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【表現評論】メモリーズオフ それから コアレビューその23 いのり&いのりトゥルールート4(終)【全作再プレイシリーズ】

●メモオフシリーズ、その他作品、様々なネタバレが含まれます。

⚫︎前回の記事

⚫︎一蹴が昔のことを思い出したら嫌われる

といのりは思い込んでいたようです。なんで? 一瞬意味がわからなかった。けどよくよく考えると、つばさちゃんの立場としては正しいのか。何せ自分が外に出たいとか言い出したから一蹴君事故ったわけだし。いのりがつばさちゃんの立場を堅持していると考えると、いのりの行動は辻褄があう。いのりは過去がバレて一蹴に嫌われたくないから、トビーの言うことに従ったのだと、一蹴君は理解したようです。いやいや。君が好きないのりさんは、相手を適当に振って傷つけてまで自分を守ろうとするような、そんなに浅はかな女なのかい、と言いたいが、もはや正常な判断力が失われているのでしょうがない。色々ありすぎたからね。相手は偽つばさちゃんなんで話が噛み合わないけど、有頂天モードで何も気づかない男。

⚫︎ソオチンニャン人形を流すいのり

雨は上がったからと、一蹴にもらったはずの人形を川に投げ捨てるいのり。これ自体はほたると健ちゃんもやってたことですけどね。ただいのりが投げた理由はわからない。その人形はほたる達とは違って、10年の絆みたいなもんですからね。普通に考えると手放したくはないはずだけど、苦しみながらも投げている。ありうる理由としては、一蹴がリナのことを思い出さないようにですかね。いのりの行動原理の全てがそれに集約される。結局アメリカに行くわけなので、全てと決別する意味合いもあるのかもしれない。

⚫︎リナ

何も言わず、突然アメリカに逃亡しようとするいのりを捕まえて、ドラマのように海岸で向かい合う二人。こいつらが過去の話をしだすと絶対現れる男が今回も現れます。ここでようやくトビーから本当の真実が語られます。

本当につばさちゃんはリナという少女だったこと。リナは事故のショックで術後の経過が悪くなり亡くなったこと。いのりがその後つばさちゃんになりすましたこと。一蹴はリナのことを忘れて何食わぬ顔で生きていたこと。等々。リナを殺した罪を背負って一人で孤独に苦しみ続けろというのが、トビーの考えなので、いのりと一蹴の状態は、トビーにとっては許し難い状態だったわけですね。

いのりは自分で話すからと言って時間稼ぎをしていたようですが、結局話さずにアメリカに逃亡しようとしたと。それはどうなんだ。逃亡したら結局トビーが話してしまうのでは。まあ、一蹴がトビーの言うことを信じるかだいぶ怪しいですが。いや、多分信じないな。と言うことはいのりの選択肢は妥当なのか。でもリナの名前を出せば思い出しそうだし、どうなんだろう。でも結局今のままでいてもいずれはバレるわけだし、ワンチャン逃亡したほうがマシ説はある。

「雨は……」

「雨は、本当にあがったんだね……」
「あがってほしくなかったのに……。ずっと、そう願い続けてたのに」

メモリーズオフ それから

人形を流したのも、雨があがってほしくなかった、という願いがあったようです。一蹴君は、つばさちゃんじゃないからお前は誰だ、といのりを問い詰めます。答えないいのり。

「わたしは、確かに一蹴に救われたんだよ」
「一蹴のおかげで、わたしはこうしてここにいられるんだよ」
「だから、今度はわたしが一蹴を守りたかった。一蹴の力に……なりたかった」

メモリーズオフ それから

そうう言い残して、いのりは去っていきます。引き止められない一蹴君。

それにしても扉さんは人が不幸になって楽しいのだろうか。やっぱりこいつは右京さんですわ。真実が幸せよりも優先されると思ってる厄介なタイプの人。

⚫︎リナの墓参り

トビーに教えられた墓に参ると、母親と遭遇します。毎日バラを一本供えているとか。うわぁ。この話、めちゃくちゃメンタル抉られるな。自分のせい(本当に自分のせいかはともかく)で死んだ相手の母親が、毎日墓参りしているとか、しかもそれを全部忘れてたとか、かなり抉ってくる。

母親との会話で、リナの隣のベッドにいた、リナよりも重病を患っていた人物が、いのりだったことがわかります。だから一蹴に救われたというのは本当だったわけです。全てを知った一蹴君は、リナに対する罪悪感と、今まで重い嘘をついてまで自分を守ってくれたいのりに対する罪悪感で、どん底状態になります。

やっぱりこの深い自己犠牲がメモリーズオフなんだよなぁ。いのりは唯笑に連なるメモリーズオフの真ヒロインですよ。間違いない。

⚫︎トビーの人生観

償いのために、リナが来たがっていた教会を修復すること決めた一蹴君。最後の最後にまた扉さんがやってきます。

「お前はリナのことが好きだったんだな」
「黙れ」
「否定することなんてない。それは、恥ずかしいことじゃない」

「黙れって言ってんだろ」
「そんなんじゃねえんだよ」
「分かってんのか?」
「存在を忘れられてしまうくらい、残酷なことはねえんだ」
「だからオレは、お前が許せなかった……!」

メモリーズオフ それから

トビーはリナが好きだったんでしょうか。気になるところだけど、多分それは本質じゃないですね。リナが誰であろうが、トビーは同じことをやってるはず。トビーの人生観みたいなものを考えると、自然状態、原始状態と言ってもいいですが、その状態の人間の生命、もっと大袈裟にいうと魂に、重きを置いてるように思えます。要するに不自然なものが嫌いと言ってもいい。不自然なものとはつまり嘘です。ショーゴ君が嫌いなのも自分に嘘をついて自然な状態から遠ざかるからだし、いのりと一蹴君を憎むのも嘘をついて自然な状態、つまり真実から遠ざかるからです。おまけに忘れてしまうというのは人間の生命に対する冒涜でもあります。真実厨なのは、人間の自然状態に執着する心境かあるんじゃないでしょうか。なぜそこに執着するのかは不明ですが、不自然な生まれのせいですかね。

それでもつばさちゃんではなく、いのりが好きだから、いのりを待ち続けたいという一蹴君に対してこう返しています。

「あの女にも、罪がある」

「罪を犯したヤツ同士、お似合いかもな……」

メモリーズオフ それから

自然状態に戻った、嘘がなくなった一蹴君に対しては、比較的穏やかになっています。深歩ルートのショーゴ君への態度を思わせる。もう一つは、やっぱりオレのようにはなってほしくないという思いが、ひとかけらくらいはあるんじゃないでしょうか。トビーは自分の罪を背負って、一生孤独に苦しみ続けて人生を終えるはずです。だけど、お前達はそうならなくてもいい、という思いがちょっとはあったのかもしれない。そのくらいの人間味は見せていいはず。その後二度と登場しないけど、今日も一人孤独に生きているに違いない。

⚫︎いのりと再会

一蹴君は教会を訪れたいのりに対して、本心を伝えます。過去のことはわかったと。自分のせいで嘘つかせてたこともわかったと。リナの罪は背負って生きていくと。それでもオレはいのりが好きなんだと。最後に重要なのはそこだけですからね。それが伝わればあとはなんとかなるということで、お互いの気持ちをを確かめ合って、無事物語は終わりました。大きな罪を抱えて生きていくというところは、メモリーズオフみがあります。最後に人形の中からリナの手紙が見つかります。それは今までの感謝の手紙でした。

⚫︎雨に願いを……

メモリーズオフの本編の曲は全部聴いていますが、間違いなくNo. 1の名曲です。ジャジーな感じで、しんみりとする曲が、小林沙苗さんのアルトな歌声と非常にマッチしてます。歌詞もグランドフィナーレに相応しい内容。作中のいのりの心境をよく表しているんじゃないんでしょうか。比喩も素晴らしく、情景がありありと浮かんできます。歌詞が完璧に内容と合致しているという点で、作品を最後までやった人間にだけ伝わる素晴らしさなのかもしれません。

⚫︎いのり&いのりトゥルールートまとめ

いのりルートはグランドフィナーレに相応しい物語でした。最高のシナリオ。ここまではやっぱ師匠って神だわ→やっぱりかりんって神だわ→意外にのんちゃんルートも面白かったわ→意外に意外に縁ルートも神だったという感じで、オール4番バッターみたいなゲームになり、期待値は上がりに上がりまくっていたわけですが、その期待を全く裏切らない物語でした。村上とか岡本とかが並んでて、最後に大谷がやってきたレベルの物語。やっぱり大谷なんだよなぁ。

これほどヒロインの主人公に対する想いが伝わってくる話は、他にないんじゃないですかね。あるとしたら唯笑ちゃんくらい。なぜそう思うかって、口だけじゃなくて行動が伴ってるからですね。行動とはつまり自己犠牲です。嘘ついている状態って、基本的に人間にとっては不快なわけで、重大な嘘であればあるほど不快感は増すわけですが、それをあえて相手のためにずっとやり続ける、10年やり続けるというところに、恐ろしいほどの悲哀と、深い自己犠牲と、固い意志が感じられます。最後には自分の全てを投げ出してでも、主人公を守ろうと行動する。一蹴を守ろうとする気持ちと、一蹴を愛する気持ちの板挟みになっている様子に、心を打たずにはいられません。リバースカットでこの辺の心情が知りたいですよ。リメイクして。

唯笑も笑顔とは裏腹に哀しいキャラだったけど、いのりはそれ以上のものを感じましたね。まさにメモリーズオフ。メモリーズオフのヒロインオブヒロインに相応しいキャラでした。今後も破られることはなさそう。より詳しいまとめは、一番最後の記事でやりたいと思います。

でも次が最後じゃないんだな。まださよりんが残ってる。

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