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相続では「法律婚」がやっぱり有利

相続においてよく問題になるのが、「事実婚」と「法律婚」の格差・・・。

婚姻届ひとつで、たとえ婚姻期間が1日でも、届出さえしていればパートナーの「法定相続人」となることができます。しかも、法定相続分は相続財産の2分の1(遺留分もあり)。

しかし、「内縁関係」にとどまる限り、共に過ごした時間が20年だろうが、30年だろうが法律で保護される相続分はありません。

だから、「遺言書を書きましょう!!」

・・・ここまではよく聞く話。

確かに、遺言書を作成することによって、内縁関係にあるパートナーに財産を残すことは可能です。婚姻届けをためらう場合(2度目の結婚ですでにパートナーに成人した子がいる)。法律婚が認められない場合(同性婚)、遺言書を作成することで「とりあえず、財産を残すこと」は可能です。

しかし、どうしても「法律婚」との間には、歴然とした差があります。

今回は、その他に「法律婚」だから認められる「優遇措置」をいくつか書いてみたいと思います。

相続税について

相続税も法改正のおかげで(?)、対象となるケースが増加しています。

税法では、相続財産の減額措置や控除がいくつか用意されています。エンディングノートなどで資産の棚卸をした後、気になる方は税理士(会)や税務署に相談してみるのもいいかもしれません。

1.基礎控除

これは、みなさま既にご存知かとおもいます。

相続財産-(3,000万円+法定相続人の数✖600万円)

2.配偶者に対する相続税額の軽減

配偶者は、実際に取得した正味の遺産額が「1億6,000万円」または「法定相続分相当額」のいずれか多い額までは相続税がかかりません。

1億6,000万円は大きいですね・・・。しかし、この制度を利用できるのは「法律婚の関係にある配偶者」のみです。

配偶者居住権について

配偶者居住権は平成30年に新設されました。制度の概要は、「配偶者の住居を確保する」です。この制度を利用することで、従来の住居を手放すことなく公平な遺産分割が可能となります。

1.長期の配偶者居住権

相続財産の構成が不動産とわずかな預貯金の場合、複数人の相続人間である程度公平に遺産の分割をしようとすると、不動産を売却しなければならないケースが多く見受けられます。

あるいは、住居はあるが生活資金がない・・・といった状況が生じます。

配偶者居住権を設定することで、不動産の所有権を子に相続させ(配偶者は住み続けられる)、生活に必要な資金として預貯金を配偶者が相続することが可能になります。

2.短期の配偶者居住権

これは、1.と若干異なり、被相続人の死後半年はこれまでどおりの住居での生活が保障される制度です。

1.に比べて2.の制度は利用には工夫が必要ですが、いずれにしても「法律婚の関係にある配偶者」にしか認められません。

このほかにも、住まいを守る制度として、「小規模宅地等の特例」という税法上の制度がありますが、やはり法律婚関係にある配偶者でしか利用はできません。

持ち戻し免除の推定

こちらも、平成30年に新設されました。

婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他の一方に対し②その居住の用に供する建物又はその敷地を遺贈又は贈与したときは、持ち戻しの免除の意思表示をしたものと推定する、というものです。

「持ち戻し」とは、遺産分割の際に生前に贈られた財産を加味して分割協議をすることです。

簡単に言うと、遺産分割の際に「親父が生きている間に不動産(や現金等)にもらったんだから、相続では遠慮してくれ」みたいな感じです。

免除の推定があることで、「それはそれ。これはこれ」と言うことが可能です。これも、やっぱり「法律婚の関係にある配偶者」しか対象となっていません。

さいごに

今回は「法律婚」は相続でこんなに有利という内容で書いてみました。

誤解いただきたくないのは、決して法律婚推進派でも事実婚反対派でもないということです。

現在、日本は婚姻制度(相続法、家族法)に限らず、あらゆる法分野で実情や価値観の多様化にそぐわない条文が多く見られます。

とくに事実婚を選ばざるを得ない方々にとっては、不公平(あるいは違憲)とも思えるかもしれません。ですが、逆の視点をもてば、一度もあったこともない老親の再婚相手が(しかも婚姻期間が1年未満!)が財産の半分をもっていくとしたらどうですか?

やはり、釈然とはしないですよね・・・。

最近では(といってもずいぶん昔ですが)、非嫡出子(いわゆる婚外子)の相続分が嫡出子と同じになりましたが、それだって、法改正まで数十年の時間を要しました。

様々な事情から事実婚を選ばざるをえない方は大勢いらっしゃいます。

法改正をあてにはできません。

せめて、遺言書で実現できることがあるならば、できることはすべてやることがパートナーへの責任なのかもしれません。

われわれは、既存の制度の下でいかにご相談いただくみなさまの思いを実現できるのか、頭使わなければいけませんね。


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