マーダーミステリー業界の光と闇

メタ的なマーダーミステリー業界の問題点を考察してみました。

マーダーミステリーは確かに面白いゲームジャンルですが、このままではアナログゲームのニッチな1ジャンルで終わりそうだとひしひしと感じています。
一プレイヤーとしては業界が大きくなる必要はないのですが、良作が継続的にプレイできるくらいの規模ではあり続けてもらいたいものです。

プレイヤー視点

プレイヤーにとっての最大の問題点は「プレイの敷居が高い」ことです。
「多すぎても少なすぎてもダメで、ちょうどの人数で特定の日時に参加できる人を集める必要がある」というのは相当に大変です。
かといって1人あるいは少人数で参加して知らない人とプレイできるかというと、1度しかプレイできないことを考えるとなかなか難しいでしょう。ロールプレイする、お互いが対立するということを考えると、コミュ力が高い人でなければ、知り合い同士でのプレイと比べて体験の満足度が上がりづらいのは確かです。
また体験の向上以前に一緒に遊ぶプレイヤーが地雷だと、どんな名作であっても台無しになってしまいます。

プレイできる機会も限られていて、マーダーミステリーの話で仲間内で盛り上がったからといってふらっとプレイできる環境はいまはまだ整っていません。そこそこ事前に予約しておく必要があります。
知り合い同士の都合の良い日時とプレイしたい公演の空いている日が重なるというだけでもチャレンジングです。
急な欠席が出た場合、欠席者の代理が見つからなければバラしにせざるを得ないというのも構造的な欠陥です。ほかのアナログゲームでは1人が休んでも成立しますが、マーダーミステリーは融通が利きません。

情報が少ないというのも敷居を上げています。
どんなマーダーミステリーがあるのか、その作品がどんな内容なのか、どういった人向けなのか、面白いのかどうか、どこでプレイできるのか……とAIDMAやAISASに当てはめるとマーケティングのあらゆる段階で情報が不足していて、熱心な人たちでなければ作品の情報にアクセスできません。
作品一覧だけならアソビコネクトというウェブサービスで見られますが、アソビコネクトはプレイ済みの人同士の交流が主用途ということもあって確認できるのはタイトルだけです。書籍の「マーダーミステリーエントリーガイドブック」はこのあたりの情報がずいぶんカバーされていますが、そもそもマーダーミステリーにかなり興味がある人でなければガイドブックを購入しないでしょう。

どの情報も現状では足りていないですが、特に足りていないのはどういった人向けなのかという情報です。
マーダーミステリーというゲームジャンルの括りの中でも、3要素(没入感、個人戦、推理)のどれを重視するかによってゲーム体験がまったく違ってしまいますし、どの要素が好みかは大きく分かれるところです。
初めてプレイした作品が非常にエモい内容でそれと似た体験を求めてプレイしても、なかなか同じタイプの作品に巡り合えないということは大いにあり得ます。これは3要素のどれであっても当てはまります。

もっとセンシティブなところでは、あるプレイヤーにとってトラウマになるほど不快な内容が含まれている作品があったとして、それを事前に察知できないという問題があります。
たとえば過去にいじめに遭っていたキャラクターがいて、そのキャラクターを形成する上で重要な要素として詳述されていたとします。実際にいじめを受けたことがあり思い出したくない記憶になっているプレイヤーが、そのキャラクターに割り当てられたらどうでしょうか。
あるいはもっと生理的な問題で、黒いGが大量に出てくるシーンが重要な場面だったらどうでしょうか。
もちろんこれらは映画や小説、ゲームなどでも起こり得ますし、途中で席を立つ、プレイを止めるということはあるでしょう。
ただマーダーミステリーでより問題になりやすいのは、そのプレイヤーが気分がすぐれずに抜けた場合の影響が大きいということです。そのような場面に遭遇してしまったら、どう転んでも気まずい解決策しか残されていません。

ビジネスの視点

プレイヤーではなくビジネスの視点から見ると、「スケールできない(=売上を上げられない)」というのが最大の問題です。
プレイヤー側の視点から見たように認知の努力が足りていないからスケールしないというのはもちろんありますが、それ以外にもマーダーミステリーというゲームの構造的な問題があります。

通常のビジネスであればロイヤルカスタマーが売上を支えてくれますが、マーダーミステリーは同じ作品を1度しかプレイできないので、熱心(=もっとお金を払ってくれる)なファンであっても一見のお客であっても、1作品あたりの単価は変わりません。
舞台やライブのようにグッズで収益を上げるという手はありますが、マーダーミステリーのファンではあってもその作品のファンでなければグッズを購入するには至りませんし、1度しか接触の機会がなければ作品のファンになるのも難しいでしょう。

脱出ゲームも同じ問題は抱えていますが、脱出ゲームの場合はホール型公演で同時にプレイできる人数を増やして1公演あたりの売上を向上させています。
この点でも、プレイヤー1人あたりに必要な面積が大きい(密談スペースが必要なので)、専門店でプレイするような凝った作品ではGM1人あたりの担当できるゲーム数が限られるといった問題があり、大規模な公演はまだ行われていません。
店舗ではなく出張中心で公演を行っている作品の売上の数字も聞いたことはありますが、個人でお小遣い程度に儲けている分にはそこそこの金額ではあるものの、企業としてビジネスを継続するにはかなり心もとない数字です。
IPを使って人を集めるという手法もありますが、現状ではライセンサーにうま味がないですし、最低保証金を払うのも難しいでしょう。

いまのビジネスモデルからのブレイクスルーがなければ、一過性のブームのあとはアナログゲームのマイナージャンルに落ち着きそうというのが個人的な予想です。

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