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美酒鍋

そう、けっこう前の話になるが僕はその日、広島の西条駅に降りていた。

 そしてそうそう!初めて本場の『美酒鍋』を頂いたのだ。

 自分で『美酒鍋』を作る事ができる。
 そういう店にお邪魔した。

 『美酒鍋』は北海道で何度か作った事があった。

 けれど、本場の味を知らずして自分でつくるその味は疑わしいものでしかなかった。

 ところで『美酒鍋』は、そもそも『びしょなべ』と呼ぶのが正しいらしい。

 湯や水にまみれて、びしょびしょになって働く蔵人を『びしょ』と言い表したのが名前の由来だという。

 僕は、やっとありついた本場の『美酒鍋』を前に心躍らせた。



 まずは油でお肉を炒める。そこにニンニクを投入。。。

 ん?ん?いや、ちょっと待て。

 よく考えると『美酒鍋』を自分で作っている時点で、これが本当の味と言えるのだろうか?

 これは『本場で自分が作る自分の味の美酒鍋』ではないだろうか?

 しまった!また明日『本場で本場の料理人が作る本当の美酒鍋』を食べねばなるまい。

 僕は『つまりは、その様な止むに止まれぬ事情で帰るのが少し遅くなる』という旨の一報を自宅に入れた。

 そしてその結果、もう一つ気づいた。
 それは!

 なんやかんや言い訳を考えて全然帰る気がない下心が、すでに家族にはバレバレな事であった。

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