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ランドルフ・ローレンスの追憶のレビュー :エモさの濁流に翻弄される傑作

※本投稿は2019年12月に書いたレビューの再構成バージョンです。

こんな人に特におすすめ:没入感やエモさを求める方

いままで40作ほどマーダーミステリーをプレイしていますが、間違いなくその中の最高傑作の1本です。

マーダーミステリーの面白さの要素はロールプレイ、個人目標の達成、論理的な推理という3つから成り立っています。これらはTRPG、人狼をはじめとする正体隠匿系ゲーム、リアル脱出ゲームの要素と言い換えることができます。
本作はそのすべての要素がバランスよく含まれていて、プレイヤーの属人的な努力によるところなく、ゲームシステム側でプレイヤーが自然とそれぞれの要素を楽しめるような作りになっています。
しかも体験できる物語も情緒あふれるもので、激しく感情が揺さぶられます。

キャラクターや世界観に入り込めるかどうかはゲームの導入部分にかかっていますが、一般的なマーダーミステリーでは結構ここがおろそかで、「設定書を読んだ上で自己紹介してください」とプレイヤーに投げっぱなしになっている作品が多々あります。これでは演技について素人の平均的なプレイヤーの満足度はまったく上がりません。
本作では非常に丁寧なイントロダクションが用意されていて、マーダーミステリーやロールプレイに慣れていなくても、システム側でキャラクターへの没入感を高められるように担保されています。
大量のキャラクター設定の読み込みからゲームが始まるのではなく、少しずつ自分が演じるべきキャラクターのことが理解できるように工夫されています。

一般的なマーダーミステリーでは、犯人探しや自分の目的達成を優先するあまり、ロールプレイやみんなで1つの物語を作り上げていこうという意識がついおろそかになりがちですが、その点もシステム側でちゃんとカバーされています。
プレイヤーに依存することなくシステム側がゲーム体験の満足度や没入度を上げてくれる仕掛けとして、ほかにもリアリティを感じさせる舞台設定、雰囲気を盛り上げてくれるBGM、そして何よりクオリティの高いGMが用意されています。
リアリティはうまく機能すれば、自分たちが存在している世界の地続きで物語の世界が存在すると感じさせてくれ、作品との一体感につながります。しかし諸刃の剣でもあり、違和感があればたちまち気持ちが作品から離れてしまいます。
時代考証がうまくできないのであればいっそファンタジーの方がマシで、海外作品に登場する日本に対して日本人が萎えてしまうのもリアルとの乖離を感じるからです。
その点、本作では現代社会を題材にしつつ、リアリティを感じさせるギミック、こだわりが随所にみられ、むしろ知識がある人であればあるほど唸らせられることでしょう。

ストーリーは感情のツボを押さえた非常にエモーショナルな展開です。
作者はエスカレーション(ストーリーの盛り上げ方)をよく理解しているようで、ハリウッド映画でもよく使われる三幕構成に沿ってストーリーが展開していき、非常に計算されたシナリオメイキングがなされていると言えます。
奇をてらったストーリーテリングではなくきちんと作れば三幕構成は盛り上がること間違いない手法ですが、ほかのマーダーミステリーではそこまで物語の構成が意識されていないので、ぜひ見習うべきでしょう。
すべてを終えた時の感動はたいへん満足がいくはずです。
物語へ没入させるイントロダクション、三幕構成に沿った物語の展開と、誰がプレイしても平均して質の高い体験が味わえます。

もちろんキャラクターの行動や設定にアラがないわけではないですが、プレイ中やプレイ直後にそれを感じさせることはありません。
そういえば後から考えると…というレベルで、これはまあどのエンタメ作品でも大なり小なりあるでしょう。
欠点があるとするとプレイ時間が長いこと(5時間くらい)でしょうか。
以前はGM=作者、かつ福岡在住のため、関東圏ではなかなかプレイできなかったことも欠点でしたが、いまはラビットホールで公演が行われています。

マーダーミステリーは犯人探しという大枠はあるにせよ、このルール、システムでなければマーダーミステリーにあらずとは定まっておらず、脱出ゲームに近いものがあります。
マーダーミステリーの懐の深さを知ることができる作品でした。

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