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ヒュギーヌス『天文学について』(第2巻)翻訳⑨ケーペウス(ケフェウス座)

ケーペウス

 エウリーピデースやその他の者たちは、ケーペウスはポイニクスの息子でアイティオプス人たちの王であると説明している。彼はアンドロメダーの父であり、アンドロメダーがケートスに差し出されたくだりが語られている物語は非常に有名である。そしてペルセウスが彼女を危機から救い、妻とした。ゆえに、ペルセウスとアンドロメダーの一族全体を永遠なるものとするために、このケーペウスもまた古の人々によって星々の間の一員として列せられるようになったという。

・エウリーピデースやその他の者たちは…:「アンドロメダー」の回でも言われていますが、エウリーピデースは『アンドロメダー』という作品(散逸)を書いています。
 
・ポイニクス:エウローペー(ヨーロッパの語源になったとされる女性、「牡牛」参照)の兄弟に同名の人物がいますが、通常はケーペウスの父とはされません。ただしケーペウスの妻カッシエペイアはポイニクスの父アゲーノールの妻であるとされることもあり、そこらへんが混同されたんでしょうか。なお、「ポイニクス」は「フェニキアの」という意味で、神話上はフェニキアにその名前を与えたことになっています。ケーペウスはアイティオプス人の王、すなわち遠い異国の王ということで、そういう意味でもポイニクスと被るところがあって近しい関係とされたのでしょうか。また、ケーペウスの父は通常はベーロスという人物とされるのですが、ベーロスという名前はセム語由来で、ヘブライ語バアル(主人)などに関連する名前らしいです。そのためケーペウスの父以外にも東の国の古い王様の名前として「ベーロス」はよく使われるということです。つまりポイニクスにしてもベーロスにしても、「なんか遠い国の王様の先祖としてそれっぽい名前」的に雑にあてがわれた、って感じでしょうか。
 
・アイティオプス人:「アイティオプス人=エチオピア人」としてしまうのは若干の問題があるのでエチオピア人とは訳しませんでした。この辺りの事情は『カタステリズモイ』の注で書いておきましたので参照ください。
 
・ケートス:該当する星座は「くじら座」とされていますが、クジラじゃなくて海の怪物。該当の回および『カタステリズモイ』の注をご参照ください。


 ケフェウス座ことケーペウスについては常々、「ペルセウスやアンドロメダーはわかるけどなんでこんなチョイ役が星座に…?」と思っていたんですが、本文によればペルセウス・アンドロメダー一族だから、というちょっと合理的?な理由が述べられていますね。
 
 しかもこんな理由をわざわざ書くくらいだから、ヒュギーヌスも「なんでこんなチョイ役が…?」と思っていたんでしょう。そう思ってたのは自分だけじゃなかったんだ…!と妙に安心しました。勝手な推測でこんなこと思うのもなんですが。