『知らない人んち(仮)』第1話
○和室
きいろ、荷物を慌てて片付けている。
きいろ(でも面白いもの撮れるかも……)
と、室内にノック音が響き、扉が開く。
ジェミが立っている。
きいろ、とっさに絵を背後に隠す。
ジェミ「……あなた、何をしたいの?」
きいろ「え? 私は……最初に言ったとおり……夕飯をご馳走するかわりに……家に泊まらせてもらおうと……ええ、そうなんです!」
きいろ、笑顔がひきつる。
ジェミ「ふーん……」
ジェミ、きいろの背後に回ろうとする。
きいろ、絵を見られないように体を反転させ、廊下へと後退する。
ジェミ「自分のうちは?」
ジェミ、きいろに迫る。
きいろ、さらに後退する。
きいろ「えっと……」
ジェミ「いつもそんなことをやってるの?」
ジェミ、さらにきいろに迫る。
きいろ「私、YouTuberなんで!」
と、背後から声が聞こえてくる。
キャン「YouTuberってそんなことやります?」
きいろ、驚いて振り返る。
ジェミとキャンに挟まれたきいろ、リビングに逃げつつ、
きいろ「な、なんでもありなんです! あ、もちろん犯罪はだめですよ!」
○リビング・ダイニング
きいろに続き、ジェミ、キャンが入ってくる。
ジェミ「犯罪?」
きいろ「……たとえば、ひとんちに勝手に入ったり、ものを盗んだり、怪我させたりとか……」
ジェミ「……」
キャン「……」
きいろ「(気まずくなり)ハハッ、たとえばですけどね!」
ジェミ「……」
と、ジェミ、きいろから絵を奪う。
きいろ「あっ!」
ジェミ「……どこにあった?」
きいろ、恐る恐る棚の下を指す。
ジェミ「ふーん……ありがとう」
きいろ「え?」
ジェミ「探してたの、これ」
きいろ「あ、そうなんですね……。私、『だれのなんだろうなあ』って思ったりなんかしたりして……」
きいろ、恐る恐るジェミの反応をうかがう。
ジェミ、絵に視線を落とし、
ジェミ「わたし、けっこう、うまいの」
きいろ「え? なにがですか??」
ジェミ「(真顔で)絵」
きいろ、思わず絵とジェミを見比べる。
ジェミ、怪しく微笑む。
きいろ、困惑を笑ってごまかす。
と、リビングの入口から声が聞こえる。
アク 「なにやってるんですか?」
キャン「あ、おかえり〜」
きいろ、アクの帰宅にちょっと安心する。
きいろ「あ、おかえりなさ……」
が、アクが抱えているバッグを警戒してしまう。
アク、バッグをテーブルに無造作に下ろす。
アク 「(全員に)そろそろ始めますよ」
きいろ「……始めるって、何を?」
アク、テーブル上にバッグの中身を無造作に広げる。
たまねぎ、にんじん、バラ肉などが飛び出す。
きいろ、生唾を飲み込む。
○リビング・ダイニング(午後6時)
きいろ、スマホで動画を収録している。
きいろ「はい、というわけで夕飯の準備ができましたー。じゃじゃーん。みんな大好きカレーでーす!」
テーブルにはアク、ジェミ、キャン。
それぞれにカレーライスが用意されている。
きいろ「私も、もちろん大好きなんですよ、カレー。きいろだけに!」
他3人「……」
きいろ「……では早速、いただきまーす!」
全員、食べ始める。
きいろ「(一口食べ)うーん、やっぱ、みんなで食べるカレーって最高ですね!」
他3人、淡々と食べている。
きいろ、好奇心に勝てないように、
きいろ「で、みなさん、ふだんは何をされてるんですか?」
他3人、固まる。
アク、きいろのスマホを気にする。
きいろ、「あっ」と察してスマホを置き、
きいろ「……じつは役者さんとか?」
アク 「……面白いですね。僕たちのどのへんが役者に??」
きいろ、アク・キャン・ジェミの順に指差していく。
きいろ「だって、イケメン、美少女……ミステリアス?」
ジェミ「ミステリアスって……」
キャン「アハハハ」
きいろ「あれ〜? ちがうのかー。ハハハ」
アク 「役者か……」
きいろ「……」
アク 「役者だったら、どんな役が合いますかね?」
きいろ「そうですね……。才能はあるが、いまだに売れない若者たち。上京して身寄りもなく、家賃を節約しようと引越し先を探しているうちに、あるシェアハウスが入居者を募集していることを知り、迷わず申し込む」
きいろ、喋りながら調子に乗る。
他の3人、黙って聞き入る。
きいろ「……引越し当日、たどり着いた先は、ごくふつうの一軒家。集まった3人は家の中に入ると異変に気づく。だれかがいるはずなのに、だれもいない。不審に思う3人だが、あることをきっかけにその家の秘密を知ってしまい……」
と、2階から物音が聞こえてくる。
きいろ、驚いて話を中断する。
が、他の3人は落ち着いている。
アク 「キャン」
アク、2階を顎で示し、キャンを促す。
キャン、うなずき、2階に向かう。
きいろ「……え、他にだれかいるんですか?」
アク 「……」
ジェミ、立ち上がる。
きいろ、ビクっとする。
ジェミ「(笑顔で)……おかわりは?」
きいろ「い、いただきます……」
ジェミ、きいろの皿を手に台所に向かう。
アク 「家族といえば……」
きいろ「はい?」
アク、淡々と話していく。
アク 「きいろさん、ご家族は? こういうことをしているの、ご存知なんですか?」
きいろ「こういうこと?」
アク、視線を移す。
きいろ、アクの視線を追う。
その先には、自撮り棒付きのきいろのスマホ。
きいろ「いや、あの、知ってるというか知らないというか……」
アク 「……失礼ですけど、YouTuberって本当ですか?」
きいろ「ほ、本当ですよ!」
アク 「……」
きいろ「そ、そっちこそ……」
アク 「そっちこそ?」
きいろ、立ち上がり、
きいろ「そっちこそ、こういうのとか、変じゃないですか?」
きいろ、犬のゲージを指す。
アク 「……」
きいろ「これ、犬のですよね。犬、どうしたんですか?」
アク、犬という単語を初めて発するように、
アク 「……“犬”?」
きいろ「犬です」
ジェミ「(淡々と)“犬”、のことなんて、誰が気にするんですか?」
ジェミ、カレーライスが盛られた皿をテーブルに静かに置く。
ジェミとアク、薄い笑みを浮かべている。
きいろ、調子が狂い、黙ってしまう。
2階からリビングの入口にもどってきていたキャン、3人のやりとりを注意深く見つめている。
○和室(夜)
風呂あがりのきいろ、スマホで動画を収録している。
きいろ「はい、というわけでご飯もいただき、お風呂もいただき、あとは寝るだけ! おやすみなさーい」
きいろ、スマホを置き、布団に入る。
と、きいろの脳裏に、絵を受け取るジェミ、犬に関心を払わないアクなど、この日の記憶が蘇る。
きいろ「『あとは寝るだけ』……?」
と、着信音が鳴り、きいろ、あわててスマホを確認する。
「いまどこ?」という母親からのメッセージが届いている。
きいろ、ため息をついてスマホを放り出し、布団に入る。
が、さらに着信音が鳴り、
「バイトやめたの?」「早く帰ってきなさい」というメッセージが届く。
きいろ、着信音を無視し、布団を深くかぶる。
と、耳元に声が届く。
キャン「(小声で)きいろさん……きいろさん……」
きいろ「えっ??」
目の前にキャンがいる。
きいろ、飛び起きる。
キャン「助けてください」
(続)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?