見出し画像

[酒スト編集後記] 西出酒造(春心) -日本酒造りと乳酸菌-

酒スト編集後記として、SAKE Street記事のこぼれ話的な話をnoteでご紹介していきたいと思います。
初回は直近公開したこちらの記事についてです。

(編集後記といいながら、いきなり編集でなく執筆した記事で我ながら心配になります。)

西出酒造さんにお邪魔したのは2月2日。
その時感じたことをそのまま書けるように、取材後はなるべくすぐに原稿を書く派なんですが、この記事は一文字も筆が進まず、塩漬けにしたまま1ヶ月以上が過ぎてしまいました

酒蔵の見学、そしてそのあとの飲み会。それぞれの場所で聞いたお話は、めちゃくちゃ面白く伝えたい内容でした。それでも原稿を書くのが遅くなった理由は、僕がこのとき聞いた内容を伝えきれるのかどうか、自信がなかったからでしょう。

画像1

画像2

画像3

画像4

(飲み会会場、粟津温泉街にある満州楼さん。お刺身も中華も美味しい。)

そしてその後もさらに、執筆すべき数件の取材を終え、いよいよ書かないとマズい!! というタイミングに差し掛かった時に、気合いを入れていったん書きあげてみました。
・・・が、それでもうまくまとまらない。社内チェックでは藤田さんに珍しくちょっと大きめな直しのコメントをもらい、さらに西出さんにメッセージで追加ヒアリングをして何とか仕上がりました。

実は西出さんには、これ以外にもメッセージで酒造りのことを教えていただくことが多く、そういう経緯もあって、これまでの記事と比べても取材した僕視点での文章が多い記事になっています。
西出さんの造りのスタイルは独特だと思います。それはすぐに理解しやすいものではなく、それが僕が記事を書くのに苦労した理由でもあるのですが、そうであるならば、僕が朧げながらも理解に至ったプロセスをなぞる方が、読者の皆様にも伝わりやすいのではないかな、と思ったのです。

それが功を奏してか、読んでいただいた方々からは、西出さんの言葉や西出酒造の風景から僕が学び、感じたことがダイレクトに伝わっていると思われる感想をいただけて嬉しかったです。


取材当日に聞いたお話の中で、とても面白かったけど記事中に反映できなかったのが、乳酸菌の話。
生酛の酒母を立てる際に、西出さんは木の櫂棒を、フタをしたステンレスの酒母タンクに挿しておくのだそうです。

画像5

(これも記事には詳しく書けなかった、「移動式」の酒母タンク)

乳酸菌は木の道具に、年をまたいで生き続けており(個体として同じ乳酸菌が生きているわけではないはずなので科学的には適切な表現ではないですが、あえてこう書いています)、ここを通じて生酛の酒母に必要な乳酸菌がわいてくるそうです。

東京に帰った後で調べてみると、乳酸菌の中でも生酛系酒母の初期に増殖する球菌であるL.mesenteroidesは酒蔵の木の道具内に生息しており、道具を加熱殺菌しても、複数醸造年度にまたがり同タイプの株が定着しているそうです。

製造期間中に蔵を訪れたことがある方は、釜に張った熱湯で櫂棒等の木の道具が煮沸殺菌されているのを目にしたことがあるのではないでしょうか。あれだけきちんと殺菌されていても、乳酸菌は「生き残って」いるんです。

そしてこうした特徴を持つのは、生酛系酒母の前半に増殖する球菌のみのようです。後半に増殖する桿菌であるL.Sakeiは、年度をまたいで同じ株が検出されることはないそうです。
参考:米麹を用いた古くて新しいそやし水製造

球菌と桿菌、それぞれが持っている性質が、この通りでなければ最初に球菌が育ち、そのあと桿菌が育つという発酵のプロセスも成り立たないのではないか、と考えられます

蔵を訪れて感じた、微生物の世界の神秘。それが日本酒という、複雑な発酵プロセスをたどるアルコール飲料の魅力の一つであることが、記事をとおして少しでも伝われば嬉しいです。


画像6

画像7

画像8

(それにしても、ねこたちがかわいかった)


この編集後記ですが、過去に掲載した記事についても振り返り的に、今後も少しずつ書いていこうと思います。
ただでさえ硬派でマニアックな本編記事よりも、さらに一層マニアックな内容になるかもしれませんが…
本編記事とともに、今後もお読みいただけると嬉しいです!

サポートいただけたら、お酒、特に地酒のために役立てられるように活用したいと思います!