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少しまえに家をリノベーションして、窓を二重サッシにした。
集合住宅であるから気密性という点では戸建てよりは高いと思われる。しかし築36年ともなると隙間風がはいり、冬は窓際に近づくだけで冷やっとする。エアコンの温風が苦手なものだから、長いことホットカーペットとオイルヒーターで暖をとり、ライトダウンを着込んで寒さを凌いできた。凌ぐと言ってもこれで凌げるのだから、いうほど寒くはないのかもしれないけれど。

「寒くない家」にするために床暖房を希望すると、設計・建築士のYさんから二重サッシにすることを提案された。気密性が上がり暖房の効率がよいのらしい。どれほどの効果があるかわからねど、そうすることにしたしだい。
新築さながらの家に戻ってきたのは昨年12月。Yさんの言うとおりにしてよかった。窓側にいても外気を感じず、冷えがこない。18畳の居間とダイニングで一度もオイルヒーターをつけることなく、床暖房の、それも一番低い温水の暖だけでひと冬を越せたほど暖かい家にしあがった。

家の暖かさに馴れてきたころ、二重サッシのもう一つの特徴である、防音効果の高さも実感することになる。
朝、雨の音や鳥の声で目覚めなくなった。耳を澄ましても、下の道を歩く子どもたちの話し声や笑い声も聞こえない。
ある日のことだ。近所で家事があった。火事に気がついたのは、*焦げた匂いがしたからである。窓は閉まっていたから、まずは自分を疑った。コンロの火を消し忘れ鍋を焦がしたのかと思った。が、火はついていない。自分の部屋にいた娘も焦げ臭いと居間にやってきた。ふたりで窓の外をみると、消防車が3台停まっている。結果を言えば、火元はうちから歩いて5分ほど離れた家。わたしたちが気がついたときには薄く煙が立ち上りほぼ鎮火したところであった。同じマンションに住む友人にLINEで火事を伝えたところ、30分以上前から知っているとの返信。たしかに消防車のサイレンは聞こえてはいたが、まさか目の前の道を何台も通っていたとは……。
ふと、外の世界から切り離されたような不思議な感覚に陥った。防音効果の高さとは、なるほど、こういうことなのだな。

知ろうとせずとも、雨や風の音で天気を、鳥や虫の声で時間や季節を感じとり、見知らぬ子どもたちの話し声や笑い声に和んでいる。夜中、酔って大声で歌っているだれかの歌声ですら、うるさくはなかった。ふりかえれば思いもよらぬほど、窓越しにきこえる音でわたしの暮らしは彩られていたのかもしれない。
季節が移ろい暖かくなったいま、2つの窓は開け放している。マスクの影響か、子どもたちの声はあまりきこえてこないが、風の音や鳥の声はきこえてくる。これだ、これこれ。


*窓が閉まっているのに焦げた匂いが入ってきたのは、壁にある通気口から。
 冬はこの通気口を閉じていました。

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