鳴神さまの言うとおりのレビュー

こんな人に特におすすめ:旧習に囚われた村といった世界観が好きな方

アナログゲームとアニメ、マンガは親和性が高く、TRPGや脱出ゲームではアニメやマンガとのコラボも数多く生まれています。
しかしマーダーミステリーではアニメやマンガのような設定の作品というのは意外にも少なく、その中で「鳴神さまの言うとおり」はそれらに親しい人になじみやすい作品です。
一方で世界観を100%は活かしきれておらず、ゲームバランスに難があり、雰囲気に浸るのではなく推理を楽しみたい人には納得がいかない読後感が残ってしまうでしょう。

「因習が残り、没交渉で旧弊な鳴神村」という舞台、登場人物の中心は高校生たち……と「ひぐらしのなく頃に」や「屍鬼」、「レイジングループ」などを彷彿とさせる、横溝ワールドを現代的に再構築した世界観です。
没入感を高めるためにはプレイヤーがすぐに理解、共感できる世界観なり人物像なりが必要ですが、一方で既存の作品にあまり寄せすぎると、シリアスな作品ではなくパロディという笑いとして捉えられてしまいます。
本作ではプレイヤーにとってなじみがあるであろう作品群のテイストがうまく採り入れられていて、キャラクターの心情をスムーズに捉えることができます。
もう少しプロットや演出を膨らませれば、ミステリーモノとしてアニメ化されてもおかしくないくらいの出来です。

システム的には「推理のカギとなる情報を誰が手に入れたか」という偶然だけで勝敗が決まらないような工夫が凝らしてあります。
故意にせよ過失にせよ、肝心な情報(カード)が出てこないことで犯人が見つからないことはマーダーミステリーでままあります。犯人側が隠蔽していたのであればまだしも、誰かが重要でないからと判断して表にならなかったとなると、それ以外のプレイヤーにとっては納得感がないままゲームを終えてしまいます。
それらを回避して、犯人とそれ以外が真っ向から推理対決する場を設けられるようになっています。

気になるのはせっかくの世界観を活かしきれていない点、そして推理に関わるバランスです。
閉鎖的で迷信が幅を利かせる鳴神村という魅力的な世界観が構築されているにもかかわらず、その設定は半分くらいしか活用できていません。
鳴神村という特殊な空間を題材にしたオープニングやエンディングでの演出、幕間でのイベントを追加することで、よりメリハリ(エスカレーション)のある印象的な作品にまで昇華させられるでしょう。
個人の目標についても、もっと鳴神村の設定を活かすことでプロットとの一体感を持たせることができます。いまのままだとメインストーリーから浮いてしまっているキャラクターが存在しています。

「鳴神さまの言うとおり」の最大の難点はゲームバランスです。
バランスを取ろうという努力はうかがえるものの、それでもまだ一方的になっていて、反対陣営からするとかなり難易度が高いという印象で、ややもすると不条理に感じるかもしれません。
作者がやろうとしている意図は理解できるのですが、その思いを実現するためにかえって全体の品質を落としています。
作品を棄てるほどの致命的なバランスの悪さではなく、「鳴神村を活かしきる」といったちょっとした工夫で調整はできそうなだけに、傑作になりきれないことがもったいないです。

犯人を推理する、謎解きするというと人狼や脱出ゲーム、推理小説などがありますが、マーダーミステリーでそれらと同じレベルの推理を要求するとたいていうまくいきません。
脱出ゲームでは1つ1つの謎は順序立てて提示されますし、全員の目標は同じなので集中して解くことができます。
人狼では能力者という確実な証拠がありますし、第三陣営がいない限りは人間対人狼という2者の構図。
推理小説では時間はたっぷりあっていくらでも読み返せますし、読者が疑われて弁解する場面もありません。

一方でマーダーミステリーでは犯行に関係ある手がかり、ない手がかりがバラバラに見つかりますし、プレイヤー自身が犯人かもしれないと疑われ、また自分自身も含めて犯人探し以外の目的も達成しようと躍起になっています。
手に入る情報、プレイヤーが取りたい行動がどれも非常に混沌とした中で犯人を探すわけで、複雑なステップを経ないと犯人までたどり着けないとなると、よほど熟達した人物でなければ冷静沈着に最後まで推理は進められないでしょう。
まして犯人探しは目標ではあるものの、ロールプレイであったり、個人目標であったり、別の要素に楽しみを見出している人もいる状況です。

すべてのキャラクター、それを割り当てられたプレイヤーがどう行動するのか、できるのかを考えていなければ、作品全体の満足度を上げることはできないでしょう。

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