見出し画像

ゲームとことば#70「宗じいさん、占い、占い、占い、宗じいさん…」

絶妙な強度でプレイヤーに精神的恐怖感を与えてくる『クーロンズ・ゲート』の露店人形。
小さな子どもが見たらトラウマ間違いなしだが、大人が見ても気色悪い。
だが、たまにこの声を聞きたくなってしまう。
いったいなぜだろう。

『クーロンズ・ゲート -九龍風水傳-』は、かつて中国返還前の香港に実在したスラム街、九龍城砦を舞台にしたアドベンチャーゲームだ。
暗く雑多で無秩序な街並みと、何を生業としているのかわからない不気味な住人が印象的で、いまだにカルト的人気を持つ初代プレイステーションの奇作。
宗(ソン)じいさんもその不気味な住人のひとりで、ガラクタを売りつけながら占いをやっている老人だ。
ご本人もなかなかのインパクトを持つ見た目をしているが、そばにある露店人形も忘れがたい存在感を放つ。

「宗じいさん、占い、占い、占い、宗じいさん、占い、占い…」

ピンボールマシンのような派手な鐘の音とともに、小さな台の下からひょっこり現れる「おかめ面」のような顔。
大きく口を開け、壊れたようにことばを発する。
どういうつもりか知らないが、コレで占い屋に客を呼べると思っているのだろうか。
製作者の意図はわからないが、セリフのパターンはいくつかあり、なかには「宗じいさんの弟…パソコン中毒…」という反応に困るパーソナルな情報も教えてくれる。
人形が帯びる独特の雰囲気に、ちょうどよい加減に不可解な音声を加えるとこうも不気味になるのだな、と感心した。
いや、四半世紀近く経っても忘れられないのだから、本当に大したものである。

本作は実に「怖いもの見たさ欲」を掻き立ててくれる。
全身をケーブルでぐるぐる巻きにした人や、三面鏡みたいな箱から顔を出す人など、お近づきにはなりたくないが遠巻きには見てみたい。
そんなサイケデリックな世界観が多くの人の心をつかんだのだろう。
ダンジョンパートは移動がかったるく、私はすぐ酔ってしまうのでクリアは断念した。
酔った原因はグラフィックの粗さだけではなく、奇妙な世界観のせいでもあろう。
けれど酔ってしまうほどの奇妙さもまた、ゲームの魅力といえる。

≪前回の記事≫


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?