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お煮しめの想い出

3日間、北海道に帰った。
小林酒造の皆にはこれを黙っておいた。驚かせる為だ。

きっと皆、思わず僕の腕や足にしがみ付き、この嬉しいハプニングを歓迎するであろう。

玄関の前に立ち、ドアノブをそっと引く。

だが、どうしたことだろう。皆、一様に引きつった笑顔で、どこか態度がぎこちない。

(なるほどそうか!前回クラッカーを鳴らして出迎えなかった事をガミガミ言い過ぎたせいかも知れない。)

 まぁ、今回は突然だから仕方あるまい。
 気を立て直し、僕はいつもの人形焼一個と、大奮発して買い足した味噌煎餅一枚を添えて皆に配る。

いつもの人形焼に加えて、江戸の味噌煎餅。
手配りして、せこく思われないか恐々、反応を確かめる。



 皆、顔を背けながらも恐縮した様子。こちらも嬉しくなり、何だかくすぐったい思いだ。

 実家では、お袋が『きゃらぶき』の皮をむいて待っていてくれた。

きゃらぶきが、会社周囲に沢山生息しているのも先代からの贈りものであると母は言う。

 今晩は『ふきの煮付け』に『越冬とろろ芋』それに『お煮しめ』だと言う。

こちらは一般的な歯応えシャキシャキの、ふきの煮付け。
それにしても、数十年も味が変わらないのが凄い。

 子供時代お腹ぺこぺこで学校から帰るといつもこの『お煮しめ』の匂いがあった。

 この味は、懐かしさと共に自分を優しくリセットしてくれる。

 もうクラッカーの事はキレイさっぱりと忘れよう。
 お袋の味がそんな優しい気持ちにさせてくれたのだから。

(※いつも嘘書いてすみません。皆、今回も優しく迎えてくれてありがとう!

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