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アルコール離脱症候群への対応①。実は致死率5%と高いんです。

飲酒歴を聞いて、大酒飲みだとわかったとき調べることオーダーすること、問題点が多くて研修医としては困ってしまいませんか?とくに、日常的に飲酒していた人が強制的な断酒状態となる入院で問題となるものといえばアルコール離脱症候群です。

今回は、アルコール離脱症候群の管理について勉強してみました。

参考にしたのは「ジェネラリストのための内科診断リファレンス」「ホスピタリストのための内科診療フローチャート」がメインになります。

アルコール生活で欠乏してしまうもの

アルコール多飲者でビタミンB1が欠乏しているから、点滴にはチアミンを混注しなければいけない!!

これはもう有名で僕も知っていましたが、足りないものはそれだけではないようです。

まず、電解質異常がアルコール多飲者では起こりやすく特にMgとKには注意が必要です。

Mgは血清濃度が正常でも、体内保有量は少ない状態のことがあります。そのためMgに関しては、正常値だから大丈夫と思うのではなく、大酒飲みで栄養不良のリスクが高いと考えられれば、血液データが正常でも初期から投与を開始しましょう。

Kについては、欠乏していることが多いのと、離脱症状による交感神経興奮によって低カリウム血症になる危険性があります。注意深いモニタリングが必要です。また低カリウム血症がある場合には、Mg欠乏が足を引っ張っている可能性もあるのでK補正と同時にMg補正も行いましょう。

また、ビタミンB1以外のビタミンBも欠乏しているようです。チアミンだけでなく、ビタミンB全体を補充したほうがよさそうです。

アルコール生活で欠乏してしまうものをまとめると

アルコールと栄養欠乏

アルコール離脱症候群の危険性について

僕たち医療スタッフはアルコール離脱症候群の危険性についてよく知っておく必要があります。

実は、アルコール離脱症候群は致死率約5%のとても危険性の高い疾患です。大酒家の入院では、特に早期に認知して治療介入する必要があります。また、その予防がとても大事になってきます。

特に日々観察してくれる看護師さんにも知って置いてもらい、早期認知に力を発揮してもらいたいと思います。

アルコール離脱症状をよく知る

アルコール離脱による症状は、お酒をやめて8時間後くらいから出てきす。交感神経の興奮症状がメインになり、頻脈、高血圧、振戦、発汗、顔面の紅潮、悪心、嘔吐、不安、焦燥感、幻覚などがあるとのことですが、症状を羅列されてもパッとしません。

ざっくりとしたイメージをするならば、”赤ら顔で発汗している人がそわそわして落ち着きがない”という感じで把握しましょう!

もう1つアルコール離脱症状を把握するにあたり重要なことがあります。それは時間経過です。

痙攣は断酒から12時間以降で出現することがあり、有名な振戦せん妄とよばれる、粗大な振戦と意識変容の状態は多くは断酒から2-3日後に遅れてでてくる症状です。

アルコール離脱症候群の予防の前に

それでは、大酒飲みの人が入院してきたら離脱症状を起こさないように全例十分に予防するようにしましょう!

というのは、少しやりすぎだと思われます。

予防にはよく知られている通りベンゾジアゼピン系の薬剤としてジアゼパム(セルシン)やロラゼパム(ワイパックス)が使われます。

ベンゾジアゼピン系の薬剤による副作用は多く、特に急性期治療としては離床が進まず、呼吸抑制と誤嚥のリスクも高くなります。

予防の必要ない患者には可能な限り避けたいことは言うまでもありません。

「断酒後4-5日たっているが、症状が軽いまたは無症状」ような人には予防は必要ないとされています。

アルコール離脱症候群の予防薬

上でも説明した通り、ベンゾジアゼピン系薬剤を使います。副作用は確かに問題で、軽症例に対する予防的投与には議論もあります。

予防によるメリットは以下の3点となります

①アルコール離脱症候群が発症すれば致死率5%と高い疾患であること。(明確な予防効果があるかどうかについては記載を見つけられませんでした。)

②ICU患者や待機的手術患者では予防投与でICU滞在期間の短縮効果が期待できる

③興奮やせん妄による、自己抜管やルート抜去の危険性が減る

以上のメリットを考慮して、必要な場面ではしっかりと予防が必要になるでしょう。また、その際の判断にはこまめなフォローができるような現場の人員や体制が整っているかということも重要な要因となります。

予防薬の投与量は以下の通りです

アルコール離脱予防薬


治療についてはまた次回書こうと思います。

まとめ

①アルコール生活で欠乏するのはビタミンB1以外にもMg、K、その他のビタミンB。Mgについては血清データは必ずしもアテにしてはいけない。

②アルコール離脱症候群は発症すると致死率5%と非常に危険な疾患

③早期認知と予防が重要で、”赤ら顔で発汗している人がそわそわして落ち着きがない”の患者には注意

④予防の対象とならない患者もいるため、こまめなフォローができる体制かも考慮して予防薬投与の開始を検討するっことが必要

⑤予防薬は、経口投与可能ならロラゼパム(セルシン)1gを1日2-4回。不可能ならジアゼパム(セルシン)5-10mgを1日3回投与する。その際には呼吸抑制と誤嚥に注意しつつ、早期離床を目指す。


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