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『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』(第4稿)

前書き

  
 
せっかく同じ時代を生きているのだから、「同じ時代を生きている者同士の特権」を行使してやろうと思いまして、「映画の脚本執筆の過程」を共有することにしました。
「…ふむふむ。このシーンを、こういう風に改善したのね〜」という確認作業って楽しいじゃない。しかも、それが現在進行形ときたもんだ。

さて。
『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』の脚本ですが、前回(第3稿)は、「モフがルビッチに協力するモチベーション」や「ルビッチの成長」といった部分が、まだまだフニャフニャしていました。
「キャラクターの掘り下げ」というやつですね。

そんなこんなで今回(第4稿)は、「キャラクター達の感情」を重点的に手直ししてみました。
メスを入れた箇所はそこまで多くありませんが、全体的に、かなり綺麗な流れになったと思います。
そのあたりをご確認ください。

あ。そうそう。
ファンの皆様がMidjorney(A Iアート)で描いてくださる挿絵は、今回も楽しみにしています。
「♯chimneytown」を付けて、Instagramにアップしていただけると、西野が盗みにあがります。
宜しくお願いします。

2022年11月22日
西野亮廣(キングコング)

 

 

 

 

あるところに…
11時59分で止まっている時計台がありました。

 


『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』

【第四稿】

原作・脚本 西野亮廣



 

 


 

 

 

 

第1章 Town and Heart beat

 
 

🎩ルビッチの部屋(朝)


 
 
窓際に置いてあるプランター(ナギの苗)に水をやっているルビッチ。
三角窓からは朝日が射している。ベッドの上には、モフモフの枕。
ルビッチのナレーションが始まる。
 
 
ルビッチN「時計には二つの針がある」
 
 
壁には「ボンボン時計」がかかっている。時間は朝の7時過ぎ。
振り子が左右に揺れ、時計の針は動いている。
 
 
ルビッチN「二つの針は進むスピードが違うから、いつも出会いと別れを繰り返している」
 
 
窓の前には大きなカゴ。カゴの中には「バケツ」や「傘」といったプペルのパーツ。
ルビッチ、バラバラになったプペルを見る。
 
 
ルビッチN「ボクとキミのように」
 
 
ルビッチ、プペルのパーツをジッと見ている。
 
 
ルビッチN「二つの針が最初に重なるのは、1時5分。
重なったと思ったら、すぐに別れて…次に重なるのは2時10分。
その次は3時16分……だいたい1時間に一度は重なっている。だけど…」
 
 

🎩時計台の空(朝)


 
 
空に浮かんでいる時計の文字盤。
時計の針が「11時59分」で止まっている。
(※この時点では、「千年砦の時計台」とは認識できない)
 
 
ルビッチN「11時台だけは、重なることがない。
どれだけ走っても、ずっと一人ぼっちだ」
 
 

🎩えんとつ町の広場(朝)


 
 
ブルーノが作った紙芝居のアップ。海に出る「プペル」がいる。
アントニオが、小さな子供達を集めて紙芝居を読んでいる。
紙芝居の自転車が倒れないように支えるのはレベッカとデニス。
町はハロウィンの準備を始めている。
仮装したスモーキー達が町を歩いている。
 
 
アントニオ「えんとつ町は煙突だらけ。そこかしこから煙が上がり、
頭の上はモックモク。黒い煙でモックモク。
えんとつ町に住む人は黒い煙に閉じ込められて…」
 
 

🎩ルビッチの家の食卓(朝)


 
 
ルビッチ、食卓で朝ご飯をモグモグと食べている。
ローラ、台所で(ルビッチに背を向けながら)包丁をトントン。
 
 
ローラ  「仕事は午前中だけ?」
 
ルビッチ 「うん。昼からパレード」
 
ローラ  「ハッピー・ハロウィン」
 
 
振り返ったローラの顔が、骸骨(メキシコの死者の祭りのやつ)になっている。包丁を片手に持っているので、余計に怖い。
お茶を噴き出すルビッチ。
ゲラゲラと笑うローラ。骸骨のパック(マスク)を外す。
 
 
ルビッチN「二つの針が次に重なるのは、12時。鐘が鳴る時間だ」
 
 

🎩時計台


 
 
ガスの時計台の鐘。静かに止まっている。
 
 
ルビッチN「12時の鐘は、それでも諦めずに走って、ようやく再会した二つの針を祝福しているみたい」
 
 

🎩ルビッチの家の玄関


 
 
ルビッチ、玄関で靴を履く。
靴箱の上に置いてあった「ブレスレット」をはめてる。
 
 
ルビッチN「鐘が鳴る前には、どれだけ走っても一人ぼっちの『11時台』がある。
ボクにも、キミにも。
でも、大丈夫。…時計の針は必ず重なる」
 
 
ルビッチ、玄関の戸を開ける。光に包まれる。
 
 
ルビッチ 「これは…」
 
 

🎩えんとつ町の砂浜(回想シーン)


 
 
異端審問官達に立ち向かう町人達。
 
 
ルビッチN「黒い煙に覆われた『えんとつ町』が、勇気を寄せ集めた夜に」
 
 

🎩ブルーノの船(回想シーン)


 
 
空に飛んでいくブルーノの船。
バーナーに掴まって、空を見上げるプペルとルビッチ。
 
 
ルビッチN「見上げることを忘れた『えんとつ町』が、見上げた夜に」
 
 

🎩えんとつ町の砂浜(回想シーン)


 
 
上を見上げる町人達。輝く星空が広がる。
 
 
ルビッチN「輝く星を思い出した夜に」
 
 

🎩ブルーノの船の上(回想シーン)


 
 
星空に浮かんだ船の上に立っているプペル。ルビッチの方を向いて微笑む。
(※「手のかかる息子だ」の後)
 
 
ルビッチN「あの夜、遠くに行ってしまったキミに、もう一度出会うまでの物語」
 
 

🎩坂道


 
 
ブルーノの自転車に「三角乗り」をするルビッチ。顔が引きつっている。
後部座席には掃除道具が積んである。坂道でスピードが出てしまう自転車。
商店が並ぶ坂道。町人達は、朝の支度を始めている。町はハロウィン一色。
「旧刻(8時間制)」から「新刻(12時間制)」に改刻された「えんとつ町」。
 
梯子に上った作業員Aが、建物の外壁から「8時間制の時計」を外している。
梯子を支える作業員Bの後ろスレスレを通りすぎるルビッチ。
作業員B、梯子を持ったまま自転車をかわす。梯子のバランスが崩れる。
時計を持った作業員Aが梯子から落ちそうになる。
ルビッチ、前を向きながら謝る。
 
いくつかの煙突からは「生活の煙」が上がっているが、煙たくはない。
空は青く晴れている。道路脇には雑草が生えている。
 
 

🎩海が見える道(朝)


 
 
建物群を抜けると、青い海(内海)が広がる。海は鏡のように煌めいている。
内海の向こうに4000メートルの岸壁が見える。
海岸沿いをジョギングしている人を追い抜いて、自転車は港へと向かう。
 
 

🎩港(朝)


 
 
港は賑わっている。人波を縫って走るルビッチ達。橋の下のトンネルを抜ける。
活気溢れる声と、カモメの鳴き声が響く。
小型で不格好なポンポン船(蒸気船)が桟橋に着いたり、出ていったり。
桟橋にロープを投げる漁師。
 
港の市場には、たくさんの屋台が並んでいて、縁日のよう。
カラフルなヒヨコが鳥カゴに入れられて売られている。
移動販売の花屋(綺麗な花よりも緑が多め)が出ている。
路上では二人組の大道芸人が歌っている。並んで芸を見るコウモリ。
ターレットトラックがアチコチ走っている。
トカゲの干物を売っている屋台や、取れたての海の幸を並べている屋台。
屋台で魚を選ぶ客。主婦が買い物袋を下げて、立ち話をしている。
頭の上では大型クレーンが豪快に動いている。
港の隣の造船所では大きな船が作られている。
 
ルビッチ、期待に満ちた表情。造船所を駆け抜けていく自転車。
カモメが飛んでいる。
カメラは、カモメを追いかけて、巨大な船、そして街の全景を映す。
 
 

🎩タイトル


 
 
タイトルが出る。
 
 
『えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』
 
 

🎩屋根の上(朝)


 
 
三階建ての家の屋根の上に立つルビッチ。頬には煤がついている。
隣(距離は50センチほど)の建物の窓から窮屈そうに身を乗り出している三つ子の(それぞれに仮装している)お婆さん。ルビッチの話を真剣に聞いている。
 
 
ルビッチ 「…煙突内にこびりついた煤が、もう一回燃えてしまうことがあります。この火は家の中まで逆流して、火事に繋がるので…」
 
お婆さん達「火事ぃぃ!!?」
 
ルビッチ 「は、はい。なので、煙突掃除はこまめに…」
 
 

🎩屋根の上(朝)


 
 
掃除道具を抱えて、屋根の上を歩くルビッチ。
 
 
アントニオ「おい、ルビッチー!」
 
 
声がした方(道路)を見下ろすと、アントニオ達がいる。
アントニオの隣にはレベッカとデニス。
 
 
アントニオ「いつまで仕事ー?」
 
ルビッチ 「今、終わったとこー! これから一回帰って着替えてくるー!」
 
レベッカ 「あんた、何の仮装すんのー?」
 
 

🎩道(朝)


 
 
パン屋の屋根の上にいるルビッチを見上げるアントニオ達。
 
 
ルビッチ 「全身葉っぱだらけの木のモンスター!!」
 
アントニオ「ええー?」
 
レベッカ 「何それー?」
 
 
アントニオもレベッカも興味津々(面白がって質問している)。
 
 
ルビッチ 「髪の毛と髭がモッジャモジャの、気持ち悪いやつーー!」
 
 
アントニオ達の目の前に、髪と髭がモジャモジャのパン屋の店主が立っている。
ルビッチの声は確実に店主に聞こえている。パン屋の店主はジッとアントニオ達を見ている(睨んでいる)。
 
 
アントニオ「……」
 
レベッカ 「……」
 
 
返事が返ってこないので丁寧に念を押すルビッチ。
 
 
ルビッチ 「モジャモジャの気持ち悪いやつぅー!」
 
レベッカ 「聞こえてるからっ」
 
 
レベッカ、食い気味でルビッチを制する。
店主、「モジャモジャですが何か?」という感じで、小さく咳払い。
気まずいアントニオ達。
地上で起きている事故に気がついていないルビッチは、元気よく、去っていく。
バツが悪くなったアントニオ達、パン屋の前から移動。
町はハロウィンパレードの準備を進めている。
アントニオ達の後ろから、ドロシーがやってくる。
 
 
ドロシー 「おい、不良グループ」
 
レベッカ 「ドロシーさん」
 
 
ドロシー、屋根の向こう(ルビッチが去った方)を見ている。
 
 
ドロシー 「今年のパレードは、ルビッチも仲間入り?」
 
レベッカ 「はい。…でも、今から準備して間に合うのかな?」
 
アントニオ「遅刻したら、先に行こうぜ」
 
ドロシー 「待ってあげなさいよ」
 
 
仮装した子供達が、アントニオ達の横を駆け抜けていく。
 
 
子供A  「トリックorトリート!」
 
子供B  「トリックorトリート!!」
 
 
子供達の背中を追うアントニオ達。
 
 
ドロシー 「…もう1年ね」
 
アントニオ「あ」
 
レベッカ 「あれ」
 
 
アントニオ達、『ゴミ人間』の仮装した子供を見つける。
『ゴミ人間』の仮装をした子供を眺めるアントニオ達。少し間、言葉を失う。
 
 
レベッカ 「…そういえば、ルビッチって…」
 
アントニオ「?」
 
レベッカ 「…最近、『プペル』の話をしなくなったね」
 
 
『ゴミ人間』の仮装をした子供を挟んで、子供ABが「くっせ〜」と鼻をつまんで遊んでいる。
 
 
ドロシー 「…もう前を向いてんだよ」
 
 

🎩屋根の上(朝)


 
 
屋根の上を歩くルビッチ。
ルビッチ、窓から手を振る小さな子供に手を振り返す。
 
 
ドロシーN「あの子ね…プペルがいなくなって、しばらくは、色々やってたの」
 
アントニN「色々って?」
 
 

🎩回想シーン(仕立て屋)


 
 
ルビッチ、バラバラになったプペルの身体を組み立てている。
 
 
ドロシーN「バラバラになったプペルの身体を組み立てみたり…プペルが生まれたゴミ山に行ってみたり?」
 
レベッカN「…何が狙い?」
 
 
組み立てたプペルの身体が崩れる。溜息をこぼすルビッチ。
 
 
ドロシーN「…会おうとしてた。…プペルに」
 
 

🎩回想シーン(ルビッチの部屋)


 
 
ルビッチ、バラバラになったプペル(残骸)を、部屋の隅のカゴの中に入れる。
 
 
ドロシー 「…だけど、やっぱりプペルは帰ってこなかった」
 
 

🎩屋根の上3(朝)


 
 
屋根の上を歩いてるルビッチ。
 
 
ドロシー 「…『会いたい』と願えば願うほど、会えなかった時にツラくなるでしょ?
だからもう、プペルのことは思い出にして、次に向かったのよ」
 
 
ルビッチ、昔、プペルと一緒に登った煙突を見つける。
立ち止まって、煙突を見上げるルビッチ。
ルビッチの目には「煙突の上に座っているプペルとルビッチ」が映る。
 
 
ルビッチN「プペル。『星』って、知ってるかい?」
 
プペルN 「ホシ?」
 
ルビッチN「あの煙の上には光輝く星が浮かんでいるんだ」
 
プペルN 「ホントですかぁ?」
 
 
風が吹き、煙突の上に座っていたプペルとルビッチが消える。
ルビッチ、再び屋根の上を歩き始める。
風が吹き、近くの煙突の煙が、ルビッチの顔の前に流れてくる。
煙を払うルビッチ。その勢いで、「ブレスレット」が飛んでしまう。
 
 
ルビッチ 「あ」
 
 
床(屋根の上)に落ちたブレスレット。拾おうとすると、ネズミが走ってきて、ブレスレットを咥える。
 
 
ルビッチ 「ちょっと! それ、大切なやつだから…」
 
 
ルビッチ、そ〜っとネズミに近づく。
ブレスレットを咥えたネズミ、ルビッチを警戒して、少し離れる。
 
 
ルビッチ 「待って。ダメっ」
 
 
ルビッチ、そ〜っとネズミに近づく。
 
 
ルビッチ 「いい子だから、返して」
 
 
ネズミ、ブレスレットを咥えたまま、少し前に進む。
 
 
ルビッチ 「ねえ!」
 
 
ルビッチ、バケツを蹴ってしまう。その音にビックリして、走り出すネズミ。
 
 
ルビッチ 「待って!」
 
 
ブレスレットを咥えたまま逃げるネズミ。ルビッチ、後を追う。
 
 
ルビッチ 「ちょっとっ! 待ってっ! ねえっ!」
 
 
足元の悪い屋根の上で追いかけ合いっこをするルビッチとネズミ。
えんとつ町の屋根を舞台にドッタバタのアクション。
隣の屋根に飛びうつり、落っこちそうになったり。
ルビッチ、また隣の建物の屋根に飛び移る。
 
 

🎩廃墟の屋根の上(朝)


 
 
養生シートで囲まれた古い建物の屋根の上。
ルビッチ、ようやくネズミを捕まえて、ブレスレットを取り返す。
ルビッチ、ネズミを優しく逃してあげる。走って逃げていくネズミ。
ルビッチ、ブレスレットを手にハメて、一歩踏み出す。
次の瞬間、ルビッチが踏んだ屋根がズズズッと下にズレる。
 
 
ルビッチ 「!」
 
 
ルビッチ、恐る恐る2歩目を踏む。また屋根がズレ落ちる。
ルビッチ、たまらず3歩目に。屋根瓦が雪崩のように崩れていく。
 
 
ルビッチ 「やば…」
 
 
ルビッチ、屋根瓦の雪崩に流されないように、屋根の上を走っていく。
 
建物から屋根瓦がどんどん落ちていく。
 
屋根から落ちた瓦が、固定してある養生シートの柱の横木に当たり、横木を落としてしまう。養生シートの柱は横木を失い、地面に刺さっているだけ。
 
 
ルビッチ 「ダメダメダメダメ…!」
 
 
半泣きで屋根の上を走るルビッチ。屋根が次から次へと崩れていく。
屋根のヘリ(向こう岸)まで来るが、次に行く場所がない。自分が立っている場所(屋根瓦)はどんどん崩れていく。
ルビッチ、命からがら、養生シートの柱に飛び移る。
ルビッチが飛び移った養生シートの柱が、大きく〝しなり〟一回転。
 
 
ルビッチ 「ああああ〜!!」
 
 
柱に掴まっているルビッチ、建物横にある非常階段に放り投げられる。
非常階段に激しく叩きつけられるルビッチ。
建物と非常階段の「接続部分」が腐っていて、ブチンッと切れてしまい、傾く非常階段。
次の「接続部分」も切れそう。非常階段にお願いするルビッチ。
 
 
ルビッチ 「踏ん張って!」
 
 
非常階段の「接続部分」が上から順に、ブチンブチンと切れていく。
 
 
ルビッチ 「ねえっ!」
 
 

🎩噴水広場(朝)


 
 
噴水広場にやって来たスコップ。
スコップが〝川の向こうに〟何かを見つける。
 
 
スコップ 「何してんだ、アイツ…」
 
 
ルビッチがしがみついている非常階段が根元から倒れていく。
 
 

🎩倒れていく非常階段(朝)


 
 
建物から切り離された非常階段が、横を流れる川の方に倒れていく。
 
 
ルビッチ 「わわわわわわわわわわわわ…」
 
 
ルビッチ、倒れていく非常階段を全速力で(ジグザクに)駆け上がる。
川に橋を架ける形で倒れていく非常階段。
踊り場に積んであった樽が崩れ、転がり落ちてくる。
樽を交わしながら、階段を駆け上がるルビッチ。(※などのアクション)
 
 
ルビッチ 「ななななななななななな…」
 
 
川の反対側の建物に激しくぶつかって止まる非常階段。
その衝撃で、非常階段の外に放り投げられるルビッチ。
 
 
ルビッチ 「あ〜!!!」
 
 
ルビッチ、ピンボールのように、いろんな建物のテントの屋根でボヨン!ボヨン!バイ〜ン!と何度もバウンドしながら、落下していく。
 
 
ルビッチ 「ぎゃあっ! わぁっ! あうっ!! おっ! はぐっ〜!!」
 

🎩噴水広場(朝)


 
 
スコップ、見上げると、ルビッチがテント屋根でバウンドしながら、ピンボールのように落っこちてくる。町人達の視線が集まる。
アントニオ達も集まってくる。
 
 
ルビッチ 「ぎゃあっ! もすっ! なすっ! がふっ! もすっ!」
 
 
スコップ、噴水池のヘリに立って、ルビッチを受け止めるスタンバイ。
 
 
スコップ 「こいっ!」
 
ルビッチ 「あああああああ〜!」
 
 
見守るアントニオ達。
スコップがルビッチをキャッチする寸前で、ルビッチが足をバタバタと振る。
 
 
スコップ 「あぶないっ!」
 
 
条件反射でルビッチをよけてしまうスコップ。
ルビッチは、そのまま噴水池にボチャン。
 
 
町人達  「ええええーー?」
 
 
大きな水飛沫が上がり、頭から水をかぶるスコップ。
全員の視線がスコップに集まる。
 
 
スコップ 「…(だってルビッチが)足を『バタバタ〜ッ』ってするから」
 
 

🎩記憶の泉


 
 
噴水池の中。どんどん沈んでいくルビッチ。水深は浅いハズなのに。
「ブレスレット」がルビッチを噴水池の奥に引っ張っているよう。
光が届かない深さまで沈んでいく。
いろんな声が重なって(耳鳴りのように)聞こえてくる。
 
 
ブルーノN「えんとつ町は煙突だらけ」
 
スコップN「血だね。こいつは抗えない」
 
ドロシーN「トッポさん、なんとか言ってよ」
 
芸人N  「オッペケペッポー、ペッポッポー♪」
 
ニュースN「曼荼羅交差点付近で、身体にゴミをまとった不審な男が現れました…」
 
巨人族N 「世界を再生する」
 
クレアN 「トンボ玉のブレスレットは、いつかルビッチを前に進めてくれる」
 
主婦A  「病院の近くに住んだ方が安心でしょ」
 
スコップN「土には歴史が埋まってる」
 
ブルーノN「信じ抜くんだ」
 
アントニオ「星が見つかったら、あの日諦めた自分がバカみたいじゃないかっ! 畜生!」
 
レベッカN「バカね! 泣いてる暇はないわよ!」
 
ローラN 「何時だと思ってんだい?」
 
ブルーノN「上を見ろ」
 
 
魚達が上下逆さまに泳いでいる。
暗くて詳しく確認できないが、巨人の石像がたくさん沈んでいる。
しばらくすると、水の底から光が射してくる。そのまま沈み続けるルビッチ。
ついには“水の向こう側”に出る。
 
 

🎩波の無い海(夜)


 
 
海面に勢いよく顔を出すルビッチ。水が目に入って、まわりがよく見えない。
ルビッチ、目の前に浮かんでいた小舟の船縁に手探りで手をかけ、舟に上がる。
(※ルビッチは、まだ「噴水池」にいると思っている)
ルビッチ、顔の水を拭って、目を開ける。
ルビッチの目の前には、モフモフの猫。丸々と太っているが、どこかエレガント。
 
 
ルビッチ 「え?」
 
 
気がつくと小舟に乗っているルビッチ。状況が飲み込めない。
モフモフの猫がルビッチの顔をジッと見ている。
二人の間には『置き時計』。文字盤がランタンのように輝いている。
 
 
ルビッチ 「どこ?」
 
 
ルビッチ、まわりを見渡す。
濃い霧に包まれた夜の海の真ん中でプカプカと浮かんでいる。
 
 
ルビッチ 「なんで?」
 
 
ルビッチ、海に浮かんだ帽子(自分の帽子)を取る。
考え込むルビッチ。自分がどうして海の上にいるか分からない。
ルビッチを見つめているモフモフの猫。
 
 
ルビッチ 「あの〜、僕、なんで今、海の上にいるんですかね? …頭、打った?」
 
 
モフモフ猫、ジッとルビッチの方を見ている。
ルビッチ、空を見る。苦笑いしながらモフに話しかける。
 
 
ルビッチ 「…なんか夜になってるし(笑)」
 
モフ   「降りなさい」
 
ルビッチ 「わぁぁっっ!!」
 
 
ルビッチ、驚いて尻もちをつく。眼孔と口が開きっぱなし。モフを警戒する。
 
 
モフ   「相乗りは契約違反よ」
 
ルビッチ 「喋ってるっ!」
 
 
ルビッチ、両手で自分の顔を勢いよく叩く。
 
 
ルビッチ 「いいぃぃぃ」
 
 
ルビッチ、両頬を力一杯引っ張る。顔がビロンビロンに伸びる。
 
 
モフ   「何してんの、あんた」
 
ルビッチ 「喋ってるっ!!! 喋ってるっ!?」
 
 
呆れているモフ。
 
 
ルビッチ 「な、なんで! なんで喋るのっ!?」
 
モフ   「あんたが話しかけてきたんでしょ」
 
ルビッチ 「あああああ〜」
 
 
ルビッチ、目を閉じて、両耳を何度も叩いている。
 
 
モフ   「何してんの?」
 
ルビッチ 「あのっ!」
 
モフ   「何?」
 
ルビッチ 「返事したっ!」
 
 
返事をしたモフに驚くルビッチ。
 
 
モフ   「何よ」
 
ルビッチ 「え〜っと、あの〜…」
 
 
モフをナメまわすように見るルビッチ。
 
 
ルビッチ 「あ〜…ハロウィンのやつですか? 猫の……中に、誰かが入ってるぅ…」
 
 
モフ、後ろ足で頭を掻く。あまりにも自然な動き。
 
 
ルビッチ 「…わけでもないっ!」
 
モフ   「うるさいわね!」
 
ルビッチ 「わけでもなさそうっ!」
 
 
ルビッチ、舟の隅っこに避難。小さくなって、モフをジッと見ている。
モフを警戒しているルビッチ。
 
 
モフ   「…何?」
 
ルビッチ 「…あの…この舟、どこに向かってます?」
 
モフ   「港」
 
ルビッチ 「あ、港に行くんですね」
 
 
少し安心するルビッチ。
 
 
ルビッチ 「じゃあ、…このまま乗せてってください」
 
モフ   「言ったでしょ? 相乗りは禁止されてるの。降りなさい」
 
ルビッチ 「ちょっと待ってっ! ここから泳いで帰れっていうのっ!?」
 
モフ   「知らないわよ。大きな声を出さないで」
 
 
モフ、声を殺しながら怒鳴る。
 
 
ルビッチ 「…え、何? 大きな声を出されちゃ困る感じ?」
 
 
ルビッチ、悪い顔になっている。
モフ、周りを見る。声を殺して話す。
 
 
モフ   「二人で乗ってるところが見つかっちゃうでしょ」
 
 
ルビッチ、「そうかそうか」と少し考える。何かを企んでいる。
嫌な予感がするモフ。
 
 
モフ   「…何?」
 
 
ルビッチ、大きく息を吸って…
 
 
ルビッチ 「わーーーーーー!」
 
 
突然、大声で叫ぶルビッチ。バカ声が夜の海中に響き渡る。
メチャクチャ慌てるモフ。
 
 
モフ   「バカなのアンタっ!!?」
 
ルビッチ 「おかーーーーさーーーーんっ!!!」
 
モフ   「『お母さん』って何よっ!!」
 
ルビッチ 「♪ハ〜ロー、ハ〜ロ、チムニ〜!」
 
モフ   「黙ってっ! お願いだからっ!!」
 
 
モフ、ルビッチに泣きつく。
 
 
モフ   「やめてっっ!」
 
 
ルビッチ、モフにガンを飛ばす。
 
 
ルビッチ 「港まで乗せてもらえますか?」
 
 
〜時間経過〜
 
 
モフ、「足漕ぎ舟」のペダルをキコキコと漕いでいる。
濃い霧の中を進んでいく舟。波は無い。
ルビッチ、船の真ん中にある「置き時計」を見る。
文字盤が心臓の鼓動のように、緩やかに点滅している。
 
 
ルビッチ 「…変な時計」
 
モフ   「命よ」
 
ルビッチ 「いのち?」
 
 
ルビッチ、「置き時計」に顔を近づける。針の音が響く。生きているようだ。
ルビッチ、おもわず黙ってしまう。
 
 
モフ   「さっき、生まれたばかりの命よ」
 
ルビッチ 「へ?」
 
 
徐々に、深い霧が晴れていく。星空が広がる。近くには大きすぎる月。
えんとつ町の月のサイズは全然違う。見たことがない惑星も浮かんでいる。
ルビッチの顔がひきつっている。
 
 
ルビッチ 「何、あれ?」
 
モフ   「頭を下げて」
 
ルビッチ 「え?」
 
 
ルビッチ、ワケも分からず、船縁に身を隠す。
海の霧がどんどん晴れていく。ルビッチ、船縁に身を隠しながら、外を見る。
霧が晴れた海には、数千の小舟が浮かんでいる。(灯籠流しのよう)。
いくつかの舟が(潜水艦のように)海の中から出てくる。
全ての小舟の縁には「番号」が書かれている。
あまりの数に驚いて声が出ないルビッチ。
ルビッチ、自分が違う世界に迷い込んだことに気がつき、恐ろしくなる。
 
 
モフ   「皆、『命』を運んでんのよ」
 
ルビッチ 「あの…」
 
 
ルビッチ、苦笑い。完全に顔がひきつっている。
 
 
ルビッチ 「ちなみに…この舟、どの港に向かってます?」
 
 
時計の針の音が響く。
小舟が向かう先に、オレンジ色に輝く(モンサンミッシェルのような)島が見えてくる。明らかに『えんとつ町』ではない。ルビッチ、恐怖で震えている。
 
 
モフ   「すべての時間が集まる場所…『千年砦』よ」
 
 

第2章 千年砦

 
 

🎩千年砦の港(夜)

ここから先は

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映画『えんとつ町のプペル』の続編 映画『えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』の脚本を読むことができます。

映画『えんとつ町のプペル』の続編を現在制作中です。 続編の脚本を読むことができるマガジンです。 映画公開に向け一緒にわくわくしましょう。

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