この視点から攻めても…

うーん、どうだろう。

この3つの視点はちょっと中途半端だと思う。

1 流行の濃淡への対応

一つには今回のコロナウイルスは流行の濃淡が大きい事が挙げられる。確かに首都圏や近畿圏、北海道などではどんどん流行が拡大して犠牲者も増えているが、流行はゼロではないものの今のところさほど大きな流行ではないという県もある。この状況では国が一定の指針を各都道府県に課すよりも都道府県が各自で一定のイニシアチブを持って独自の政策を行える制度は必要だと思う。元々、特措法における実行責任者は都道府県知事である。今だって、各都道府県が独自に対応しているわけである。東京にいる人には「東京の事情にしか興味ない!他の道府県なんてどうなってもいいじゃないか。首相が東京(と周囲の県)に号令して東京さえ落ち着けば後はどうでも良いだろう。」と言われるかもしれないのだが。

全国で一律に制限をかける必要がある場合には国が一定の政策を立案して全国で一律に適用すればいいが、現在でも緊急事態宣言が出ているのは一部の都道府県だけである。しかも、流行の程度もそれぞれの都道府県で一律であるとは言い難い。そうであれば(元々の特措法も実行責任者は都道府県知事であるのだから)知事にフォーカスした都道府県での対応という段階を作ることはおかしいとは言えない。

2 予防状態や緊急事態の発令や期間について

感染症の流行は急激に起こることがあるので、悠長に国会にかけていられないというのも仕方のないことであろう。仮に、発令に国会承認を必要とすれば、感染者の命を人質にとって野党が議論を空転させて無理難題を通そうとする危険性がある。なので、開始は行政府が緊急に発令すれば良いと思う。事態の終了・延長については国会の議決を必要とすれば良いのではないか。議会が開催できない状態で自然に終了したとしても、延長の必要があるときには行政府が再発令すれば同じことじゃないかと思う。

3 補償について

補償についてはもっと大変な話である。平時に悠長に議論するのならゆっくりやれば良いと思うが、今はむしろ流行下でどのように補償を行うべきか、待ったなしの状況である。この状況ではいかに予算を確保できるか、そしてそれをどのように分配できるかが重要であろう。請求権にした場合、予算の保証がないのに請求が殺到した場合にどう対応するかという問題を解決する必要があると思う。「自分は野党だから批判だけしていれば良いので困らない、請求権が殺到して困るのは政府や与党の自民党だけじゃないか」ということであればいかにも無責任の誹りを受けると思う。

4 入院勧告と罰則規定について

入院勧告に従わないことについての罰則規定についてはむしろ人権問題として捉えるべき問題である。かつての伝染病予防法では強制入院の規定があったが、現在の感染症法では入院勧告のみになっている。例えば、同じ2類疾患である結核では排菌者には入院勧告が出されることになるが、仮に患者が入院を嫌がって逃げ出したとしても罰則はない。

幸いにもそういう人は例外的であり、多くの人は入院勧告に従って適切な治療を受けているため、実際のところ結核罹患者数は減少している。

(追記)私の知っている事例は治療を嫌がり病院から脱走して一人で隠れ住んでいたが症状が悪化して見つかった事例である。結核は集団感染を起こすことも多い。家族内や勤務している企業のオフィス内で、常連の居酒屋など、また学校等でも集団感染を起こしてしまうと何人もの周囲の人に迷惑をかけてしまうことになる。なので診断されたら素直にさっさと治療する方が良い。また、中途半端な治療でやめると耐性菌を作ってしまいやすく、そうなると何年も治療を続けなければならなくなるので油断禁物である。

恐らく、結核やハンセン氏病などでは現在の感染症法の規制で充分なのかもしれない。強制的に入院させなくても多くの人に感染が広がることはなく、入院をせずに適切な治療を受けないことで不利益を被るのは本人だけである事が多いということであろう。

ただ、今回の新型コロナウイルス感染症について言えば例えばこのシーズンには指数関数的な流行の増加を示している訳である。つまり、誰かが入院勧告を拒否して自由に行動してしまうと、その人から感染がさらに広がってしまう事が危惧される訳である。しかも高齢者が感染すれば不幸な転帰を取る可能性はインフルエンザよりもずいぶん高いのである。

今回の新型コロナウイルス感染症では、「ある感染者の行動の自由」という人権と周囲の人が感染して命を落とす危険性すなわち「周囲の人が感染せずに生き延びる権利」という人権がコンフリクトを起こしている訳である。どちらの人権を優先すべきかということについては是非、哲学や倫理の学者や研究者に考えてほしいところである。けれども、現状では急激な感染拡大を防止するために緊急避難的な対応が必要とされている。隔離が必要な人については強制的にでも入院等による隔離を行なうことで、これ以上の感染拡大を止めなければならないという緊急対応が求められているということであろう。ここで医療崩壊を持ち出すことはナンセンスというより他はない。入院に対する強制を行わずに入院の必要な患者に市中での自由な行動を許して感染者を増加させれば重症者も増えることになるので犠牲者もどんどん増えることになる。その結果がわかっていながら漫然と流行拡大を眺めている状態こそが真の崩壊と言えるであろう。

目標はこの新型コロナウイルス感染症の流行の抑制である。その目標を忘れずに理性的な議論を行う必要があると思う。


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