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SUN DOGのレビュー

※本投稿は2020年2月に書いたレビューの再構成バージョンです。

こんな人に特におすすめ:ピカレスクロマン好き(ワルの世界に浸れる人)、没入感あるマーダーミステリーをプレイしたい人

没入感を高めるためのイントロダクションや幕間の演出、囚人のジレンマ的なプレイヤーの選択---と国産第2世代の作品だけあって良くできています。推理やプレイヤーの満足度で気になる部分もありますが、全体としてはおすすめできる作品です。
「SUN DOG」はロールプレイと個人目標の追及、推理が渾然一体となった、マーダーミステリーでないと味わえない体験を提供している作品といえるでしょう。

密談と全体会議、カードによる情報収集という基本的なマーダーミステリーのスタイルは踏襲しつつ、新たな試みを導入しようとする工夫が感じられ、それは成功しています。
没入感を高めるロールプレイと個々人の目標達成のバランスも、どちらかに偏ることなくうまく取れています。
また店内の雰囲気もそれらしくて、レンタル会議室などより没入感がはるかに高まります。ここは常設の専門店の強みです。

「内部に潜入した捜査官を特定する投票」システムがアイロニカルで、個人目標の追及というマーダーミステリーの要素のアンチテーゼ的でもあります。
「黒すぎると犯人として処刑されるし、白すぎても捜査官として処刑されるかもしれない、灰色でいるべき」というのは「SUN DOG」という作品にマッチしていて、メタ的な視点でもよくできていて、個人的には気に入りました。
ただこれは制作者や批評家的な視点での評価かなとも捉えていて、プレイヤーとしては毀誉褒貶ありそうだなとも感じました。
自分が犯人ではなくて殺人事件の犯人かどうかを疑われた場合、アリバイや物証、動機と否定する要素がいろいろとありますが、捜査官でないと否定するのは悪魔の証明に近いものがあります。
それで疑われて実際にそうであればまだしも、そうでなかったときは回避不能ではという不条理を感じて満足度が下がってしまいそうです。

気になった点は推理とキャラクターの濃淡です。
推理に関してはマーダーミステリーで常に加減が難しい要素です。簡単すぎれば犯人がキツいですし、手がかりが無さすぎると犯人以外が納得いきません。
本作においてはこうすればよかったのかという納得感が薄く、すっきりしないまま終わった印象を受けました。没入感と個人目標に比べると推理面の作りが甘い印象です。
手がかりがすべて開示されれば論理的に特定の人物が犯人として浮かびあがる。ただし個人的な思惑があって開示されない、あるいは最終的には開示されても時間が足りない。そのため2~3人に絞り込めるくらいというのがちょうどよいくらいの加減ではないかと考えています。
たとえば、アリバイではAさん、Bさん、Cさん、動機ではBさん、Cさん、Dさん、物証ではCさん、Dさん、Eさんであれば3つ揃えばCさんになりますが、2つだと2人、1つだと3人までしか絞り込めません。

キャラクターの濃淡(配役)はすべての参加プレイヤーの満足度に関わることです。
主となるストーリーに直接関わらない"脇役"のキャラクターをプレイすることになった場合、"主人公格"をプレイした人との間で満足度に開きが出るだろうという点です。
主となるストーリーを複数用意して、いずれかで主人公格に配役することで解決できるはずです。言うは易く行うは難しというのは承知していますが、商業作品としては必ず取り組むべきことです。

同じお金と時間を費やしている、1回しかプレイできない、事前に配役を知りようがないという中でプレイするのに、"キャラガチャ"で満足度が大きく変わるというのは長期的にマーダーミステリーを成功させていく上での障害でしかありません。

いろいろ不満も言っていますが「SUN DOG」はクオリティが高いと思います。
マーダーミステリーが日本で話題になりだしたのが2019年の春、当初は中国のゲームのローカライズでしたが日本人が好む作風の質が担保されたゲームがわずか1年足らずで出てきたというのは、急激に広まっている証左ですし、これからの進化も楽しみです。

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