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センチメンタルサタン


「サンタ!聞いてくれ!」サタンはドアを開け放ち、息を切らしながらサンタの前に立った。Tシャツにパンツ一丁のサンタは、相変わらずゲームをしていたが、サタンの必死な様子にゲームを一時停止した。

「どうしたんだ、そんなに慌てて。」サンタは不思議そうにサタンを見上げた。

「20年だ!20年ぶりに、あの少年が俺を求めたんだ!『また悪夢が見たい』って…俺を呼んだんだ!」サタンは笑顔を隠せず、興奮した声で続けた。

サンタは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにニヤリと微笑んだ。「そいつは良かったな。お前もついに愛される存在になったわけだ。」



地獄の玉座で、サタンはいつもと違う何かを感じていた。無限の闇と共に過ごす日々の中で、人々に悪夢をばら撒き、愛を奪い取ることに専念してきた彼だったが、最近、その行為に何か虚しさを覚えていたのだ。

「愛って、なんでこんなにしぶといんだ?」サタンは玉座にどっしりと寄りかかりながら呟いた。彼はかつて愛を嘲笑していたが、今、その力強さに恐怖すら感じていた。

「サタン様、それはですね――」すぐ隣で控えていたベルゼブブが、眼鏡をクイッと持ち上げて答えた。「人間の心の中には、愛というものが根付いているからです。いくら我々が奪おうとしても、新しい愛が次から次へと生まれてくるのです。」

サタンはベルゼブブの言葉を反芻しながら、深い考えにふけった。「愛を奪うことはできない。それなら、理解するしかないのか…?」そう呟きながらも、心の中ではその考えを拒否したい気持ちがあった。しかし、愛を理解することに対する強い好奇心も芽生えていた。

ふと、彼の頭にある人物の顔が浮かんだ。「…サンタクロース、あいつなら愛を知っているかもしれない。」

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翌日、サタンはグリーンランドにあるサンタの家を訪ねることにした。冷たい風が吹きすさぶ中、彼は重々しい足取りでサンタの家のドアをノックした。

「おーい、誰だ?」中からは、ゲームの音と共に軽快な声が聞こえてきた。

「俺だ、サタンだ。」少し緊張しながらも、サタンは返事をした。

ドアが開くと、目の前に現れたのは――なんとTシャツにパンツ一丁という姿のサンタだった。手にはゲームのコントローラーが握られている。

「お前、なんでそんな格好なんだ?」サタンは戸惑いながら尋ねた。

「暑いんだよ、この季節。黒マントなんかよく着てられるな。」サンタはニヤリと笑いながら答えた。

サタンは一瞬、言葉を失ったが、すぐに本題に入ることにした。「サンタ、俺も愛ってやつを理解してみたいんだ。お前の服を貸してくれないか?」

サンタは驚いた顔をしたが、次の瞬間、彼の顔に悪戯っぽい笑みが浮かんだ。「おもしれぇな。いいぜ、どうせクリスマスまで時間もあるしな。ただし…」サンタは親指を立てながらウインクをした。「そんな簡単に愛が理解できるとは思うなよ?」

サタンはサンタから服を受け取り、慎重に髭もつけてみた。「これで、愛されるサンタクロースになれるのか?」鏡を見つめながら、サタンは心の中で不安を感じた。でも試してみるしかない。

サンタは彼の様子を見て微笑みながら言った。「愛を知りたいと言うが、愛は奪うものじゃない。相手を理解し、分かち合うものだ。そのことを忘れるなよ。」

その言葉がサタンの心に刺さった。分かち合うもの…。彼は自分の存在が他者から奪うことで成り立っていると信じていたが、サンタの言葉はその根底を揺るがすものだった。理解したいという欲望と、拒絶したいという本能がサタンの中で激しくぶつかり合っていた。

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サンタの服を着たサタンは、初めて地上の街へと降り立った。真夏の太陽がじりじりと照りつける中、彼はサンタの格好があまりに暑苦しいことに気づいた。

「この格好じゃ、愛を理解する前に蒸し焼きにされちまう…」サタンは冷や汗をかきながら呟いた。やがて、耐えかねた彼はある家の冷蔵庫に入り込むことにした。冷気が心地よく、サタンはしばしの休息を取る。しかし、心の中で一抹の不安が広がる。「本当にこれで愛を理解できるのか?」

冷蔵庫の中で、彼はサンタの言葉を再び思い出していた。「愛を理解し、分かち合う…。それが本当に可能なのか?」彼は愛というものを知らないがゆえに、その概念に対して恐れすら感じていた。

しばらくして冷蔵庫の扉が開き、一人の少年が驚いた顔でサタンを見つめていた。

「君は…本物のサンタクロース?」少年は目を輝かせながら尋ねた。

サタンは微笑みながら、少し戸惑い気味に答えた。「そうだ…俺は、サンタクロースだ。」

少年はサタンを見上げながら、不思議そうに尋ねた。「サンタさん、どうして冷蔵庫にいるの?」

サタンは一瞬、答えに詰まったが、すぐに冗談を交えて答えた。「暑くてたまらなかったからさ。グリーンランドとは違って、この街は熱すぎる。」

少年はクスクスと笑い、「じゃあ、ここでしばらく涼んでいってよ」と言って冷蔵庫のドアを閉めた。サタンは再び冷気に包まれ、ほっと息をついた。「これが…愛されるってことなのか?」彼は冷蔵庫の中で、自分が経験してきたこととは異なる温かさを感じていた。

冷蔵庫の中で過ごす時間が増えるにつれ、サタンは少しずつ少年と会話を交わすようになった。少年が日常の出来事や夢を語るたびに、サタンはその言葉に耳を傾け、何かが変わり始めていることを感じた。少年がサタンに語る言葉一つ一つが、サタンの心に少しずつ浸透し、「愛」というものが単なる感情ではなく、人と人とをつなぐ強力な力であることに気づき始めたのだ。

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ハロウィンの日が近づき、サタンは再び地獄へと戻らざるを得なかった。それで少年に別れの挨拶を言った。「もしまた俺が必要になったら、いつでも呼んでくれ。」

少年は不思議そうに首をかしげたが、「うん、また会おうね!」と明るく答えた。

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地獄に戻ったサタンを、神が怒りの表情で迎えた。

「サタン!お前は何をしているんだ!地上で何を学んできた!」

サタンは冷静な表情を崩さずに答えた。「ただ、愛というものがどういうものかを少し知った。」

神は一瞬、言葉を失ったが、すぐにその表情を引き締め、冷笑を浮かべながら言った。「愛を理解することは、お前の役目ではない。ましてや、あの少年にもう一度会うことなど許されない。だが…」神は不敵に笑みを浮かべた。「もし少年が再びお前を求めるなら、その時だけは許してやろう。まあ、そんなことはありえないだろうがな。」

サタンは神の言葉に少しの動揺を感じながらも、心の中で何かが変わりつつあるのを感じた。「だが、もしそれが本当なら――またあの少年に会いたいと思うんだ。あの感情が、愛だというのなら…それが悪いことだとは思えない。」

神はそれ以上何も言わず、サタンはその場を去った。サタンの心には新しい感情が芽生えていた。


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