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男性もセクハラを受ける

緊急事態宣言“前”のこと。
最近、近所に若い大将が切り盛りするお寿司屋さんができた。
定休だったり営業時間外だったり混んでいたり、なかなか行けなかったけれど、先日ようやくタイミングがあって行くことができた。

そこで、なんともかんとも傷ついてしまうことがあった。

その日ぼくは、仕事で疲れた目を擦りながら、のれんをくぐった。いらっしゃいませと大将の声を聞きつつ店内を見る。
目の前にカウンター席があり、奥に白髪の男性が座っていた。その彼の隣(ひと席あけ)に勧められるままに腰掛ける。
その先客はすでにそこそこお酒を飲んでいる様子であった。

子ども食堂をすぐ近くでやっているぼくは、かねてより、このお寿司屋さんにあいさつがしたかった。大将と知り合って、たわいもないやりとりがしたいと思っていた。あわよくば仲良くなれたらと。
その淡い希望は残念なことに、その先客の存在によって打ち砕かれる。

大将に注文をしようとメニューを見ていると、先客からタイがうまいだの、これを食った方がいいだの、ありがたい助言をいただく。この時点では、まあ素直にありがたいと思って、おまかせ握りに加えて、彼の助言に沿って注文をした。

「酒は飲むか?」とは、大将ではなく、やはりその先客からの確認である。見ると、自身のびんビールを持ち上げてこちらに笑みを向けている。
ぼくが彼の言葉に従って注文をしたことに気を良くしたようであった。

コロナ禍ということをふまえると、いささか微妙な距離感ではあったが、元来コミュニケーションが嫌いでないぼくは誘いに乗る事にした。

しばらくして、カウンターごしの二人の会話が途切れたタイミングで、やっと大将に自己紹介をすることができた。
すぐそこに住んでいること。そこがシェアハウスであることを伝える。

シェアハウスに住んでいると必ず聞かれる質問「恋愛になったりしないのか?」
やはりこの時もその質問があって、
「しないですね。家族というか、きょうだいのような感覚ですね。」と、いつもの回答をした。

すると「なんだだらしねえな、笑」とカウンター席から横やりが入った。「俺だったらすぐに手え出しちゃうけどな」と続く。

「俺の若い頃は…」から始まるたいそうご立派な武勇伝を、ははは…と渇いた笑顔で受け流しながら、なんとか大将との話に戻そうと考える。
武勇伝の切れ目に「ところでお仕事は?」と大将が聞いてくれたので保育士をしていることを伝えた。

「なんだかなぁ」とつぶやく先客の声が聞こえた。
男性のぼくが保育士であることについてそのような反応をもらったのはほんとうに久しぶりで、少々残念な気持ちになった。

「僕も保育士を目指していたことがあるんです」と大将が言う。ぼくはそちらの会話を広げたかった。少しだけ盛り上がる。

でも、先客はその会話が面白くなかったようだ。
結局、話は先客の誘導で恋愛の方に戻っていき二、三の会話ののち、次の言葉が飛び出した。

「おめえ、何人とやったことあんだ?」

突然の質問に一瞬ボー然としてしまった。

がはは、と底抜けに明るい歯抜けの笑顔とは対照的に、こちらの笑顔は渇ききっていた。ひきつっていることにどうか気づいてほしかった。

おそらく彼は「シェアハウスにいて何もない」「男性なのに保育士」ということから受け身で情けない男性のイメージを捉えたのだろう。アドバイスをしてやろう、と思ったのかもしれない。余計なお世話だが。

この時点でぼくは既に疲れてきていた。
あと、今思い出して書くのも疲れてきた。。

この後、さらに侮辱をされ、じじいの自己顕示欲剥き出しのダサダサなマウントの下敷きになったぼくは、俯きながら寿司を丸呑みして、せわしなく店を後にするのだが、もうこの辺にしておこう。

傷ついたのはむしろその端折った方のやり取りの方であって、この前半のやりとりは実は傷としては大したことはなかった。
ただ、家に帰ってベッドで悶々と思い返してみて思ったのは、この一連の流れはれっきとした“セクハラ”なのではないか、ということだ。

相手の意図や気持ちを汲まず、性的な会話を強要し、性経験の有無をおおやけにする。

それが楽しい会話になりうることも、もちろん承知している。仲のいい男友達とクローズドな環境でそういう会話をするのは、楽しいこともあると思う。

でも、この日のこの会話はだめだろう。
ぼくはいやな気持ちがしたし、あまりにオープンだ。

ぼくはいわゆるシスヘテロ男性(この言葉も最近知った)で、今までセクハラを受けたと思った経験は全くなかったが、フェミニズムやジェンダーについて少しかじったからか、これがセクハラになることを理解してしまった。

そうか、男性も男性からセクハラを受けることがあるのか、と。そうして気がついた。

自分自身もそうする場合があり得る。
初めてあった学生くんに彼女いんの?と聞いてしまうなど、当たり前に許容されるコミュニケーションと思っていたけれども、(まぁそのくらいは大丈夫という気もするけども、)うーん今後は気をつけなければと思った日であった。

ちなみに、お寿司屋さん自体はとてもいいお店で、この件の後、すぐにお詫びに来てくれた。
そして、こちらも後日再訪し挨拶をし直し、きちんとわだかまりをとることができた。

そのお店は緊急事態宣言を受け、今はテイクアウト限定になっている。引き続き応援していきたい。

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