕の誕生日で、いつ言おうか自分から言いだすの変だとわかっているのですが、あの、こんなに多くのみなさんに祝ってもらえる機会もこれからそうはないと思いますので、みなさん、ハッピーバースデーを歌っていただけませんか?」


手拍子が始まり、慌てて角野さんはグランドピアノに向かい、椅子に腰かけ弾き始めます。その手拍子が若干遅かったため角野さん、前奏を弾きながら少しテンポを上げる、お客さんの手拍子がぴったり合させてついてきます。

ハッピーバースデーディアはやとー

のところで、スクリーンに映った角野さんの映像にバーチャルで紙吹雪が舞い、HappyBirthdayの字幕が現れます。それを見たお客さんの笑い声が起きました。

角野さんは鍵盤からいったん手を放して両手を振り上げ、指揮をし、次のハッピーバースデーの入りもばっちり揃いました。

歌が終わり拍手が起きると、「ありがとうございます」と笑顔でお礼を言い、そのまま英雄ポロネーズを弾き始めます。最後のアンコールです。華やかに抜群の安定感で弾き切りました。私自身は興奮のあまり、この曲の演奏についてあまり記憶がありません。


演奏が終わって立ち上がりお辞儀をし、ありがとうございました、と言って、ペンを取り出してグランドピアノにつかつかと歩み寄り、ピアノの内部のフレームのところに、「Thank you!」、加えてHayatoSuminoCateenのサインと今日の日付を書き入れました。スクリーンにその様子が大きく映し出されました。

お客さんは立ち上がり、盛大な拍手と歓声。

角野さんはお辞儀をし、花道を通って消えていきました。これで公演は終了でした。

(細かいMC、話の順序やコンサートの流れなどは忘れているところがあります、ご容赦ください)


感想など


席とスクリーンについて

会場に入ってまず目に飛び込んできたのは、会場中央のステージの上部、天井近くに東西南北の4方向に向かって設置された計4枚の巨大なスクリーン、これに弾いている様子が映るのだろうか?と期待しました。期待通りで嬉しかったものの、スクリーンに映る手元の動きと実際に聞こえる音があっていない。映像が1秒程度遅かった。手元は映るけども音と合わないので見ないことにしました。しかし映像の解像度は高く鮮明で、クリアに詳細がよく見えました。プログラム最初のショパンのスケルツォの時、ふいにピアノの内部が映し出され、Bモデルと分かり(製造番号まで鮮明に見えた)、フルコンではないのか?と不思議に思いました。それで響きがいまいちなのかともその時考えました。後のMCでわかったことですが、これは角野さんがご自宅にある愛用のスタインウェイピアノを運び込んで弾いていたのでした。これはご自宅のピアノであることを確実・鮮明に記録する映像でもあったわけです。


席は当初、ちょうど角野さんの背中側でした。少し遠いけれど見えなくもないかなとその時は思いました。しかし、「安心してください、このステージは回転します」というMCとともに回転、見事に鍵盤と反対側になってしまったのでした。しかしその後も何度か回転し、様々な角度から演奏を楽しむことができました。

演奏のことなど

冒頭のショパンの3曲は。硬さというか、ぎこちなさを感じました。角野さんの背後の席だったからか、音が小さめで響かないというか、鈍いというか。あっさりとして生の音に近い感じの音がダイレクトに聞こえてくるような印象でした、どちらかというと、小さなサロンでプライベートに弾いているのを間近で聴いているような、不思議な感覚でした。コンサートホールの残響のある響きに慣れてしまった耳には、響きがやや物足りないというか。

スケルツォと木枯らしは、ショパンコンクールのYouTube動画で何度も観ていたのですが、ワルツは初めて聞いたような気がしました。

響かないのでどこか慣れない感じにも聞こえ、しかもここぞというところで音を外すのでそれが目立ち(プログラム初めのショパンは3曲とも1度は派手に音を外した気がする)、大丈夫だろうか、練習する時間がなかったのかしらと少し心配になりました。最近のコンサートでは完成度が高くばっちり仕上げてきていたから。考えてみると、武道館に当日の朝入り、舞台設営や機材などを設置してリハーサルをして、となると時間がかなり限られていたはず。しかも、かてぃんピアノは場外の別の建物内に展示する予定だったので、先にリハーサルをして運び出し、とやっていたのかもしれない。

しかしスクリーンに映し出される角野さんの表情は明るく楽し気で、ここで弾けて嬉しくてたまらない、という喜びに満ち溢れているように見えました。あまりに嬉しそうに弾いているので私は幸せな気持ちになり、あんなに嬉しそうに弾いているならと、気にしないことにしました。

この曲を弾き終わって、マイクを持ち語り始めました。ステージ上をあちこちさまよいながら。そのおかげで姿がよく見えてうれしかったのでした。

ショパンの3曲は、小学生のころ弾いていた曲、と話したときに起こった客席の笑い声、角野さんは?という表情で、私も?でした。角野さんは、小学生までさかのぼって自分史を延々語る気なのか?という皮肉と取ったようで「大丈夫です、長くはならないので」と付け加えていましたが、後で会場レポートを読んでいると、「あんなに難しい曲を小学生で弾いていたのか?」という笑いとどよめきだったということらしかった。

ステージが回転したために手元は見えなくなったものの、弦や響板には近くなりました。そのためか、はたまた角野さんの性に合っているのか、次のトルコ行進曲変奏曲もリストのハンガリー狂詩曲も、ショパンとはうって変わってのびのびと迫力ある美しい音がよく響いて指も滑らかに回り、角野さんの本領発揮という感じでした。

24の調によるトルコ行進曲変奏曲、

私のいた席は、ステージが回転したことで角野さんの表情が見える席になりました。ピアノの音が豊かに響いて、多彩な音色が飛び込んできます。よどみなく生き生きと滑らかに回転する指、慣れ親しんだトルコ行進曲のテーマが、次々と転調しそのたびに表情を変え、様々なパッセージに生まれ変わる。迫力満点で。時に繊細に、時にパワフルに盛り上がって。

トルコ行進曲変奏曲は、個人的には変イ長調からホ長調への流れがしっとり美しいのと、チャイコフスキーのピアノ協奏曲1番1楽章が入るニ短調とその前後あたりが、ドラマチックでひかれます。会場で聴くとさらにドラマチック、ダイナミックでしびれた。とても素敵な曲。

その次はリストのハンガリー狂詩曲。これもノリと切れが良く、音色も美しい。超絶技巧のパッセージを次々と豪快に決め、カデンツァも素晴らしかった。最高でした。

鍵盤は見えませんでしたが、スクリーンに表情や鍵盤は映し出される。相変わらず映像が音と合っていないけれども。ふと見ると、磨き上げられたピアノの天蓋に角野さんが弾く様子が映っています。腕から上が見えました。これもなかなか面白いと思ってみていました。

ハンガリー狂詩曲は、踊りだしそうなくらい楽し気に弾んで、超絶技巧をものともせずに、勢いよく駆け抜けていきました。中間部のカデンツァは今までとまた違った感じで品があって華やかでした。内部奏法を時々していたと思うけれども・・(残念ながら、隣の席の方のスマホから何かの音楽が鳴り続け集中できず記憶があいまいです)

HumanUniverseは、バッハのゴルトベルク変奏曲を彷彿とさせる静かな旋律で始まり、中間部は盛り上がって静かに終わる。照明は、スクリーンの内側にあるミラーボールが回転し、紺色に照らされた会場に無数の小さな光の粒の渦を浮かび上がらせる。それは、宇宙の中の無数の星を表現しているようでもありました。

演奏が終わって最後の音が静かに消えて少しして、拍手が起こりました。音が静かに消えた後の静寂もこの曲の一部であること、それを味わうかのように。神秘的な静寂でした。

即興は、トイピアノから。トイピアノのような少ない鍵盤数で、ガーシュウィンのラプソディー・イン・ブルーがそれらしく弾けてしまうのかと驚いた。オルゴールのように軽やかに。その後、いつもの角野さんのYouTubeライブを生で見ているようでした。連想が連想を呼んで、次々と様々なジャンルの曲が絶え間なく湧き出て違和感なくつながっていく。目まぐるしく変わるアレンジ。まるで言葉で会話するように、角野さんはクラシックをベースにピアノの音で自由自在に語れる、たぐいまれな才能があると思います。

胎動の、最初はシンプルに和声進行だけを取り出したようなメロディーと和音だけではじまり、次第に楽譜通りのアルペジオに移行する展開は、ダイナミックで素晴らしかったです。

たまに弾くシンセサイザーの音は、ピアノと違ってクリアにはっきり聞こえ、天井付近のスピーカーから降り注いで会場を満たしていくようでした。

その後ステージが回転し、ノクターンや追憶はアップライトの向こうにたまに頭だけが見えるという感じでした。1番も3番も何かに似ていると思ったけれど思い出せない。3つのノクターンの2番目は、やはり「秒速5センチメートル「桜花抄」/ 想い出は遠くの日々.」に似ていると思った。どれも静謐な神秘的な曲でした。

追憶は序盤がアレンジされていて、冒頭の感情が炸裂するような破裂音がなかったし、静かに穏やかに進んでいった。冒頭部分のメロディーを支えるシンセサイザーによる和声進行はOrdinary days(Milet)の前奏部分に近いと思った(というかそのままでは?)。途中まで別の曲のようでした。バラード2番風のフレーズが出てきて、これは追憶だったと思いだしました。途中でほんの少し、ショパンのワルツ14番(遺作、KK IVa.15(B.56))中間部のフレーズや、チャイコフスキーのピアノ協奏曲1番2楽章のピアノソロ冒頭のメロディーがふっと現れ、消えていく。照明は、夜の海底で、揺れる水面を通して差し込む月の光を見ているかのようでもありました。

会場の照明が真っ暗になり、小さく何かを叩くリズムでボレロとわかります。始まりの演出はツアーの時と似ていると思いました。大きすぎることもなく小さすぎることもなく、ささやくようなしかししっかりとした足取りのリズムを刻んで、ボレロのおきまりの旋律がそれに乗る。ピアノのあたりがうっすらとライトに照らされて青く光っているようだけれども私の席からはよく見えない。次第に音数が増えてダイナミックになっていった時不意に照明が赤くなったのは、ボレロのアレンジが始まる合図だったような。個人的には1度聴いただけではあまりピンとこないというか、そのまま終盤に入ってもよかったのではとその時は思ったけれど、わからない。心の準備ができてなかったためそう聞こえたのかもしれず、また聴いたら違って聞こえるのかもしれない。アレンジが終わりボレロの旋律が戻ってきて、終盤に入ってステージが回転し始めた時は、まるでサーカスを見ているような気分でした。クライマックスに向けてボルテージが上がり、どんどん激しく情熱的になっていく演奏と、それを煽るようなステージの回転。回転してくれるお蔭で、ボレロを一心不乱に弾く角野さんの姿を様々な方向から見ることができ、衝撃だったし嬉しかったです。激情が爆発するようなフィニッシュとともに照明が落ち、会場は真っ暗になったのはツアーの時と同じ演出で。しばらくして照明がついて角野さんはお辞儀をして、盛大な拍手の中ステージを降りて行きました。回転するステージと、その上で一心不乱にボレロを弾く角野さん。一生忘れられない光景でした。

拍手は鳴りやまないけれど角野さんはなかなか出てこないので、これで終わりなのだろうかと思ったりもしました。

しばらくしてステージに戻って、主よ、人の望みの喜びよを弾いた後、セミが楽屋までついてきていたと話すので、グッズのTシャツに着替えるのと同時にセミと楽屋で話していて遅くなったのかと合点がいきました。セミを捕まえてどこに連れて行こうか、窓から外に出そうかと楽屋をあちこちさまよう角野さんの姿が思い浮かぶようでした。後でわかったことだが収録も入っていたようなので、何か楽屋付近で撮影をしていたのかもしれない。

MCで、グッズのことを話し始め、タオルハンカティンは僕がつけたのではない、スタッフがやっていると強調していて、そうだろうなと思いました。デザインもダサいと本音を語り、それも同感だったので、同じことを考えているのかと親近感というか。角野さん自身が作った、Cに猫の耳がついたCateenのロゴのデザインのほうが、よほどおしゃれで素敵だと思う。キーホルダーになっていたけれど。

突然いいタイミングで誰かが「お誕生日おめでとう」と言ってくれたおかげで、角野さんは自分から言い出すタイミングがつかめなかったと言いつつハッピーバースデーを歌ってくださいと話して、手拍子が始まったのだけども、そのやや間延びした手拍子を前奏でうまくコントロールしているのはさすがだと思いました。その流れでハッピーバースデーを角野さんの伴奏で会場全員で歌えて嬉しかった。スクリーンにHappyBirthdayの文字と紙吹雪が舞ったので、角野さんとの打ち合わせであらかじめ準備された演出なのかとその時は思ったけれど、実際は違ったらしい。ハッピーバースデーの後そのまま、角野さんお得意の英雄ポロネーズを危なげなく弾きこなしてピアノにサイン。私自身気分が高揚していたので、どんな演奏だったのか細かいことは覚えていません。たぶんハッピーバースデーを歌ってもらった後、恥ずかしいので、そのまま英雄ポロネーズに行ったのだろうと角野さんの大学時代の同期の方が話していて、なるほどと思いました。この曲はたいてい嬉しい時に弾くようだから。

規制退場の間、角野さんがピアノのフレームに書いた、Thank youの文字とサインがスクリーンに大きく映し出されていたことを後で知りました。写真に撮りたかったです。

おわりに

全体として、楽しかったです。

何より、角野さんが嬉しそうに(高揚して)弾いているのを見て、幸せな気持ちになりました。

ありがとうございました!

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