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聖剣王殺のレビュー

※本投稿は2020年2月に書いたレビューの再構成バージョンです。

こんな人に特におすすめ:ちょっと変わったマーダーミステリーがプレイしたい方、中世ファンタジー好き

マーダーミステリーの基本的なプレイスタイルがマーダーミステリーファンの間で膾炙されるようになり、そこから外した新しい試み、専門店でしか味わえない体験を提供しようとする意気込みを感じました。
しかしながらその試みが必ずしもマーダーミステリーらしさとつながっているとは感じられず、「マーダーミステリーとして」はそこまで評価できませんでした。
ただし作品そのものがつまらないということではなく、エンターテインメントとしては十分に楽しい作品に仕上がっています。

『Fate/Grand Order』は最も人気なゲームの1つですし、ファンタジーは日本で最も好まれる世界観なのに中世騎士道を題材にした作品はまだなかったので「アーサー王と円卓の騎士」というチョイスは素晴らしい目の付け所です。
全員がイケメンというビジュアルもゲームやアニメに親しんでいる層、つまりマーダーミステリーファンの大半の好みと一致していて、非常に戦略的でマーケティング的な作品です。

いつも提唱しているマーダーミステリーの要素(犯人探し、それを実現させるためのロールプレイ、個人目標の追求、論理的な推理)の中で、「個人目標」と「推理」が「犯人探し」というマーダーミステリーの大前提にダイレクトに結びついていないという印象で、それ故にマーダーミステリーとしての評価が下がっています。
専門店ならではのプロップを使った新しい試みもこれら3要素から外れていて、この仕組みならマーダーミステリーではなくてボードゲームや脱出ゲームとして出せばよいのではと感じてしまいました。試み自体もよくできたボードゲームと比べると特筆するほどではありません。
そしてその要素に時間や作品のボリュームといったリソースを占められてしまう分、マーダーミステリーとしての魅力(=犯人探し)が相対的に薄くなってしまいます。
ロールプレイに関しても新しい試みが採り入れられていて狙いは理解できたのですが、登場人物を1人の人間として捉えた時に、現実の人間心理として違和感を感じる部分がありました。

マーダーミステリーは同じ作品を1度しかプレイできないため、新しいシステムが採り入れられると常に学習曲線の原点からのスタートになってしまいます。しかし深みのある仕組みであればあるほど、1度目はチュートリアルで、2度目、3度目でようやくプレイの最適化が進んでいきます。
ワンタイムという点は脱出ゲームも同じですが、脱出ゲームでは謎解きという要素に絞った上でゲーム内で1度目、2度目と体験できるようになっています。
マーダーミステリーでいままでにない新しい要素を入れるのであれば、犯人探しという本線と紐づいているか、そして学習曲線が描けるのかがきちんと設計されていないと、「犯人探し風のなにか」になります。

なにかほかの作品と違うものを、もっと面白くするためにと考えて追加の要素を入れるというのはデジタルゲームでもありますが、作品のピラーやビジョンにつながっていなければ余計なものということになります。
たとえば、王道RPGだけど戦闘は本格の格闘ゲーム風というゲームがあったとして、格闘ゲームとしてよくできていても、RPGをプレイしたい人には評価として必ずしもつながらないでしょう。
ほかのジャンルや作品で面白い要素があるからといって、なんでも取り入れたらいいという訳ではありません。

「これがマーダーミステリーだ」という定義づけや類型化が難しいからこそ、マーダーミステリーらしさを熟考する必要があります。

なお繰り返しになりますが、エンターテイメントという広い括りでは「聖剣王殺」で楽しい体験ができることは間違いありません。
「マーダーミステリーかどうかとか関係なく楽しければ正義」というのは間違いのない錦の御旗なので、あくまでマーダーミステリーとしてのレビューと捉えてください。

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