風邪について(II)

風邪ウィルスに対して体は感染が起きにくくするようにいくつかの防御機構を持っている。

風邪に対する生体の防御機構

(1)鼻腔

鼻腔での防御機構の第一は鼻毛である。時々、SNSでは「鼻毛の伸びたおっさん」などと揶揄的に描かれる事があるが鼻毛をバカにしてはいけない。呼吸のために吸い込んだ空気に混じったゴミや病原体はまず鼻毛で濾過される。鼻毛に引っかかって病原体がそれ以上奥に進まないと感染は阻止されるのである。ウソかホントか知らないけれど、清浄な田舎の空気に接しているよりゴミゴミした都会で暮らしていると鼻毛の伸び方は倍に早くなるそうである。生体防御の第一線を担う鼻毛には感謝しながら伸びすぎないように定期的にケアしてあげよう。

鼻毛を通り越した病原体は鼻粘膜に至る。鼻粘膜では粘液を出して病原体を包み込み、病原体が体内に入り込まないように防御する。これが体外に出ると鼻水として認識される。また、鼻腔中の病原体を体外に排出する機構は「くしゃみ」である。また、鼻水が多くなり、鼻水を分泌する鼻粘膜が腫れてくることによって呼吸がしにくくなることは「鼻づまり」として認識される。つまり、「風邪症状」は鼻腔での生体防御機構の過程を人間が認識した結果であるということになる。

(2)口腔

口腔における物理的な防御機構はほとんど存在しない。

唾液は口腔内で食物と混ざって消化を助ける働きをするが、唾液中に含まれるリゾチームなどは殺菌効果を持っている。また、唾液は口腔内を洗浄したり口腔粘膜を保護する効果も持っている。唾液が口腔内を循環することで口腔内は一定の清浄効果を受ける。一方で口腔内には大量の常在菌(病気を起こさない細菌)が存在していることもわかっている。

口呼吸を行っている人は物理的に口を開けているために感染物質が口の中に入りやすいだけでなく、唾液が乾燥しやすいため唾液による感染予防効果が得られにくくなり、感染の危険性が上がる。口呼吸を行っている人は外出時などではマスクをして感染予防を心がけたほうがよい。

(3)咽頭

鼻腔や口腔に浸入した病原体が咽頭から気管や肺など、更に深部に感染を広げてゆくのを抑えるためにいわゆる扁桃腺がある。口蓋扁桃、舌扁桃、耳管扁桃、咽頭扁桃などを総称してワルダイエルの咽頭輪というそうである。(知らんかった)(https://ja.wikipedia.org/wiki/ワルダイエル咽頭輪)扁桃は特に小児期の感染防御に重要な役割を果たすことが知られており、3歳頃に最も肥大し、6歳くらいには縮小してゆく。咽頭扁桃の肥大をアデノイドという。数十年前にはアデノイド摘出術が流行したが、感染予防にはほとんど効果がない事がわかり、今ではほとんど行われていない。ただ、小児の睡眠時無呼吸症候群の原因にアデノイドがあることから、成長してもアデノイドが軽減せずに睡眠時無呼吸症候群が継続する症例ではアデノイド切除が行われるようである。また、アデノイドに慢性の細菌感染巣ができて感染を繰り返す事例ではアデノイド切除が有効だという主張を聞いた事があるが、そういう人が今も残っているのかどうかは知らないのである。

後鼻漏: 鼻水の量が多くなると鼻孔(鼻の穴)から鼻水として排出されるだけでなく、咽頭の方に流れ込むものが増える。これを後鼻漏という。病院の診察で口を開けてみてもらう経験をした人は多いと思うが、そのときに粘っこい物質が上からのどの方に落ち込んでいるのが見える。のどに落ち込んだものは痰になるので咳をして排出することになる。

(4)気管、気管支

気管や気管支に溜まった痰は咳として排出される。痰の原因は後鼻漏として鼻水が気管に落ち込んでくるものもあり、気管支炎や肺炎による炎症の結果、下気道(つまり奥の方から)から上がってくるものもある。気管の表面には繊毛という短い毛が生えていて異物や痰は繊毛の動きで次第に上に運ばれていくのだが、量が多かったりすると咳反射が起こって一気に上に持ち上げたり体外に排出したりしようとする働きが起こる。

(5)肺胞

気管支はどんどん枝分かれして細くなり、細気管支、終末細気管支となり、その先には肺胞という部屋にたどり着く。肺胞の表面の毛細血管には心臓から肺動脈を通して体の静脈から来た酸素が少なく二酸化炭素の多い血液が流れており、ここで空気に触れた血液は二酸化炭素を放出して酸素を取り込むことで動脈血に変化し、その動脈血は肺静脈を通って心臓に帰ってゆく。これを肺循環というが、肺動脈に静脈血が流れ、肺静脈に動脈血が流れるので混乱する人も多いであろう。これは心臓から血液を送り出す血管を「動脈」と定義し、心臓に帰ってゆく血管を「静脈」と定義していることで起こる混乱である。試験に出すと一定の人は間違えるのである。

それはさておき、肺胞には肺胞マクロファージという免疫細胞がおり、肺胞まで到達した異物を貪食して処理するという役割を負っている。


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