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健康診断で失神

11月中旬。社会人になって初めての健康診断に行った。

場所は目黒。
駅を降りてから地図アプリを見ながら歩くとあからさまな田舎出身者とばれるので、しっかり電車の中で病院までのルートを確認する。
就活で行ったビルの近くのようなので大丈夫だろう。

8分くらい歩いただろうか。明らかにそれらしきビルがあるのに入口がわからない。仕方なく地図アプリを立ち上げて経路を再確認。
ビルの裏側へ経路案内が表示されていた。
裏口から入れるのか?と怪しく思いながらスマホに従うが入口がない。
というか道とビルの間にワッサ〜と樹木が生い茂っていてそもそも建物に近づけないのだ。木の間からは明らかに患者が入る入り口ではない搬入口みたいなドアが見える。
ここじゃないなとは分かりながら健康診断の時間も迫っていたので、無理矢理に草木を分け入って裏口から入ろうとしたが、その後の自分の姿と周りの目を想像して止めた。

一旦戻ろう。

目の前に見えるビルをぐるっと回ると、あったあった。
細〜い階段を登るとでかいエントランスが見える。
いかにも東京っぽいビルで健康診断を受けられることにテンションが上がりながら、ドキドキを抑えつつエレベーターに乗り込んだ。

初の健康診断はよくわからないことだらけだった。
看護師さんに「スリッパに履き替えて薄着でお願いします」と言われたが、どこまで脱げばいいのかよくわからない。半袖ヒートテックの上にシャツを着ていたので、シャツを脱いで待合室へ行く。

すぐに看護師さんに呼ばれ、「検尿いけそうですか?」と聞かれた。
尿意はなかったが咄嗟に「はい」と答えてしまった。

「ヤバいな…。出るかな?」
「というかいきなり聞かれても、ちょっとまだですねとか言いにくいやろ!」


と思いながらトイレへ向かう。
個室で腹の下に力を入れ、なんとか規定量に達することができた。

続いて視力、聴力、血圧、レントゲン…と手際よく検査が進んでいく。
あまりの手際の良さに感心していると、採血検査がやってきた。
入社前にも採血をしたことがあったのだが、血を抜かれると同時に力がスッーと抜ける感覚があり、苦手意識があった。
なんというか、アンパンマンも顔がぬれたらこんな感覚なんだろうと共感する。
でも、もう子供じゃない。大学生でもない。
社会人にもなって採血にビビってるのはダサい!

ビビってることを悟られないように軽く深呼吸して椅子に座り、右腕を差し出す。
可哀想な右腕。
右利きの俺は本当は左腕で採血したかったが、偶然前日にインフルエンザのワクチンを左腕に打っていたため、右にせざるを得なかった。
だって2日連続で左を差し出すのはあまりにも酷でしょうよ。
採血の様子を見る勇気はないので、左上に目線を移しながらぐっと目を閉じる。

痛い!!!

ケガしたときとはまた違う痛さだ。
というかなぜ、自分の落ち度でケガをしたわけでもないのに血を流さなきゃいけないんだ!ムカつく!採血検査!

何秒経っただろうか。体感で30秒くらいすると、「終わりましたからね〜」と言われて針を抜かれた。

やっと終わった!…がちょっと気分が悪い。

「気持ち悪くないですか〜?」と声をかけられたが、成人男性が少し血を抜かれたくらいで弱い所は見せられないので
「大丈夫です」と答えた直後…


視界が歪んで、耳が遠くなってきた。


あ、ヤバい。


「ちょっと気持ち悪いです…」とかろうじて声を上げたところまで覚えている。ハッと目を覚ますと机に突っ伏している自分がいた。


?????


どうやら失神していたらしい。人生初だ。
すぐに車椅子に乗せられ、ベッドへ直行。
看護師さんから謝られるが、確実に俺のせいなので逆に謝った。

「ゆっくりでいいんで立てるようになったら戻ってきて下さいね」


恥ずかしい気持ちでぼけーっとしながら5分くらい休憩し、また診察室に戻る。

「あれ?次の検査何でしたっけ?」みないな感じを装って、何もなかったかのような顔で戻る。

看護師さんが別の看護師さんに何か話している。
多分「あ、あの倒れた人戻ってきましたね」的なことを話しているのだろう。俺のカルテらしきファイルも回り出した。恥ずかしい…。

無事ではないが検査を終え、更衣室でシャツを羽織ってビルを出た。

駅まで歩く間にすれ違う人は、もちろん俺がさっきまで健康診断で失神してた人とは知らない。というか、そんな興味もないか。

もう採血恐怖症になってしまった経験だった。

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