「タカヒロ」(テレ東ドラマシナリオ)

〈あらすじ〉
結婚式と披露宴が控えている良太郎(28)は、その招待客リスト作成のためにmixiにログインしなければならないが、パスワードが思い出せない。そんなとき、高校の同級生・由美(28)からの電話をきっかけに、当時の思い出が蘇ってくる。良太郎があえて忘れようとしていた思い出とは、タカヒロの存在だった。(原案『パスワードが間違っています』)

〈登場人物〉
良太郎(28)
由美(28)
良太郎の妻(26)

〈登場人物・回想場面〉
高校生の良太郎(高3)
高校生の由美(高3)
タカヒロ(高3)
村上先生(美術部顧問、50代)
サッカー部員1〜3(高2)

〈シナリオ〉
◯マンションの一室(良太郎の自宅)、夜
 本棚にはデザイン系の本など。
 部屋の奥では良太郎がPCに向かっている。
 PCの画面、mixiを表示している。
 何度かパスワードが打ち込まれるが、
 その度に「間違っています」のメッセージが返ってくる。
 良太郎の妻、部屋の隅から良太郎の背に語りかける。
妻   「ねえ、まだ、やってんの?」
良太郎 「ん……(生返事)」
 妻、荷物を整理している。
妻   「私ばっかりやって。引っ越す気あるの?」
良太郎 「悪い悪い」
妻   「……ねえ、こんな絵、描いてたのね」
 妻、荷物のなかから一枚のデッサンを掲げる。
 高校生の良太郎が描かれている。
 良太郎、絵を確認し、一瞬戸惑う。
良太郎 「……ああ」
妻   「ちょっとイケメンすぎない?」
良太郎 「勘弁してよ、絵なんてそんなもんだよ(苦笑)」
妻   「ふーん」
 妻、絵を置き、隣の部屋へ。
 良太郎、絵が気になる。
 と、良太郎のスマホの着信音が鳴る。
 画面には「090-××××-××××」の文字。
 良太郎、一瞬考えるが、電話に出る。
良太郎 「もしもし(探るような声)」
由美の声「もしもし」
良太郎 「(安心して)……なんだよ、急に(笑)」
由美の声「こっちこそ驚いたわよ」
良太郎 「ああ、届いた?」
由美の声「うん、『もう、そういう歳かー』と思ったけど」
良太郎 「いや、それでいろいろ整理しててさ……由美さ、mixiの俺のパスワードわかる?」
由美の声「えっ??」
良太郎 「高校のころだから好きなアーティストか何かかなあ」
由美の声「あるいは付き合ってた人の名前とかね」
良太郎 「……女の影さえなかったの知ってるだろ」
由美の声「だよね、冗談よ」
良太郎 「いや、ログインして美術部のコミュニティ見れば、村上先生の連絡先分かるかなと思って」
由美の声「えー、義理堅いね」
良太郎 「一応恩師といえば恩師だしね」

 * * *(回想始まる)

 ◯高校の美術室、午後
 村上先生、居眠りをしている。
 美術部員数人がデッサンを描いている。
 そのなかに高校生の良太郎と由美もいる。
良太郎 「うーん……」
由美  「どう?」
良太郎 「いや、どうかなあ」
由美  「聞いてみれば?」
 良太郎、村上先生を一瞥し、
良太郎 「聞いたって『対象をよく見ろ』とか言うだけだぜ」
由美  「まあ、そうだけどね」
良太郎 「……」
由美  「……」

 * * *(回想終わる)

 ◯マンションの一室(良太郎の自宅)、夜
由美の声「実際のところ、うちら、まともに描けるのようになったの2学期からでしょ」
良太郎 「たしかに(苦笑)」

 * * *(回想再開)

 ◯高校の美術室、午後
 良太郎と由美、扉から入ってくる。
良太郎 「うぃーす……」
 良太郎、固まる。
由美  「ちょっと、早く入ってよ」
 と、由美、良太郎の視線の先に気づく。
 タカヒロ、見事なデッサンを描いている。
 良太郎と由美、目を見張る。
 良太郎と由美、タカヒロの横を通り、自分の席へ。
 良太郎と由美、軽く会釈するが、タカヒロは一瞥するだけ。
 村上先生、居眠りをしている。

 ◯郊外、放課後
 帰宅途中の良太郎と由美、並んで歩いている。
良太郎 「……うまいけどさ」
由美  「え?」
良太郎 「愛想なさすぎだろ」
由美  「ハハッ、転入生?」
良太郎 「ああ」
由美  「でもちょっとかっこいいよね」
良太郎 「はあ? どこ見てんだよ」

 ◯高校の美術室、午後(別の日)
 良太郎と由美、入室して思わず立ち止まる。
 タカヒロ、未完成の由美の石膏デッサンを仁王立ちで見つめている。
 由美、恐る恐る声をかける。
由美  「……マルス、好きなんだけど、思ったとおりにいかないんだよね」
タカヒロ「……マルスの人体は理想化されている。骨格や筋肉も観察し、大きさ・重さを表現しなければならない」
由美  「(感心して)あー……」
タカヒロ「たとえば、この肩の奥にある空間は……」
 由美、タカヒロの説明に夢中になる。
 良太郎、二人の様子を後ろから眺める。
良太郎 「ね……ねえ、俺のはどう思う? なんか描けば描くほどさ……」
 タカヒロ、良太郎の石膏デッサンを一瞥し、軽くため息をつく。
タカヒロ「デッサンなんて結局のところ技術にすぎない。必死にやればいいってもんじゃない」
 良太郎と由美、軽く圧倒される。
 タカヒロ、良太郎の椅子に座り、石膏デッサンに向かって説明を始める。
 良太郎と由美、説明に釘付けになる。

 ◯郊外、放課後
 帰宅途中の良太郎と由美とタカヒロ、並んで歩いている。
 良太郎と由美、楽しそう。
 タカヒロ、落ち着いている。

 ◯高校の美術室、夕方(別の日)
 良太郎と由美とタカヒロ、完成した由美の石膏デッサンを、立って眺めている。
由美  「どーよ?」
良太郎 「どーよ、って。おまえ一人で描いたわけじゃないからな(笑)」
由美  「あー、それは否めない」と言いつつ胸を張る。
良太郎 「でも近年まれに見る力作ではあるな」
 由美、誇らしげにタカヒロを見る。
タカヒロ「まあ、言いたいことはないこともないけど……もう帰る時間だよね」
 タカヒロ、続けて良太郎、部室の外へ。
 由美、あわてて石膏デッサンを抱え、二人を追う。

 ◯高校の廊下、同
 3人が歩いていると、戯れていたサッカー部の部員1〜3が勢いよくぶつかってくる。
由美  「あっ……!」
 由美の石膏デッサンが破れる。
 由美・良太郎、呆然。
部員1 「あーあ」
部員2 「(部員1に)おまえだろ?(笑)」
部員1 「悪りィ悪りィ。まあ、でも…また描けばいいっしょ(笑)」
 良太郎、舌打ち。
良太郎「てめ…」
 良太郎が動き出すよりさきにタカヒロ、部員1に襲いかかる。
 タカヒロと部員1、乱闘。
部員3 「おい、なんだよ、こいつ」
 が、すぐに部員1がタカヒロを押さえ込む。
部員1 「……たかが絵だろ」
 タカヒロ、さらに激昂する。
部員1 「ちっ」
 部員1、タカヒロを殴打しはじめる。
部員2 「おいおい、そのくらいにしとけよ」
 部員2、部員1を引き離す。
 タカヒロ、倒れたまま、ものすごい形相。
 由美・良太郎、呆然。

 ◯郊外、放課後
 良太郎と由美、そして顔を腫らしたタカヒロ、並んで歩いている。
良太郎 「……」
由美  「……」
タカヒロ「……必死にやればいいってもんじゃないな」
良太郎 「……フッ」
由美  「フフッ」
良太郎 「分かってんじゃん(笑)」
由美  「ハハッ、ウケるんですけど(笑)」
タカヒロ「フフ……」
 3人、笑う。

 ◯美術室、午後(別の日)
 3人、真剣に描いている。

 ◯美術館1、放課後
 3人、話し合いながら展覧会に入場していく。

 ◯美術室、午後(別の日)
 3人、真剣に描いている。

 ◯美術館2、放課後
 3人、話し合いながら展覧会から出てくる。

 ◯美術室、午後(別の日)
 3人、真剣に描いている。
 村上先生、居眠りをしている。

 ◯ギャラリー、放課後
 3人、展示を見ている。
 良太郎、ふと由美を見る。
 由美、タカヒロを見つめている。

 ◯美術室、午後(別の日)
 美術部員が数人、新しい絵を描く準備をしている。
 村上先生、おもむろに立ち上がり、
村上先生「(部員全員に)よし、今日は互いを描いてみなさい」
 良太郎とタカヒロ、すぐに顔を見合わせる。
 由美、二人を見る。

 ◯美術室、午後(数時間後)
 美術部員たちがそれぞれポートレートを描きあっている。
 良太郎とタカヒロ、互いのポートレートを描いている。
 二人のあいだに、いつもとちがう緊張感が漂う。
 由美、思わずからかう。
由美  「……え、二人はできてるの?(笑)」
タカヒロ「……」
良太郎 「はあ? なに言ってんだよ、気持ち悪りー!」
 良太郎、すぐに作業にもどる。
由美  「冗談よ(笑)」
 タカヒロ、やや悲しそうに苦笑する。
 由美、タカヒロの表情に気づき、笑うのをやめる。

 ◯美術室、午後(別の日)
 由美、入室。
 室内を見渡すが、良太郎とタカヒロは見当たらない。
 村上先生、一瞬目を覚ますが、すぐに居眠りを再開する。

 ◯男子トイレ、同
 良太郎、鼻歌交じりで用を足し、手を洗う。
 と、入口に立つタカヒロに気づく。
良太郎 「おおっ、なんだよ。いるならいるって言えよ」
タカヒロ「悪い……」
良太郎 「……なに?」
タカヒロ「……二枚しかないんだ、これ」
 タカヒロ、美術展のチケットを二枚持っている。
良太郎 「ああ……」
タカヒロ「だから」
良太郎 「(遮るように)二人で行けばいいじゃん」
タカヒロ「……うん……そうだね」
 良太郎、タカヒロを残し、美術室にもどっていく。

 * * *(回想終わる)

 ◯マンションの一室、夜
 良太郎、スマホに向かって喋っている。
良太郎 「……おまえら、結局うまく行かなかったの?」
由美の声「……ってことなんだろうなあ」
良太郎 「……」
由美  「でも元気にやってるみたいよ」
良太郎 「……」
由美  「呼んだら喜ぶと思う」

 * * *

 ◯マンションの一室、同
良太郎 「うん……じゃあ、当日」
 通話を終えた良太郎、部屋の片隅にやってきて、
 高校時代の自分が描かれたデッサンを眺める。
 良太郎、PCにもどり、「takahiro」とパスワードを打つ。

(終)

#テレ東ドラマシナリオ
#テレ東チームライティング





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