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エアロゾル感染

今朝のテレビでも「エアロゾル感染」により新型肺炎が感染しうるという番組をやっていた。どうやら中華政府が発表したらしい。

これを見て心配になった人も多いかもしれないのでちょっと書いておこう。

多くの呼吸器感染症は鼻、口からのど、気管、肺に感染源(ウィルスや細菌)が感染して増殖する。体は感染を防ぐために免疫系を持っているが、物理的な排除も行なう。具体的には鼻の中で粘液を出して物理的に感染粒子を洗い流す鼻水、気管内の感染粒子を粘液で包み込み痰にする。

痰は気道表面の繊毛という毛でじわじわと上に押し上げられるが、咳によって一気に出口に押し上げられる。鼻水はくしゃみによって一気に鼻の穴から体外に排出される。なんだか汚いようだが、体にとっては感染粒子を体外に追い出す立派な感染防御反応である。

体から排出される鼻水や痰、唾液には(当然ながら)新型肺炎患者であればコロナウィルス君が含まれている。これらは飛沫となって、様々な大きさの水滴として口から出てゆく。一般的に口から出た水滴は2〜4mくらい飛ぶとされている。大きな水滴はそれくらい飛ぶと重力の影響で地面に落ちてしまう。この時、飛沫が飛び散る範囲にいた人には飛沫がかかることになるので、感染が起こりうる。これが飛沫感染である。

ところが、水滴が十分に小さいと(およそ5μ以下)水滴が軽すぎてなかなか落ちてこない。風の影響でふわふわとあちこちに漂うことになる。そのため、別の方向にいた人や部屋の中で遠くに離れた場所にいた人にも感染が起こりうるし、マスクをしていてもマスクと皮膚のスキマから粒子が入り込んで感染を起こしうる。これがエアロゾル感染である。

問題は乾燥である。水滴は時間が経つと乾燥してゆく。多くの病原体は乾燥により不活化され、感染性がなくなる。エアロゾルは粒子が小さいので乾燥しやすいのである。空気中に浮かんでいるうちにエアロゾル粒子が乾燥してしまえば感染性はなくなり、無害になるといえる。

仮に、感染粒子が乾燥に強く、時間が経っても感染力が落ちなければどうなるのかという不安もあるだろう。そういう感染症の代表は麻疹である。すなわち空気感染である。麻疹は全国の公衆衛生関係者の尽力によりワクチン接種が普及した結果、平成27年から日本に土着していた株からの感染はついになくなったのだけれど、外国からの輸入株による感染が残っている。散発例もあるが、局所的な流行を起こす場合もある。この数年にも関西空港や大阪のデパートでの発生例、沖縄の小流行などがあり、記憶に新しいのではないか。

新型肺炎を考えると、先月末まで中華から観光客がわんさか来ていたのである。その中に発症者がいくらもいたわけであり、実際日本で診断された人たちもいたわけであるから、診断されずに帰った人も何人もいたはずである。そういう未診断の感染者のそばにも多くの日本人がいたはずなのである。それから1ヶ月も経ってこれくらいの感染者数であればどうなのだろう。いや、今から患者数が爆発的に増えるという可能性も否定はできないので警戒は緩めてはいけないのだけれど。


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