スパコンになった男【ショートショート】

とある男は車に乗って移動していた。
自動運転なので意識は遠くに向いている。
T社の車には運転手の脳と車に搭載されたOSとで直接やり取りする機能が付いている。
それは運転手の脳内のチップと車両間で無線でやり取りするシステムである。
T社はそのシステムを使って、移動時間の娯楽として脳からの出力に対するフィードバックを楽しむゲームを提供している。
また、快眠をもたらす信号で運転手はぐっすり眠り、目覚めたら目的地なんて機能もある。

「さて、ぐっすり眠って出張先のプレゼンに備えよう。」
そして、男は入眠機能をONにし、すやすやと眠りについた。

車はなぜだか目的地を変更した。
出張先のオフィスではなく町はずれの倉庫に向かっているようだ。
その倉庫はT社が、かつて市場を独占したが今は落ちぶれたEC業者から買い上げた大型倉庫であった。
男を乗せたまま車はその大型倉庫に入っていった。
他にも中に入っていく車が何台かいて、同じように運転手は眠っているようだ。

倉庫の中は立体駐車場のように改造されていて、
男を乗せた車は特定の場所に駐車され、
充電と情報交換を同時に可能にするT社規格のチャージャーに自動で接続された。
そして、男の脳は完全にジャックされた。

倉庫の中には既に1000台を超える車が集まっており、
繋がれた一つ一つの脳は効率的に計算機として使用されていた。

そして、その倉庫は世界初の人間を使用したスーパーコンピュータとして運用されることとなった。

会見でT社の代表は、
「我々の提供する最高のユーザー体験の参加者を心から祝福する。
今回はサプライズだったが、これからさらに地域を拡大して展開する。」
と語った。

その後、意識を失った人たちの体は、
300年以上メンテされて生体機能を失わないまま機能し続けたとのことである。

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