作品「木辻町再訪」


木辻町再訪       
 
 
古い町並みが残る
ならまち
西のはずれ
木辻町
六年前の夏
暑さに負け
ふらふらと歩いていた
そんな
路地の奥に
老婆がいた
小柄でくすんだ地味な着物をまとい
不吉な眼で私を見つめる
かつてここは色町であり
その時代を
背負ったまま年老いた女だろうか
でも 
この考えは
しばらくしてから思いついたこと
当時
炎天下の細道で考えたことは
一刻も早く立ち去ることのみ
私はなぜか頭を下げて逃げ去った
 
先日 久しぶりに現場を訪ねた
以前は気づかなかったが
そこに古い祠が存在していた
もしかして妖婆は
祀られた神さまだったのかもしれない
灼けるような夏の日
あまりに暑くて
外の世界に姿を見せられたのだ
私が 
あの時
不吉な妖婆に
頭を下げたのは
間違いではなかったが
握手ぐらいしておけばよかったと
今頃になって後悔をした
 
 
 
 
 
 
 
 
 


『歩きながらはじまること』(七月堂)
『フタを開ける』(書肆山田)


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