ピュアな弟

「ねぇちゃん!体が溶けちゃう!」
弟が突然半泣きで言う。
私中学生、弟小学3年生ぐらい。
一緒にお風呂に入っていたときのことだった。

「シャンプーが体についちゃったから!早くとって!早く!!」
弟は叫ぶ。

シャンプーが体につくと体が溶ける??
何を言っているのだろうか?
奇病にかかったのだろうか?

「大丈夫だよ。シャンプーで体溶けないよ」
「だって、ねえちゃんが言ったじゃん!」
なおを半泣きで叫ぶ弟。
私が?


時は遡ること数年前を
弟が幼稚園児だったころ。
やはり一緒にお風呂に入っていた。
モコモコと泡立つシャンプーを見て、幼い弟はすごい名案を思いついたとばかり、目をキラキラさせて飛び切りの笑顔で言った。

「シャンプーで体洗ったらもっとキレイになるよね!」

そしてシャンプーの原液を体に塗りたくった。

「ダメだよ!シャンプーが体につくと、体が溶けちゃうよ!」

固まる弟。そして泣き出した。

「やだぁぁぁ!」
「大丈夫!すぐ流せば大丈夫だから。ほら」
すかさずお湯を掛けて流してあげる
「ほんと?ほんとに大丈夫?溶けてない?」
「すぐに流したから大丈夫だよ。ねえちゃんが一緒にいてよかったねぇ」
「じゃあ、もう頭もシャンプーもできない?」
「頭は大丈夫だよ。ちゃんと泡だててシャンプーすれば大丈夫」
「そっかぁ、よかったぁ」


思い出した……。
弟はずっと信じて細心の注意を払って頭を洗っていたらしい。
弟には申し訳ないが爆笑してしまった。
ごめんよ、弟。

でも、なにもちょっとしたイタズラ心だけで言ったわけじゃない。
弟は肌が弱かった。合わない石鹸を使うとすぐに紅斑が出てしまう。だからシャンプーで肌が荒れないとも限らない。だから、シャンプーで体を洗うことをしないようについた嘘だった。

それにしても、ずっと何年も信じていたとはのんてピュアなんだろうか。
でも本人からしたら、さぞかし怖かっただろう。反省…。

その後、私は母親からしっかりとお灸を据えられた。

#エッセイ

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