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フランスで絶賛の画力!植物オタク少年の歴史冒険譚『アルボスアニマ』①~⑤

作者・橋本花鳥(はしもと・かちょう)先生は、その画力とストーリーテリングがフランスで非常に高く評価されている作家だ。

コミックリュウで連載されていた『アルボスアニマ』も、フランスでの集英社にあたるグレナ社からフランス語版第5巻が5月に発売されたばかり。

期待の作品とあるだけに、発売のプロモーションも盛んだ。

春ですね! アルボスアニマ第5巻。植物学者メリッサが衝撃の登場!ノアの日常に波風が……。偶然?それとも、ツンデレならではの遠巻き?存在感たっぷりに「私はここよ!」と叫びます。(超約)

作品は続々とフランスで出版!

『アルボスアニマ』以前の連載である『虫籠のカガステル』(全7巻)は2014年にフランス語版が大々的に刊行されている。

その年には、日本でもフランスのコミケとして知られている『Japan Expo』に特別ゲストとして招待された。

つい先日も、フランス大使館でのレセプションに、日本とフランスを結ぶ文化の絆の代表アーティストとして招かれている。日本以上に海外で知名度があるマンガ家といえるだろう。

(ちなみに、このレセプションにて鳥山明先生がフランス政府から騎士称号を授与されたニュースはこちら)

多くの要素をまとめている主人公の「異能力」

『アルボスアニマ』。噛んでしまいそうなタイトルだ。

アルボスとは「樹木」、アニマはアニメーションの語源にもなっている「命・魂」。

そのタイトルのとおり、植物採集者の少年を主人公に描いた物語は、想像を超えて、じつに大胆な歴史冒険もの。

アクションもあり、謎解き要素もあり、ファンタジーもあり、人間ドラマあり、という盛り沢山のピースを見事にまとめあげている。

まとめの要になっているのは、主人公の「起源追想」という植物のルーツや気持ちを感じ取る特別な能力だ。

このファンタジーが軸になって物語を動かしていく。

チートではない静かな異能力が非常に魅力的だ。

このストーリー構成の上手さが、海を越えて読まれているのだ。

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©橋本花鳥/徳間書店

巧みな筆力で描く「静」と「動」

植物のという「静」と、冒険譚という「動」。

このバランスはお話の上でも、描き分けも難しい。

しかし橋本先生のすごさは、これをなんの違和感もなく物語に溶け込ませていることだ。

主人公のノアは15歳。「起源追想」という特殊能力を持って生まれたために、ずっと家に閉じ込められて育ったため、ひ弱なもやしっ子だ。

しかし、こと植物となると膨大な知識と審美眼を持ち合わせる。

時は19世紀後半。航海時代の幕開けとともに、ヨーロッパでは空前の植物ブームが起こっていた。

亜熱帯やアジアのユリや蘭といった稀少種が宝石並みの価値を持ち、貿易商たちはこぞって採集、海上輸送にいそしんでいる。

そこに必要なのが植物採集者。生息地域や特性を熟知し、長い海運期間も枯れさせることがない。ノアは貿易商に雇われて、各国に旅をする。

こどもであり、体力のないノア。そして、稀少種の争奪戦。

ノアの「起源追想」はその業界では広く知られているために、身柄や採集した植物は狙われやすい。

旅では危険な地域や、物騒な競合相手に遭遇する。そのため、腕利きの用心棒を連れていて、ノアや花が狙われるたびに活劇が始まる。

優雅なヨーロッパでの花に囲まれた暮らしと、旅先での波乱の毎日。

ノアが行ったり来たりしている世界は物語の面白みであり、橋本先生の「静」と「動」それぞれの画力が余すところなく発揮されている。

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©橋本花鳥/徳間書店

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©橋本花鳥/徳間書店

そして、もうひとつの読みどころは、話のスケールの大きさだ。世界を股にかけて旅をするノアたちの仕事場は広大な森、鬱蒼と茂った樹海、秘境の岩肌だったりする。

そのダイナミックさの描写を、ページをめくった瞬間に見開きでバーン!と魅せられる迫力はぜひ体験してもらいたい。

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©橋本花鳥/徳間書店

植物採取というレアな職業を主人公においた本作。

自由闊達な冒険と、作者の人柄があらわれるようなやさしさ、丁寧な絵柄と構図は、心に強く残る。

『アルボスアニマ』はコミックリュウで1~4巻が発売され、5巻からは橋本先生自身の自費出版作品として継続している。

掲載誌の休刊という事態に遭った作家さんの書き続ける道のひとつを、橋本先生は切り拓いているのだ。


※本稿は「マンガ新聞」2019年06月08日公開記事の再掲です。


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