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Bright Choiceのレビュー

※本投稿は2020年1月に書いたレビューの再構成バージョンです。
こんな人に特におすすめ:TRPGらしい選択を作中で行いたい方、ロジカルな推理を重視する方

マーダーミステリーはロールプレイ重視ではありますが、同じくロールプレイするTRPGとは大きな違いがあります。
それは「プレイヤーの選択」です。

マーダーミステリーでは犯人を探す/逃げ切る、個人目標を達成するというのはキャラクターの既定の行動であり、プレイヤーが「私ならこう行動するのに」と思ってもそれを実行することはできません。
犯行自体はゲーム開始時点ですでに過去の出来事ですし、個人目標もプレイヤーがそのキャラクターにふさわしいであろう行動を勝手に設定することはできますが、その行動をとることで勝利点が減るのであれば、勝利点を下げてでも押し通すことはなかなか難しく、実際的にはできないのと同じです。
ゲームの目的やプレイ時間に依るところはありますが、自由度がある程度制限されています。

自由度がないこと自体は価値中立で、RPGではないのでそういうゲームだといえばそうではありますが、キャラクターを演じることで没入感を高めるのはマーダーミステリーの大事な要素です。場合によってはゲームの世界に入り込めないということがあります。
自分が取らない選択であっても、そういう行動をする人はいるだろうとプレイヤーが納得できれば没入できるでしょうが、キャラクターの行動が非合理的すぎる、まったく理解できないとなると、演じ続けることが苦痛になってゲームから心が離れてしまいます。

「Bright Choice」はゲーム中にプレイヤーの選択を導入することで、プレイヤーとキャラクターの一体感を増す仕組みが取り入れられています。
おかげでキャラクターへ自分の想いを重ね合わせることができる情感ある作品になっています。通常のマーダーミステリーではキャラクターの心情へプレイヤーが寄り添っていきますが、本作ではプレイヤーの選択=キャラクターの選択で結末を迎えます。
プレイヤーの選択が物語に介在することで大いにイマーシビティが高められています。
1つ残念なのはエンディングの演出があっさりだったことで、それぞれの想いを反映したエンディングがあればもっともっと叙情的な作品になるでしょう。

ロールプレイを重視する姿勢は探索にも見られ、従来型の調査ポイントでカードを引くのとは異なるシステムが導入されています。
その仕組み自体はそこまでうまく機能しているとは感じられず、従来型でもよかったのではとは思いましたが、既存の作品と異なる新たな体験を作り出そうという気概は感じられました。

推理ではロジカルな思考がかなり重視されていますが、推理が得意な方が複数人いないと真相に近づけず、プレイヤー構成次第では五里霧中になりそうで、もう少し難易度を下げてもよいかもしれません。
この点は追う側、追われる側のバランスに直結するので調整は難しいところではありますが、プレイヤーの選択を取り入れた叙情的な作品ということを重視するのであれば、食い合わせは悪くなってしまいます。
キャラクターに没入しつつも大事な決断を下さなければいけないとなると、犯人を探す推理に割り当てられるリソースは限られてしまいます。
没入感、個人戦、推理の3つをバランスよく配分するのであれば、制作、プレイともに実現可能ですが、どれかを重視するとなるとほかの要素は薄くせざるを得ないでしょう。

自由度がありそうでそれほど行動の幅がないのがマーダーミステリーで、プレイヤーの選択を用意した「Bright Choice」はマーダーミステリーの自由度を高めた作品です。

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