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蜘蛛の糸

この記事で結構気になったのは調査したのが正規職女性の方が何人か多い所である。これがランダムに調査して偶然そうなったのか、意図的に「正規職群」と「非正規職群」で同数になるように調整したのかが気になった。

あとは当然ながら、非正規女性の救済を訴えているけれど、非正規男性は置き去りで良いのかという問題である。

厚労白書などのデータでも、確かに正規職では給与の男女差が大きくなる(特に40、50歳代で最も広がる)ことは知られているが、非正規職では男女差はそれほど広がらないことがみてとれる。つまり、非正規女性の問題は非正規男性の問題でもある。

この記事では非正規女性のみに焦点を当てているので他の集団の問題が逆に覆い隠されるのではないかという点が懸念材料である。

政府の提示した父親が稼ぎ手で、母親が専業主婦、子供2人という標準モデル世帯は少なくとも共働き世帯が父親一馬力の世帯を上回った1997年には説得力を失っているし、50歳時点の未婚率が2015年時点で男性で23%になっているので単身者はどんどん増えているのも事実である。ちなみに女性は14%くらいだったと思うけれど、これには一度結婚して離婚した結果、単身になった人は含まれていないのである。2020年の50歳時未婚率のデータはまだ発表されていない。

まあ、政府としては再生産の観点から子供を持つ世帯を支援したいし、財務次官氏の雑誌記事にあるように財布の紐は締めたい、団塊の世代に対する支援はやむを得ないが、それ以降の世代に対しては出来るだけプライマリーバランスを維持したいので、税金は取るけれど、国民は政府を頼らずに自立自存でやってほしいというのが本音であろう。

まあ、あと10年か20年ほど頑張れば団塊の世代も段々とこの世からおさらばする人が増えるであろう。そして、次は団塊ジュニアが引退するわけである。残念ながらその後は少子化なので団塊ジュニアを支えるのに十分な現役世代はいない。しかも、朝日新聞の記事のように非正規の人は低収入のため、十分な資産形成はできていないであろう。

ここでプライマリーバランスを重視する政府は「ない袖は振れない」ということだろう。まだ団塊の世代は高度成長期に稼いだ金を持っていたのである。現在は兎にも角にも団塊ジュニアは団塊の世代の老後を支える年金保険料を支払ったのである。けれども、その後の少子化である。団塊ジュニアは自分の資産も彼らの年金を払ってくれる現役世代も持っていないので、政府の負担を減らすためには冷たくする以外にないのではないか。つまり、見殺しである。

政府も団塊ジュニアの世代は黙って働いて年金を払って団塊の世代の老後を支えてくれ、今は団塊ジュニアの苦しみを軽減するためのお金はないんだと考えていることであろう。

だからこそ、朝日新聞も非正規単身女性という限られた集団のことを記事にしたのかもしれない。つまり

「蜘蛛の糸を登れるのは非正規の中でも単身女性だけにしてください、それなら蜘蛛の糸は切れずにみんな登っていけるでしょう。非正規男子とか既婚女性まで登り始めるとその重みで蜘蛛の糸が切れることはよくわかっていますよ」

というアピールかもしれないのである。

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