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帝国に挑む(4) ~幼馴染~

サトシくんという同い年の幼馴染がいた。家は道を挟んで斜め向かい。物心がついた頃がらずっと一緒だった。

幼稚園は別々だったんだけど、幼稚園が終わったら、待ち合わせをして、毎日、一緒に遊んだ。

同じ小学校に進学した。「多田東小学校」という山の上の学校だ。学校の裏山は一箇所ハゲていて、誰が名付けたか「ハゲ山」と呼ばれていた。

同じクラスになれたんだっけな? そこは、ちょっと忘れちゃったけど、やっと一緒に学校に通えるようになったことが、とても嬉しかった。そして、放課後は、また幼稚園の頃みたく、毎日一緒に遊んだ。

家の近所に木材屋さんの倉庫があって、そこには、たくさんの木材が積まれていた。

大人の人達(あの頃、「大人」のことを「大人の人達」と言っていた)の目を盗んで、ボクら二人で倉庫に忍びこんで、積まれた木材をせっせと動かして、スペースを作り、そこを「秘密基地」とした。

木材が横に積まれている場所があって、板キレを少し引っ張ると、すぐに「棚」ができた。ボクらは、その「棚」にお気に入りのオモチャやビックリマンシールを並べた。道端で引っこ抜いたタンポポも並べた記憶がある。

自分の世界を作ったのは、あの時が初めてだ。「ボクらが作る秘密基地が一番だ」と二人で言った。ボクら以外の誰も聞いていないのに。

今やっていることと、あまり変わらないな。

サトシ君はボクよりも身体が大きくて、カッコよかった。ライオンみたいな人で、星座を訊いたら「獅子座」だった。ボクは「カニ座」で、なんだかチョキチョキしてカッコがつかないなぁと思った。ちょうど「聖闘士★星矢」が流行っていた。

幼馴染のサトシ君は「強い人」だった。

弱音を吐いたところも、愚痴をこぼしたところも見たことがない。その後、「猪鹿蝶(いのしかちょう)」という地元の暴走族の総長になっていたので、喧嘩も強かったんだと思う。だけど、サトシ君は、喧嘩をする姿をボクに決して見せなかった。何か理由があったのかな?

2年生の頃の話だ。

昼休みに「のぼり棒」で遊んでいたら、突然、「のぼり棒」の上からサトシ君が飛び降りた。

足で着地したけど、勢いよく曲がった膝が顎を突いて、そのまま唇を噛み千切ってしまった。パックリと割れた傷口からは肉が見えて、大量の血が吹き出した。だけど、サトシ君は泣かなかった。泣くことを必死で我慢していた。サトシ君とは生まれた時から一緒だから、その理由はよくわかる。

サトシ君に憧れているボクの前で泣くわけにはいかなかったのだ。

サトシ君はカッコ良くなくちゃいけなった。周囲からの憧れを背負っていた。まだ小学2年生なのに。

「大丈夫、大丈夫」と言うから、その目に浮かべている涙は見なかったことにしていたのに、同じクラスの子がサトシ君を指して「涙が出てるやん」と言ったから、ボクは我慢ができずに、その子をブン殴った。

殴られた子は理解できなかっただろうな。そりゃそうだ。ボクが間違っている。

ボクは、サトシ君が必死で守っていたものを汚されたことが許せなかったんだけど、そんなことは、他の子には分からない。もらい事故にも程がある。あの時、ボクは誰を殴ったのかな? 同窓会で会うことがあったら名乗り出て欲しい。ずいぶん遅れたけど、ちゃんと謝ろう。

「のぼり棒」から飛び降りて血だらけになって目に涙を浮かべている親友を助けたかったんだけど、助け方を間違った小学2年の昼休みの話。

ボクも、あの子も、あの人も、ボクが少し苦手なアイツも、皆、「守りたいモノ」を持っている。それは、とても脆くて、人に話すと崩れてしまうから、誰にも話さないことで守っている。

あの日のサトシ君のように。

この先。もしも、誰かが目に涙を浮かべていたら、その人は今、きっと懸命に我慢をしているから、そっと目をそらして、理由は聞かずに、そして誰も傷つけずに、静かに寄り添って、守ってあげたいな。

2020年2月25日  大阪行きの新幹線の車中より

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