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23.高さを追い求めた、石の芸術作品~天王塚古墳(和歌山市)~

 何故このように石室の高さを追い求めたのか!その究極作品と言うべき古墳を紹介する。河内愛宕塚古墳の項(22)で驚いた、巨石を使用した石室と天井の高さであるが、実はさらに高い古墳が近畿地方の和歌山県にあった。

後円部から前方部(給水塔)を見る

 和歌山市の東方、岩橋(いわせ)丘陵にある約800基以上の大古墳群、岩橋千塚古墳群の中の一基である天王塚古墳だ。上記写真のように丘陵頂上部に存在し、墳丘の長さが88mを測る群内最大規模の前方後円墳である。

石室羨道部から玄室を見る
石室を見上げる(石梁が壁に差し込まれている)
石梁と石室の壁
天井近くまで石梁がある
奥壁と石棚

 天王塚古墳はその名の通リ、岩橋千塚古墳群内では最大規模の古墳で、形も、やはり前方後円墳である。岩橋千塚古墳群は名称が面白く、古墳の規模に対しての名前を付けている。例えば、郡長塚、知事塚、将軍山等であるが当時から付けられていた訳ではないので、それを詮索するのは無意味である。岩橋千塚古墳群は紀の川流域のいわゆる緑泥片岩を使用した石室が特徴的であることは名高い。板状に割れる石材なので、巨石で構成されたものではない。つまり写真のごとく細長い石材を巧みに組み合わせている。これらの石室を岩橋型石室というが詳細は述べない。さて、この天王塚古墳であるが石室の高さが何と5.9mを測るものである。実際、懐中電灯の灯りが天井まで届かない。上を見るとめまいがする。よく見ると天井に向かって8本の石梁が差し込まれている。これは細かい石材で構成される石室で、高さを追求するには石梁を差し込んで壁が崩壊しないための補強材と考えられているが、どうであろうか。

前方部から後円部を見る

 いずれにしてもこの高さは異常だ。高さを追求した理由は何か?石室の中は日の当たらない漆黒の闇である。日本最大規模の石舞台古墳の石室高が約4.7mだというが、それよりも1.2mも高い。やはり魂の拠り所としての空間、天上界を創造するべく、高さを追求したのか?スピリチュアル的な世界なのか分からない。そこで確実に言えることは、石室構造の素晴らしさであり、これは石の芸術作品と換言できるものである。1500年余りの度重なる天災地変に耐え、石室は崩れることなく現存している奇跡は、古代人のエネルギーの強さを感じざるを得ない。(因みに日本で最も高い石室をもつ古墳は、熊本県にある大野窟古墳で6.48mを測る。これまた規格外の古墳である。)

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