風邪について(I)

今年の冬は寒くないという予報だったが、結構寒い日が続いている。中には風邪をひいている人もいるのではないか。東京ではインフルエンザの流行が警戒レベルに達しているらしい。

最近は「風邪には抗生物質は効きません」と言われて病院に行っても薬をもらえなくなったと感じている人もいるかもしれない。

一般に風邪の症状は「くしゃみ・鼻水・鼻づまり」であり、鼻やのど、つまり呼吸器の入り口の感染症を指す。もちろん、原因病原体の種類によっては咳や発熱、頭痛やのどの痛みその他の症状が合併することも多い。

こういう「風邪」を引き起こす病原体は様々である。その多くはウィルスであり、一部に細菌が原因だと考えられている。特別に免疫の弱い人では真菌(カビ)も感染を起こすかもしれない。

ウィルスとは

ウィルスは最小の生命体と考えられており、大きさは数十nm〜数百nmであり(1nmは1μmの千分の一)、電子顕微鏡でないと見ることができない。自分では増殖することができないので他の細胞に寄生(侵入)してその細胞の増殖機能を用いて自己複製を行う事がある。一部のウィルスに対しては抗ウィルス薬が開発されているが、普通の抗生物質は効かない。

細菌とは

細菌は大きさが1μm〜5μm程度であり、光学顕微鏡で見る事が可能である。一般に細胞壁という殻を持っており、動物より植物に近い性質も持っている。人間の細胞と同じように分裂して自己増殖を行う事ができる。ペニシリンなどの抗生剤が有効なものもある。その形態から「球菌」「桿菌」という分類がなされたりグラム染色の染色性から「グラム陽性菌」「グラム陰性菌」という分類がなされたりする。

風邪を引き起こすウィルス達

風邪を引き起こすウィルスで多いものはライノウィルス、エコーウィルス、アデノウィルス、RSウィルス、コロナウィルス、コクサッキーウィルス、ヒトメタニューモウィルス、パラインフルエンザウィルスなどがある。

風邪を引き起こす細菌達

風邪症状を引き起こす細菌にはA群溶連菌、クラミジア、マイコプラズマなどがある。

上気道炎と下気道炎

風邪症状は一般に鼻やのど(鼻咽頭)の感染で起こるため、咳は出ない。しかし、上気道の感染は簡単に下気道に進展するため、下気道炎を併発すると咳がひどくなる。下気道炎が悪化すると気管支炎や肺炎などに至る事がある。厳密な風邪症候群は急性上気道炎であるが、現実には軽度の下気道炎、気管支炎くらいまでは風邪という診断で治療される事がある。重症の気管支炎や肺炎になると入院加療が必要になる場合があるが、上気道炎である風邪で入院が必要になることは稀である。

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呼吸器の略図

風邪の感染経路について

風邪が感染する経路は大きく分けて二つある。一つは飛沫感染、もう一つは接触感染である。飛沫感染は風邪の患者が咳やくしゃみをするときに飛ぶ飛沫が他の人の口腔や鼻腔に入ることによって感染が起こるというものである。飛沫はおよそ2m程飛ぶとされている。そのため、患者の正面にいる人は感染を防ぐためにマスクをするとよい。また、患者自身がマスクをしても良い。マスクだけでは顔の他の部分に飛沫が付着する事があるため、その場合には洗顔して付着した飛沫を洗い流す事が有効である。水道水によるうがいも適切に行えば有効であるが口腔内に入ったウィルスは速やかに感染を成立させるために、飛沫が口に入った後にうがいをしても効果は乏しいようである。うがいをするときにはまず2〜3度口をゆすいで吐き出し、口腔内の常在菌を洗い流した後行うと良い。また、ヨード液は加えず、水道水のみでうがいするほうが良いという研究結果がある。これは2ヶ月間、1日3回うがいを続けると水道水のみでうがいした群は他の群に比べておよそ4割の予防効果があったという事である。

もう一つは接触感染である。患者とタオルを共用すると患者の鼻汁や唾液等の体液中のウィルスがタオルに付着し、感染性を持ってしまうということもあるが、更には患者がウィルスの付着した手でドアノブ等を触ると、そのドアノブを通して感染が拡大する事がある。ウィルスは目に見えないのでその部位にウィルスが付着しているかどうかはわからない。手に付着したウィルスからの感染を防ぐには手洗いが重要である。

手洗いはシンプルには70%アルコールをよく手にすり込むことでよいが、ウィルスによってはアルコールに耐性のものもいる。例えば急性胃腸炎を引き起こすノロウィルスはアルコール耐性であるため、次亜塩素酸を用いる事が必要である。もしくは、普通に手を洗うときには、両手をよく濡らして、石鹸をよく泡だてて掌どうしを10回以上強くこする。その次に手の甲を逆側の掌でよくこすり、汚れを落とす。次に両手の指先をこすり合わせる。親指はそれぞれ反対側の手でよくこすって洗い、手首まで忘れずに洗う必要がある。

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