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5DIVEのレビュー:ニューウェーブマダミスの先駆となる傑作

はじめにお断りしますが、『5DIVE』は従来型の分類でいえばマダミスではなくLARPです。
プレイヤーは登場人物の1人となって作品の世界観の中で事件解決のために決断や選択を行いますが、プレイヤーの中にいる犯人を探すわけではなく、競合や勝敗といったゲーム性も存在しません。
しかし本稿では敢えて"マダミス"の傑作と位置づけています(むろん、LARPとしても傑作です)。

『5DIVE』では登場人物の1人として作品の世界観に深く没入し、複雑な事件を協力して解き明かすことに重点が置かれています。
プレイヤーは物語の中でまさに刑事になった感覚を味わいながら、推理の面白さを存分に楽しむことができます。

プレイヤー間の対立を排除することで、世界観への没入と推理に集中できるよう設計されています。
競合によって駆け引きや勝敗が生まれ、それが従来型のマダミスの魅力の大きな要素ではありますが、一方でより深い没入感、難しいミステリーを実現させる妨げにもなっています。
本作はそもそもゲームではないため、ゲーム性が排除されています。

没入感を強化するのが細かく作り込まれたアイテム類やNPCとの対話です。
捜査資料や証拠品らしいアイテム類は自分たちが刑事であるという雰囲気を盛り上げてくれます。
そして特に本作の魅力の大きな位置を占めているのが容疑者(NPC)への取り調べです。キャラクターとしての会話は従来のマダミスにもありますが、『5DIVE』ではプロの演者が没入という面でも推理という面でもさりげなくリードしてくれます。
店舗の空間演出も相まって、刑事として取り調べを行うことで捜査を進展させる感覚を存分に味わうことができます。
店舗公演ならではのリッチな体験といえるでしょう。

キャラクター設定は用意されていますが、あくまで事件解決が主であり、物語が動いていく作品ではありません。
このためプレイヤーは登場人物ではあるものの、ロールプレイは良い意味でルーズで、レイヤーのさじ加減次第です。
ただそれぞれのキャラクターの背景を深掘りすることで物語の解像度と理解度が向上するので、この点は相互理解を深めるさらなる仕掛けがあるとより良かったでしょう。

事件の解決には、プレイヤーたちが持ち寄る断片的な情報を組み合わせることが求められます。
脱出ゲームとは異なり、推理に必要な要素は物語と密接に関連しています。情報量は多いですが整理する時間は十分にあり、全貌が解明できないということはないでしょう。

『5DIVE』はこれからのマダミスが競合よりも物語体験重視に進化していくことを示唆しています。
プレイヤーの共感と参加を促すこの新しい形式は、ニューウェーブマダミスの礎となるでしょう。
没入の深さと推理の楽しさを融合させた『5DIVE』は、ジャンルに新たな息吹を吹き込む作品として、高く評価されるに値します。

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