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氷の薔薇が溶けるまでのレビュー:絶対に買ってはいけない未完成品

これまでオフライン、オンライン合わせて有料作品を中心に100作品以上のマーダーミステリーをプレイしてきました。中にはつまらない作品もあってレビューでも指摘してきましたが、ついにそれらを超えるプレイすべきでない作品に巡り合ってしまいました。
かつて低評価を付けた作品はバランスが悪い、没入感が低いなど、ゲーム体験の満足度を下げるさまざまな原因はあるものの、少なくとも始めから終わりまでプレイすることはできました。

しかし『氷の薔薇が溶けるまで』は未完成品で、まともにプレイすることがそもそもできません。それも記述に誤りがあるといったエラッタで対応できる程度ではなく、重要なパーツがいくつも欠けています。
またパーツがすべてそろったとしても出来上がるのはプレイする価値のないバランスの悪い作品で、マーダーミステリーとして評価すべき点がまったくないという(ある意味で)完全無欠な作品です。
なまじイラストなどゲーム以外の部分のクオリティが高い分、ゲームの質も担保されているのだろうと期待してしまうところですが、だからこそ「絶対に買ってはいけない」作品です。

ゲームとは何か……といってもカイヨワに立ち戻るのではなく、ここで挙げているのはもっと即物的な問いです。
ゲームをプレイするためには、ルールと目標が整備されている必要があります。プレイヤーは一定の制約下で目標を目指し、その中でほかのプレイヤーと競合したり協力したりします。それがアゴンになります。
ということは完全に機能するルールがなければ、そもそもゲームとして遊ぶことはできません。ごっこ遊びとLARPやTRPGとの違いは、ルールが用意されているかどうかです。またルールはすべての要素が揃っていないと機能しません。
たとえば麻雀で、「最高得点を目指すこと、牌、役、ツモ順」などは決まっているが、点数計算のルールがなかったとします。この状態では麻雀ぽいことはできても、麻雀として完成していないのは自明でしょう。

本作がゲームとして機能していない大きな要素として「まともに問いに答えていない」「ルールが未整備」が挙げられます。
「問いに答えていない」というのはキャラクターの目的が何かという定義づけの部分です。
本作ではキャラクターの勝利条件が「目的の達成」となっています。
あるキャラクターの目的部分の記述をそのまま引用すると

長編ボードゲーム「第五の精霊」は四大精霊(炎、水、風、大地)を調停する第五の精霊(愛)を題材にしたゲームである。しかし氷結の精霊王は存在せず、精霊の調和が崩れた現象に過ぎない。
なぜ知っているかというのも、実はバイト代で自分で購入して中身を知っているため。

とあります(原文ママ)。
「これがあなたの目的です」と言われても、なにをすればよいのかわかりようがありません。
当たり前の話ですが、目的は平叙文ではなく命令文で書かれるべきです。
その当たり前のことができていない時点で、ほかの要素もまともなわけがないというのは容易に推測できるでしょう。作者がゲームの無縁の人生を送ってきたというのであれば、ゲームの常識を知らないのも仕方ないかもしれませんが、アナログゲームに造詣がある方のようです。

「ルールが未整備」というのは上げはじめればキリがないのですが、「死体を調べる判定に成功した場合に入手できる情報は書かれているが、どうやって調べるのかは記述がない」、「判定時は行為ごとに設定された難易度と冷静度という能力値を比較して成否判定を行うという記述はあるが、どの行為にも難易度の記載がない」、「攻撃手段という能力らしき記述はあるが、どうすれば相手を攻撃できるのかはわからない」など、ほとんどのルールが未完成です。

まともに整備されているルールも少ないながらもあるのですが、出来上がったものは欠陥ルールです。
本作では情報カードの類がなく、キャラクター設定に書かれた情報、犯行に関する情報についてはお互い会話で引き出すしかありません。
この時に冷静度という値を1点消費することで本当のことを言わせる、言いたくない場合は質問された側が冷静度を1点消費することで回避できるというルールがあります。
このルールを見てすぐに思いつくのは「あなたは犯人ですか?」と質問することです。
プレイヤーは4人で1人あたりの冷静度の点数は全員同じですから、結果がどうなるかはお察しの通りです。

そしてマーダーミステリーとして致命的に問題なのは、情報カードの類がないので、これ以外の方法では本人が口にしない限りは証拠や動機も一切出てこないということです。
つまり論理的な推理で犯人を導きだすことはできません。

ほかにもコンポーネントに不備があり、そのせいでゲームが崩壊しそうなど、ほかの作品では大きな不満点として挙げるべき点は多々ありますが、この作品においてはもはや大事の前の小事です。
本作で1つだけ評価できる工夫があるとしたら、GMレスでもプレイできるように読み上げ(ゆっくりボイス)を使ってゲーム進行を代行するという試みです。これ自体はプレイヤーの困りごとを解決しようとするよい着眼点です。
ただ、YouTube等でゆっくりボイスを聞いたことがある方ならお分かりになりますが、抑揚のない読み方で読み間違いもあり、初めて聞く内容を字幕なし、音声のみで聞き取れるほどの精度はありません。なにを言ってるのか、しっかり理解するのは困難です。

総じて言えることは「テストプレイをまったくしておらず、見直しすらしていない」ということです。
ゲームバランスや没入感に関してであれば、プレイに参加した人の感じ方やゲームの展開にもよるので、テストプレイを相当数重ねる、ただプレイしてもらうだけでなく問題点が洗い出される工夫を行う、ベテランプレイヤーを手配するといった知見が必要です。
しかしここで指摘しているのはそれ以前の問題で、1度でも実際にプレイしてみれば簡単にわかることです。
2000円で販売する時点で作者には最低限の質を担保する義務があります。その義務を果たせていないようでは返金を求められても文句はいえないでしょう。

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