ゲームとことば#96「BALLOON TRIP」
ファミコン『バルーンファイト』のCモード。
風船をつけたキャラが海上を果てしなく進み、障害物をよけながら風船を割りつつどこま飛行距離を伸ばせるか挑戦するゲームだ。
ハル研究所時代の岩田さん(のちの任天堂社長。故人)が、わずか3日で作りあげたことでも有名。
本作は足の引っ張り合い2人協力プレイのBモードも楽しいのだが、私はこのCモード「バルーントリップ」が好きだ。
お気楽なBGMとともに独特の浮遊感で、どこまでも飛んでいけるからね。
1つも逃さずに連続で風船を取ると、風船の色が黄緑からオレンジに変わるのだが、私はほとんどこれを成功させたことがない。
それどころか、ほぼ最初の方の障害物にぶつかって終わる。
慣性にクセがあり、勢いをつけて進むとすぐに止まれないもどかしさがあるのだ。
ただそれでも「バルーントリップで飛び立ってみたい欲」というニッチな欲求が定期的に沸き起こる。その欲求を満たせるのはもちろん「バルーントリップ」をおいて他にない。
ただ、海の上をひたすら風船つけて飛んでいく姿は、どこか「風船おじさん」(※)を思い出して少し切なくなったりするのだけれど。(※その昔、風船をたくさん取り付けたゴンドラで太平洋横断を試みた人。飛び立ったのち消息不明となった)
それと、ルールの異なる「ゲームモード」というものを私が初めて認識したのも、このゲームだったと記憶している。
AやBに飽きたらC。Cに飽きたらまたAやBをプレイ。
というように「1つのソフトで遊び方が変わるモードがあるって、なんてお得なんだ」と幼心に感動した。
カセット1本を飽きずに長く遊べるものは、子どもにとって大変貴重なのだ。
ところで"trip(トリップ)"と"travel(トラベル)"の違いって何だろう。気になったので調べてみる。
ざっくりとしたニュアンスだと、トリップは短期的な旅でトラベルが長期的なものを指すらしい。さらに長距離・長時間だと"journey(ジャーニー)"ということばもある。
風船2つで海を渡ろうなって、傍から見れば命がけの挑戦に見えるが、主人公にとってはさほど大掛かりでもない、ちょっとしたトリップなのかもしれない。
「バルーントリップ」を作られた岩田さん、それを依頼した横井軍平さんは若くして亡くなられた。
楽しいものを作ってくれた人たちの旅立ちはとても寂しい。
遺していった作品に敬意を表し、その旅路が安らかなものであることを祈るばかりである。
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