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『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』(第3稿)

前書き

カジサックが頑張っている中、テレビにもラジオにもYouTubeにもあまり顔を出せていないので、母親からはすっかりオワコン認定されてしまい、ここ最近は実家から届く救援物資(主にヤクルト)の量が増えたように思う。

心配させたならゴメンナサイ。
安心してください。毎日ちゃんと食べてます。
 
最近は、お蕎麦以外も積極的に食べていて、「蒸し鶏のネギ塩ダレかけ」が特にお気に入り。あれ、美味しいよね。


最近はもっぱら『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』の制作。
ホントに朝から晩まで。
僕はバカだし、途中で「猫の動画」とかを見ちゃうから、余計に時間がかかる。

先月、脚本(第3稿)が無事に書き上がって、その脚本の元に、また前回のメンバーが集まってきた。
皆、「よーし、やるか」と腕をまくっている。
佐藤さんの美術や、福島さんのキャラクターは今回も最高だ。

クリエイターだけじゃない。宣伝のスタッフさんも、マネージャーさんも「やってやりましょう」と言ってくれる。
皆、『えんとつ町のプペル』を愛してくれている。お客さんも。
ありがたいな。

前作『映画 えんとつ町のプペル』は本当にたくさんの方(観客動員数196万人)に観ていただき、そこからたくさんの経験と学び、そして、たくさんの出会いをいただいた。
何から何まで、感謝してもしきれない。


黒くて重たい煙に覆われ、見上げることを忘れ、「星なんて無い」と結論した町に向かって、「誰か見たのかよ」と叫んだこの物語は、(みっともない話だけど)僕の経験が下地になっている。

もうほとんどの人が忘れていると思うけど、僕には、やる事なす事バッシングされ続けた15年があった。
「イジメられる側にも原因がある」と言わんばかりに。
まぁ、僕に関しては若干原因があったような気もするけど。

だけど、ただただ「面白いことをしよう」と言っただけだ。
「クラウドファンディング」など新しい選択肢が生まれる度に「皆、こんな方法があるよ」と言ってまわった。そうすれば皆と一緒に走れると思ったから。
 
だけど、蓋を開けてみれば、たくさん石を投げられた。
詐欺師扱いされ、数の暴力に遭い、村八分に遭った。
親や、近くにいたスタッフが、とても悲しい目をしていたことを今でも鮮明に覚えている。

「どこかに僕と同じような目に遭っている人がいるのかな?」
いつからか、そんなことを考えるようになり、この痛みを記録しようと思った。

悔しかったこと、
歯が立たなかったこと、
自分が弱かったこと……
心に残っている大小様々な傷を一つずつ並べて、そして、「子供達が夢を見られる世界になりますように」という祈りを込めて作ったのが、『映画 えんとつ町のプペル』だ。

「西野が透けて見えた」という感想をくださった方も少なくない。
そりゃそうだ。僕の身に実際に起きた話を書いたんだもの。
僕の夢に賛同したことが原因で殴られた友達もいる。
それも実際にあった話だ。

だけど、それがあったから『映画 えんとつ町のプペル』が生まれた。
皮肉な話だけど。

でも、作品に落とし込めたことで、いろんな気持ちが成仏された。
「お笑い」と一緒だ。不幸の方が面白い。


恐ろしいことに、今、書いているのは「前置き」です。
長くなっちゃってゴメンなさい。想いが溢れているんだと思う。
いいかげん本題に入ります。。


今日は、あなたに見ていただきたい(読んでいただきたい)物語がある。
それは、僕の中で、まだ決着がついていない(成仏させられていない)「もう一つの思い出」だ。

もう20年近く前の話。
それは、実力がないまま売れてしまったキングコングがバラバラになった日のこと。
あれだけ毎日一緒に遊んでいた梶原君との会話が無くなり、ついに、目の前からいなくなってしまった日のこと。
新聞で「キングコング活動休止」の文字を見た日のこと。
どうすればいいのか分からずに、全ての個人活動を止めて、何ヶ月も家に籠った日のこと。
あまりにも惨めで、コンビニに入ることすら億劫になっていた日のこと…。

僕は、まだあの日の思い出に決着をつけていない。
胸の奥の奥の変な隙間に、ずっと挟まったまんまだ。

大阪の元町の交差点にあるマンションの小さな一室で、どうすれば梶原が帰ってくるかを必死で考えていた。
テレビをつければ、窓を開ければ不安が入ってくる部屋で、どうすれば、またキングコングを再会できるかを必死で考えていた。
19歳の時にかわした梶原との約束は、まだ果たせていなかった。

あの不安でしかなかった日のことを、一人で震えていた日のことを、キチンと作品にしようと思って『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』を書いた。

ここから、美術の開発や、キャラクターの開発があって、コンテを描いて…と作業は続く。
というより、まだ始まったばかりだ。
完成は2年後とか? …いや、まだ分かんない。

 
このまま「完成をお楽しみに!」ということもできるんだけど、せっかくあなたと同じ時代を生きている。
作品が完成するまでの時間は、たまたま同じ時代を生きた人間の特権だ。

なので、もし良かったら、『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』の完成までの時間を僕と一緒に過ごしてもらえませんか?
そんなわけで、このタイトルです。

この記事は「有料」になっているけど、ここからいきなり有料にしてしまうと、作品の空気もヘッタクレも味わえないので、いいところまでは無料で読めるようにしておきます。

「♯えんとつ町のプペル」で感想を呟いてもらえると、必ず見に行くよ。
これは、まだ「第3稿」で、ここからまだまだ書き直すので、今度はあなたの感想を手がかりにする。
そして、一緒に作品の完成を迎えたい。


長々とゴメンナサイ。
大切なものを掴み損ねてしまった20年前の僕と、今まさにその状況にあるキミに向けて、エールを贈るつもりで書きました。

それじゃ、また。


西野亮廣(キングコング)
 





-あるところに、11時59分で止まっている時計がありました-



『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』

【第三稿】

原作・脚本 西野亮廣

 


 

 


 

 

 

 

第1章 Town and Heart beat

 
 

🎩ルビッチの部屋(朝)


 
 
ルビッチの部屋。
窓際に置いてあるプランター(ナギの苗)に水をやっているルビッチ。 
三角窓からは朝日が射している。ベッドの上には、モフモフの枕。
オープニングテーマ(Town and Heart beat)にのせて、ルビッチのナレーションが始まる。(N=ナレーション)
 
 
ルビッチN「時計には二つの針がある」
 
 
壁には「ボンボン時計」がかかっている。時間は朝の7時過ぎ。
振り子が左右に揺れ、時計の針は動いている。
 
 
ルビッチN「長い針と短い針は進むスピードが違うから、いつも出会いと別れを繰り返している」
 
 
窓の前には大きなカゴがある。
カゴの中には「バケツ」や「傘」といったプペルのパーツが入っている。
 
 
ルビッチN「ボクとキミのように」
 
  
ルビッチ、バラバラになったプペルをジッと見ている。
  
  
ルビッチN「長い針が最初に短い針に追いつくのは、1時5分。
追いついたと思ったら、すぐに別れて…次に追いつくのは2時10分。
その次は3時16分……だいたい1時間に一度は重なっている。だけど…」
 
 

🎩千年砦の時計台の空(朝)


 
 
空に浮かんでいる時計の文字盤。
時計の針が「11時59分」で止まっている。
(※この時点では、「千年砦の時計台」とは認識できない)
 
 
ルビッチN「11時台だけは、重なることがない。どれだけ走っても、ずっと一人ぼっちだ」
 
 

🎩ルビッチ家のリビング(朝)


 
 
ルビッチとローラ、朝ご飯を食べている。
窓からは光が射している。
部屋のいたるところにハロウィンの装飾。
 
 
ローラ  「仕事は午前中だけ?」
 
 
ルビッチ 「うん」
 
 
ローラ  「あの辺りは古い建物が多いから気をつけなさいよ」
 
 
ルビッチN「二つの針が次に重なるのは、12時。鐘が鳴る時間だ」
 
 

🎩ルビッチの家の玄関


 
 
ルビッチ、玄関で靴を履く。
靴箱の上に置いてあった「ブレスレット」をはめる。
 
 
ルビッチN「12時の鐘は、それでも諦めずに走って、ようやく再会した二つの針を祝福しているみたい」
 
 

🎩千年砦の時計台


 
 
時計台の鐘が静かに止まっている。
 
ルビッチN「鐘が鳴る前には、報われることがない『11時台』がある。
ボクにも、キミにも。
でも、大丈夫。…時計の針は必ず重なる。
これは…」
 
 

🎩えんとつ町の砂浜(前作のワンシーン)


 
 
異端審問官達に立ち向かう町人達。
 
 
ルビッチN「黒い煙で覆われた『えんとつ町』が、勇気を寄せ集めた夜に…」
 
 

🎩ブルーノの船(前作のワンシーン)


 
 
空に飛んでいくブルーノの船。
バーナーに掴まって、空を見上げるプペルとルビッチ。
 
 
ルビッチN「見上げることを忘れた『えんとつ町』が、見上げた夜に…」
 
 

🎩えんとつ町の砂浜(前作のワンシーン)


 
 
上を見上げる町人達。輝く星空が広がる。
 
 
ルビッチN「輝く星を思い出した夜に…」
 
 

🎩ブルーノの船の上(前作のワンシーン)


 
 
星空に浮かんだ船の上に立っているプペル。ルビッチの方を向いて微笑む。
(※「手のかかる息子だ」の後)
 
 
ルビッチN「あの夜、遠くに行ってしまったキミに……また出会うまでの物語」
 
 
オープニングテーマが盛り上がる。
 
 

🎩坂道


 
 
ブルーノの自転車に「三角乗り」をするルビッチ。顔が引きつっている。
後部座席には掃除道具が積んである。
坂道で、ついついスピードが出てしまう自転車。
商店が並ぶ坂道。町人達は、朝の支度を始めている。
「旧刻(8時間制)」から「新刻(12時間制)」に改刻された「えんとつ町」。
 
梯子に上った作業員Aが、建物の外壁から「8時間制の時計」を外している。
梯子を支える作業員Bの後ろスレスレを通りすぎるルビッチ。
作業員B、梯子を持ったまま自転車をかわす。梯子のバランスが崩れる。
時計を持った作業員Aが梯子から落ちそうになる。
ルビッチ、前を向きながら謝る。まだ自転車の運転には慣れていない様子。
 
いくつかの煙突からは「生活の煙」が上がっているが、煙たくはない。
空は青く晴れている。道路脇には雑草が生えている。
 
 

🎩海が見える道(朝)


 
 
自転車を走らせるルビッチ。
建物群を抜けると、青い海(内海)が広がる。海は鏡のように煌めいている。
内海の向こうに4000メートルの岸壁が見える。
海岸沿いをジョギングしている人を追い抜いて、自転車は港へと向かう。
 
 

🎩港(朝)


 
 
港は賑わっている。
人波を縫って走るルビッチ。橋の下のトンネルを抜ける。
活気溢れる声と、カモメの鳴き声が響く。
小型で不格好なポンポン船(蒸気船)が桟橋に着いたり、出ていったり。
桟橋にロープを投げる漁師。
港の市場には、たくさんの屋台が並んでいて、縁日のよう。
カラフルなヒヨコが鳥カゴに入れられて売られている。
移動販売の花屋(綺麗な花よりも緑が多め)が出ている。
路上では二人組の大道芸人が歌っている。並んで芸を見るコウモリ。
ターレットトラックがアチコチ走っている。
トカゲの干物を売っている屋台や、取れたての海の幸を並べている屋台。
屋台で魚を選ぶ客。主婦が買い物袋を下げて、立ち話をしている。
頭の上では大型クレーンが豪快に動いている。
港の隣の造船所では大きな船が作られている。
ルビッチ、期待に満ちた表情。造船所を駆け抜けていく自転車。
カモメが飛んでいる。
カメラは、カモメを追いかけて、巨大な船、そして街の全景を映す。
 
 

🎩タイトル


 
 
タイトルが出る。
 
 
 
『えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』
 
 
 

🎩屋根の上 1(朝)


 
 
三階建ての家の屋根の上に立つルビッチ。頬には煤がついている。
隣(距離は50センチほど)の建物の窓から窮屈そうに身を乗り出している三つ子のお婆さん。ルビッチの話を真剣に聞いている。
 
 
ルビッチ 「…煙突内にこびりついた煤が、もう一回燃えてしまうことあります。
この火は室内まで逆流して、火事に繋がるので…」
 
お婆さん達「火事ぃぃ!!?」
 
ルビッチ 「はい。なので、煙突掃除は定期的にしてください」
 
アントニオ「煙突まわりのご相談はコチラまで」
 
 
ルビッチの後ろからヒョッコリ現れた煙突掃除屋は…アントニオ。
アントニオ、お婆さん達に「煙突掃除屋」のチラシを渡す。
 
 

🎩屋根の上 2(朝)


 
 
掃除道具を抱えて、屋根の上を歩くルビッチとアントニオ。
近くの煙突で作業しているダンに声をかけるルビッチ。
 
 
ルビ&アン「お先に失礼しま〜す!」
 
 
ダン、手をあげて応える。
屋根の上を歩くルビッチとアントニオ。町を眺めている。
町はハロウィン一色。子供らがハロウィンの準備を始めている。
 
 
アントニオ「ハロウィンパレードの準備は?」
 
ルビッチ 「バッチリ」
 
アントニオ「何の仮装すんの?」
 
ルビッチ 「『深い森』からやってきた、全身が木でモジャモジャのモンスター」
 
アントニオ「なんだそれ(笑)」
 
ルビッチ 「アントニオは?」
 
アントニオ
「海からやってきた『手が巨大なハサミ』になってるスモーキー」
 
ルビッチ 「去年もそれじゃなかった?」
 
アントニオ「今年のは通気性がイイ」
 
ルビッチ 「地味ぃ〜〜(笑)」
 
アントニオ「うるせーな」
 
 
アントニオ、ルビッチをヘッドロック。屋根の上でジャレ合う二人。
アントニオ、何かを見つける。
 
 
ルビッチ 「ん?」
 
 
ルビッチ、アントニオの視線の先を見る。立ち止まる。
目の前(屋根の下)の道路で、『ゴミ人間』の仮装をした子供がいる。
 
 
子供ゴミ 「ゴミ人間だぁ〜」
 
 
ゆっくりとヘッドロックを解くアントニオ。
少しの間、言葉を失う二人。
 
 
アントニオ「…もう一年だな」
 
ルビッチ 「ちょっと!」
 
アントニオ「何?」
 
ルビッチ 「やめてよ(笑)。なんか、しんみりしてるっ!(笑)」
 
アントニオ「…会いたくなったりしねえの?」
 
 
二人の目の前には、仮装の『ゴミ人間』。子供達を追いかけ回している。
 
 
ルビッチ 「…戻ってくるわけじゃないから」
 
 
ルビッチ、どこか、ふっきれた表情。歩き始める。アントニオも後に続く。
 
 
ルビッチ 「思い出は思い出。いつまでも、引きずってる場合じゃない。」
 
 
笑顔のルビッチ。
屋根が二手に分かれている。
 
 
アントニオ「…何時に待ち合わせする?」
 
ルビッチ 「今から帰ったら、12時でしょ…」
 
 
変な風が吹く。
 
 
ルビッチ 「…そこから、お昼ご飯を食べて〜、着替えて〜、だから…」
 
アントニオ「1時とか?」
 
ルビッチ 「うん」
 
アントニオ「オッケー。じゃあ、また後でな!」
 
 
屋根の上で別れる二人。アントニオは、自分の家の方に向かって歩いていく。
ルビッチ、その場に残り、子供達(プペルの仮装をした子も含む)をジッと見る。
 
 

🎩回想シーン・えんとつ町(朝)


 
 
待ちぼうけしているルビッチ。向こうから全速力で走ってくるプペル。
 
 
プペル  「ルビッチさ〜〜ん」
 
ルビッチ 「また時間ギリギリっ!」
 
 
プペル、ルビッチの前で膝に手をついて、肩で息をしている。
プペル、勢いよく顔を上げる(ルビッチに顔を近づける)。
 
 
プペル  「お待たせしてすみませんっ!」
 
ルビッチ 「くさっ!」
 
プペル  「ああ、すみませんっ!」
 
  

🎩屋根の上 2(朝)


 
 
ルビッチ、『ゴミ人間』の仮装をしている子供を眺めている。
風が吹き、近くの煙突の煙が、ルビッチの顔の前に流れてくる。
煙を払うルビッチ。その勢いで、「ブレスレット」が飛んでしまう。
 
 
ルビッチ 「あ」
 
 
床(屋根の上)に落ちたブレスレット。
ルビッチが拾おうとすると、ネズミが走ってきて、ブレスレットを咥える。
 
 
ルビッチ 「ちょっと! それ、大切なやつだから…」
 
 
ルビッチ、そ〜っとネズミに近づく。
ブレスレットを咥えたネズミ、ルビッチを警戒して、少し離れる。
 
 
ルビッチ 「待って。ダメっ」
 
 
ルビッチ、そ〜っとネズミに近づく。
 
 
ルビッチ 「いい子だから、返して」
 
 
ネズミ、ブレスレットを咥えたまま、少し前に進む。
 
 
ルビッチ 「ねえ!」
 
 
ルビッチ、バケツを蹴ってしまう。その音にビックリして、走り出すネズミ。
 
 
ルビッチ 「待って!」
 
 
ブレスレットを咥えたまま逃げるネズミ。ルビッチ、後を追う。
 
 
ルビッチ 「ちょっとっ! 待ってっ! ねえっ!」
 
 
足元の悪い屋根の上で追いかけ合いっこをするルビッチとネズミ。
えんとつ町の屋根を舞台にドッタバタのアクション。
隣の屋根に飛びうつり、落っこちそうになったり。
ルビッチ、また隣の屋根に飛び移る。
 
 

🎩廃墟の屋根の上(朝)


 
 
ルビッチ、ようやくネズミを捕まえて、ブレスレットを取り返す。
ルビッチ、ネズミを優しく逃してあげる。走って逃げていくネズミ。
ルビッチ、ブレスレットを手にハメて、一歩踏み出す。が、足が屋根にズボッとハマる。屋根が腐っている。
ルビッチ、両手で足を引っこ抜く。勢いよく抜けてしまって、後ろにフッ飛ぶ。
尻餅をついた場所がボロボロと崩れる。
 
 
ルビッチ 「やば…」
 
 
ルビッチ、そ〜っと立ち上がって、慎重に歩くも、踏んだ屋根が崩れていく。
屋根に沈みきる前に足を抜くルビッチ。気がついたら走っている。
 
 
ルビッチ 「ダメダメダメダメ…!」
 
 
半泣きで屋根の上を走るルビッチ。屋根が次から次へと崩れていく。
ルビッチ、命からがら、隣の建物の非常階段に飛び移るが、建物と非常階段の「接続部分」が腐っていて、ブチンッと切れてしまう。傾く非常階段。
次の「接続部分」も切れそう。非常階段にお願いするルビッチ。
 
 
ルビッチ 「踏ん張って!」
 
 
非常階段の「接続部分」が上から順に、ブチンブチンと切れていく。
 
 
ルビッチ 「ねえっ!」
 
 

🎩噴水広場(朝)


 
 
噴水広場にやって来たスコップとドロシー。
スコップが〝川の向こうに〟何かを見つける。
ドロシー、スコップの視線の先を追う。
 
 
スコップ 「何してんの、アイツ…」
 
ドロシー 「町を破壊してるね」
 
 
ルビッチがしがみついている非常階段が根元から倒れていく。
 
 

🎩倒れていく非常階段 (朝)


 
 
建物から切り離された非常階段が、横を流れる川の方に倒れていく。
 
 
ルビッチ 「わわわわわわわわわわわわ…」
 
 
ルビッチ、倒れていく非常階段を全速力で(ジグザクに)駆け上がる。
川に橋を架ける形で倒れていく非常階段。
踊り場に積んであった樽が崩れ、転がり落ちてくる。
樽を交わしながら、階段を駆け上がるルビッチ。(※などのアクション)
 
 
ルビッチ 「ななななななななななな…」
 
 
川の反対側の建物に激しくぶつかって止まる非常階段。
その衝撃で、非常階段の外に放り投げられるルビッチ。
 
 
ルビッチ 「あ〜!!!」
 
 
ルビッチ、ピンボールのように、いろんな建物のテントの屋根でボヨン!ボヨン!バイ〜ン!と何度もバウンドしながら、落下していく。
 
 
ルビッチ 「ぎゃあっ! わぁっ! あうっ!! おっ! はぐっ〜!!」
 
 

🎩噴水広場(朝)


 
 
スコップとドロシー、見上げると、ルビッチがテント屋根でバウンドしながら落っこちてくる。町人達の視線が集まる。
 
 
ルビッチ 「ぎゃあっ! もすっ! なすっ! がふっ! もすっ!」
 
 
スコップ、噴水池のヘリに立って、ルビッチを受け止めるスタンバイ。
 
 
スコップ 「こいっ!」
 
ルビッチ 「あああああああ〜!」
 
 
見守るドロシー。息を飲む。
スコップがルビッチをキャッチする寸前で、ルビッチが足をバタバタと振る。
 
 
スコップ 「あぶないっ!」
 
 
条件反射でルビッチをよけてしまうスコップ。
ルビッチは、そのまま噴水池にボチャン。
 
 
町人達  「ええええーー?」
 
 
大きな水飛沫が上がり、頭から水をかぶるスコップ。
全員の視線がスコップに集まる。
 
 
スコップ 「…(だってルビッチが)足を『バタバタ〜ッ』ってするから」
 
 

🎩記憶の泉


 
 
噴水池の中。
どんどん沈んでいくルビッチ。水深は浅いハズなのに。
「ブレスレット」がルビッチを噴水池の奥に引っ張っているよう。
光が届かない深さまで沈んでいく。
いろんな声が重なって(耳鳴りのように)聞こえてくる。
 
 
ブルーノN「えんとつ町は煙突だらけ」
 
スーさんN「こんだけススだらけになってるっぺえ」
 
ドロシーN「トッポさん、なんとか言ってよ」
 
芸人N  「オッペケペッポー、ペッポッポー♪」
 
ニュースN「曼荼羅交差点付近で、身体にゴミをまとった不審な男が現れました…」
 
審問官N 「我々に答えを求めるな」
 
クレアN 「トンボ玉のブレスレットは、いつかルビッチを前に進めてくれる」
 
主婦A  「病院の近くに住んだ方が安心でしょ」
 
スコップN「爆発は中心部で起こさないと意味がない」
 
ブルーノN「信じ抜くんだ」
 
アントニオ「星が見つかったら、あの日諦めた自分がバカみたいじゃないかっ! 畜生!」
 
レベッカN「バカね! 泣いてる暇はないわよ!」
 
ローラN 「何時だと思ってんだい?」
 
ブルーノN「上を見ろ」
 
 
魚達が上下逆さまに泳いでいる。大きなクジラが後ろを通る。
しばらくすると、水の底から光が射してくる。そのまま沈み続けるルビッチ。
ついには“水の向こう側”に出る。
 
 

🎩波の無い海(夜)


 
 
海面に勢いよく顔を出すルビッチ。水が目に入って、まわりがよく見えない。
ルビッチ、目の前に浮かんでいた小舟の船縁に手探りで手をかけ、舟に上がる。
(※ルビッチは、まだ「噴水池」にいると思っている)
ルビッチ、顔の水を拭って、目を開ける。
ルビッチの目の前には、モフモフの猫。丸々と太っているが、どこかエレガント。
 
 
ルビッチ 「え?」
 
 
気がつくと小舟に乗っているルビッチ。状況が飲み込めない。
モフモフの猫がルビッチの顔をジッと見ている。
二人の間には『置き時計』。文字盤がランタンのように輝いている。
 
 
ルビッチ 「どこ?」
 
 
ルビッチ、まわりを見渡す。
濃い霧に包まれた夜の海の真ん中でプカプカと浮かんでいる。
 
 
ルビッチ 「なんで?」
 
 
ルビッチ、海に浮かんだ帽子(自分の帽子)を取る。
考え込むルビッチ。自分がどうして海の上にいるか分からない。
ルビッチを見つめているモフモフの猫。
 
 
ルビッチ 「あの〜、僕、なんで今、海の上にいるんですかね? …頭、打った?」
 
 
モフモフ猫、ジッとルビッチの方を見ている。
ルビッチ、空を見る。苦笑いしながらモフに話しかける。
 
 
ルビッチ 「…なんか夜になってるし(笑)」
 
モフ   「降りなさい」
 
ルビッチ 「わぁぁっっ!!」
 
 
ルビッチ、驚いて尻もちをつく。眼孔と口が開きっぱなし。モフを警戒する。
 
 
モフ   「相乗りは契約違反よ」
 
ルビッチ 「喋ってるっ!」
 
 
ルビッチ、両手で自分の顔を勢いよく叩く。
 
 
ルビッチ 「いいぃぃぃ」
 
 
ルビッチ、両頬を力一杯引っ張る。顔がビロンビロンに伸びる。
 
 
モフ   「何してんの、あんた」
 
ルビッチ 「喋ってるっ!!! 喋ってるっ!?」
 
 
呆れているモフ。
 
 
ルビッチ 「な、なんで! なんで喋るのっ!?」
 
モフ   「あんたが話しかけてきたんでしょ」
 
ルビッチ 「あああああ〜」
 
 
ルビッチ、目を閉じて、両耳を何度も叩いている。
 
 
モフ   「何してんの?」
 
ルビッチ 「あのっ!」
 
モフ   「何?」
 
ルビッチ 「返事したっ!」
 
 
返事をしたモフに驚くルビッチ。
 
 
モフ   「何よ」
 
ルビッチ 「え〜っと、あの〜…」
 
 
モフをナメまわすように見るルビッチ。
 
 
ルビッチ 「あ〜…ハロウィンのやつですか? 猫の……中に、誰かが入ってるぅ…」
 
 
モフ、後ろ足で頭を掻く。あまりにも自然な動き。
 
 
ルビッチ 「…わけでもないっ!」
 
モフ   「うるさいわね!」
 
ルビッチ 「わけでもなさそうっ!」
 
 
ルビッチ、舟の隅っこに避難。小さくなって、モフをジッと見ている。
モフを警戒しているルビッチ。
 
 
モフ   「…何?」
 
ルビッチ 「…あの…この舟、どこに向かってます?」
 
モフ   「港」
 
ルビッチ 「あ、港に行くんですね」
 
 
少し安心するルビッチ。
 
 
ルビッチ 「じゃあ、…このまま乗せてってください」
 
モフ   「言ったでしょ? 相乗りは禁止されてるの。降りなさい」
 
ルビッチ 「ちょっと待ってっ! ここから泳いで帰れっていうのっ!?」
 
モフ   「知らないわよ。大きな声を出さないで」
 
 
モフ、声を殺しながら怒鳴る。
 
 
ルビッチ 「…え、何? 大きな声を出されちゃ困る感じ?」
 
 
ルビッチ、悪い顔になっている。
モフ、周りを見る。声を殺して話す。
 
 
モフ   「二人で乗ってるところが見つかっちゃうでしょ」
 
 
ルビッチ、「そうかそうか」と少し考える。何かを企んでいる。
嫌な予感がするモフ。
 
 
モフ   「…何?」
 
 
ルビッチ、大きく息を吸って…
 
 
ルビッチ 「わーーーーーー!」
 
 
突然、大声で叫ぶルビッチ。バカ声が夜の海中に響き渡る。
メチャクチャ慌てるモフ。
 
 
モフ   「バカなのアンタっ!!?」 
 
ルビッチ 「おかーーーーさーーーーんっ!!!」
 
モフ   「『お母さん』って何よっ!!」
 
ルビッチ 「♪ハ〜ロー、ハ〜ロ、チムニ〜!」
 
モフ   「黙ってっ! お願いだからっ!!」
 
 
モフ、ルビッチに泣きつく。
 
 
モフ   「やめてっっ!」
 
 
ルビッチ、モフにガンを飛ばす。
 
 
ルビッチ 「港まで乗せてもらえますか?」
 
 
〜時間経過〜
 
 
モフ、「足漕ぎ舟」のペダルをキコキコと漕いでいる。
濃い霧の中を進んでいく舟。波は無い。
ルビッチ、船の真ん中にある「置き時計」を見る。
文字盤が心臓の鼓動のように、緩やかに点滅している。
 
 
ルビッチ 「…変な時計」
 
モフ   「命よ」
 
ルビッチ 「いのち?」
 
 
ルビッチ、「置き時計」に顔を近づける。針の音が響く。生きているようだ。
ルビッチ、おもわず黙ってしまう。
 
 
モフ   「さっき、生まれたばかりの命よ」
 
ルビッチ 「へ?」
 
 
徐々に、深い霧が晴れていく。星空が広がる。近くには大きすぎる月。
えんとつ町の月のサイズは全然違う。見たことがない惑星も浮かんでいる。
ルビッチの顔がひきつっている。
 
 
ルビッチ 「何、あれ?」
 
モフ   「頭を下げて」
 
ルビッチ 「え?」
 
 
ルビッチ、ワケも分からず、船縁に身を隠す。
海の霧がどんどん晴れていく。ルビッチ、船縁に身を隠しながら、外を見る。
霧が晴れた海には、数千の小舟が浮かんでいる。(灯籠流しのよう)。
いくつかの舟が(潜水艦のように)海の中から出てくる。
あまりの数に驚いて声が出ないルビッチ。
ルビッチ、自分が違う世界に迷い込んだことに気がつき、恐ろしくなる。
 
 
モフ   「皆、『命』を運んでんのよ」
 
ルビッチ 「あの…」
 
 
ルビッチ、苦笑い。完全に顔がひきつっている。
 
 
ルビッチ 「ちなみに…この舟、どの港に向かってます?」
 
 
時計の針の音が響く。
小舟が向かう先に、オレンジ色に輝く(モンサンミッシェルのような)島が見えてくる。明らかに『えんとつ町』ではない。ルビッチ、恐怖で震えている。
 
 
モフ   「すべての時間が集まる場所…『千年砦』よ」
 


 

第2章 千年砦

 

 

🎩千年砦の港(夜)

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