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ある春の、機捜404【MIU404】

※いつもの記事とはちょっと違う、MIU404の創作SSです。
あくまで私の勝手な創作ですので、生暖かい目で見守っていただければ幸いですw



「桜見てるとさあ、なんとなく警察学校思い出すんだよね」
伊吹がつぶやく。
「ずいぶん昔の話だろ、それ」
「それでもさ、印象に残ってることって、ずーっと覚えてるじゃん」
「…伊吹だと何を思い出すんだ」
「毎日ランニングしまくってたこと!」
ドヤ顔で微笑む相棒を見て、思わず絶句する。
「伊吹、他にもあっただろ…1か月ずっと寮に缶詰状態とか、座学とか」
「あー、柔道とか剣道も面白いよねー」
「…お前の記憶力は運動にしか働かないのか?」

いつもの機捜車、いつもの密行。
404号車が3代目になって、もう1年半になる。
最初こそ落ち着かなかったが、まあ機捜車としては申し分ない。
強すぎる2代目のインパクトは、今でも目に焼き付いているが。

「そう言う志摩はなんか覚えてんの?」
「俺か?自慢じゃないが俺は模範生だったな」
「えー、教官叩きのめしたりしなかったの?あいつら理不尽のカタマリじゃん」
「しねえよ」
「意外すぎる」
「そこらへんの腹いせは、卒業した後でまとめて返した」
「は?」
「捜一時代だったか…しつこく八つ当たりしてきた教官に偶然会ったから、ちょっと嫌味返しただけだよ」
「その教官、泣いてなかった?」
「知らねえよ、なんか俯いてたし。目も合わせて来ねぇわ」
「教官、かわいそう…」

そう言ってる伊吹も、目こそ憐れんているけど口元はニヤニヤしてる。
まあ悪名高き警察学校だ、それなりに色々あったんだろう。

「九ちゃんとかさ、どんなんだったのかな」
「そもそもあいつは警察学校じゃない、警察大学校だ」
「さっすが警視庁…」
「九ちゃんに聞くよりも、隊長や陣馬さんに聞いたほうが色々面白そうだけどな」

くだらない話をしているうちに、時計の針は9時を回ろうとしていた。

「そろそろ戻るか」
「んだねー…戻るのもいいかもなあ」
「…ん?」
「いや、警察学校の話してたら昔のことたくさん思い出してさ」
「伊吹にしては珍しく感傷的だな」
「俺だってエモくなるし!」
「んでそのエモ吹藍さんは何にエモいんだよ」
「んとね、メロンパン号にまた乗りたいなって」
「いきなりだな」

1年半前。
あまりに目立ちすぎた機捜404号車は、ひっそりとその役目を終えた。
けど、今度は本物のメロンパン専門デリバリー車として全国を旅していた。
糸巻さんが「廃車になるくらいなら」と涙ながらに提案してくれたのだと、後から桔梗隊長が教えてくれた。

「警察学校でたくさん走って、現場でもメロンパン号ともたくさん走って、すっげえ幸せだった」
「…まあな、貴重すぎる体験ではあった」
「んで桜見てたら、あのストロベリーメロンパン思い出したの」
「はぁ?そっち?!」

結局、食い物かよ。
呆れて絶句する俺を置いたまま、伊吹は遠くを見ていた。

「ずーっと美味しそうだったじゃん、あのメロンパンの絵」
「確かに。見るたびに腹が鳴る絵だった」
「本当にメロンパン売るんだったら、もっとキレイに磨いてやりたかったなあって」
「ああ…落書きとかされてたしな…」
「磨き残しとかあったし、ずーっと心残りなんだ…あー、またメロンパン号が404にならねえかなあ!!!」
そう叫ぶ伊吹の目ははるか遠く、空の向こうを見つめていた。
少しだけ、その目を潤ませながら。

「…伊吹」
「…なんだよ。笑いたけりゃあ笑えばいい」
むーっと口を尖らせる伊吹。
「…ひとつ、言わせてもらうけど」
「はい出た!志摩ちゃんの無限ひとつ!!」

「…メロンパン号、そのうち乗れるかもな」

伊吹が、固まった。
信じたいけど信じられない、そんな表情のままで拳を握り締めている。
その眼光には、驚きを通り越して怒りさえ見えた。

「いいか、伊吹。これはあくまで可能性の話だ」
「…テキトーなことなら聞きたくない」
「適当じゃねえよ。可能性は、ゼロじゃない」
「だって!もうメロンパン号はメロンパン号なんだろ?!」
「そうだよ。だからこそ、だよ」

伊吹の拳が、だらりと下がった。

「…分かんねえ」
「いいか、このままメロンパン号はメロンパンを売り続ける。日本中を駆け巡るんだ」
「…それ、やっぱメロンパン号じゃん」
「それだ。そんな車が、機捜車だなんて誰も思わなくなるんだよ。糸巻さんは、それを狙ってる」
「…え」
「1年後、数年後。もっと先かも知れない。けど誰もがメロンパン号でメロンパンを買う日が来たら…その時には、あの車両は格好の隠密行動が可能にな」

「志摩!」

伊吹が飛びついて、俺ごとシートに押し倒される。
今の伊吹にはたぶん尻尾が生えている。
しかも、機嫌よくブンブン振りまくっているはずだ。
押し倒されてる俺には見えないが。

「おい伊吹、離れろ!重い!!」
「しぃーまあぁぁぁ!志摩ちゃああぁぁあん!!!」
「聞け!落ち着け!!あくまでも可能せ」
「可能性でいい!いつか乗れるなら俺も待つ!!」

伊吹の声は、嬉しさのあまり少し震えていた。
糸巻さんのそんな策を聞いた時は、確かに俺も笑ってしまった。
裏の顔が目立ってしまったのなら、表の顔をそれ以上に目立たせればいい。
もちろん時間はかかるだろうけども。

伊吹を引っ剥がし、助手席に戻す。
すっかり上機嫌になった伊吹と2人、芝浦署に向かう。
その道中、聞き覚えのあるメロディが耳に入ってきた。
俺は思わず伊吹と目を合わせ、うなずく。

「…皆に買ってくか、メロンパン」
「行くしかないっしょ!!!」

いつかまた、共に戦う日まで。
俺達の愛車は、これからも日本中を駆け巡るだろう。
そんな奇跡を願いながら、俺はアクセルを踏みはじめた。

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