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舞台袖で絆が生まれる

「明後日、日本人が来るからサリーを着てきなさい」と職場の上長から夜な夜な電話が掛かってきた。職場では、この日本人(私)はサリーが着れると判断されたようで、こんな感じで事あるごとに「サリーを着てきなさい」と言われる。

当日、いつものように出勤し自分の仕事をしていると、急に上長から講堂に来るように言われた。どうやら、今回の日本人来日イベントはわりと職場でも盛大なイベントごとらしく、歓迎イベントとしてスリランカのダンスと歌も披露するらしい。そこで披露する相手が日本人なので、アナウンスを日本人の私がやって欲しいとのこと…
ただただ私はサリーを着て、皆に付いていけば良いのだと思っていたら、急に大きな仕事が舞い込んできて驚いた。きっと当日に言われるのがスリランカスタイルなのだろう。しかし、こんなことでグチャグチャ言っても仕方がないので、とにかく今日披露されるダンスの演目を教えてもらいにダンスチームの練習室に向かう。
ダンスチームの先生から今日のダンスの演目を書いてくれた紙を貰って、それを自分で日本語に翻訳する。ダンスの演目だからか、単純な直訳では意味が分からない言葉もある。しかし、ダンスの先生に質問することが出来たので、無事に日本語の翻訳も完了し、今日のイベントの準備が整った。

そして夕方の4時頃、オフィスの人に「あなた!もう(日本人が)来てるんだから、早く玄関に行きなさい!」と言われ、その人と一緒に玄関まで向かう。正直、今日の私は日本人相手にアナウンスすることしか知らないので、謎に「早く!」と怒られ困った。だって何も知らないし、聞いてもみんな違うこと言うんだもん。
こうして、お迎えの場所に到着すると、色んな人から「エンナ、エンナ」(来て来て)と言われて、あれよあれよと今日の招待客の一番近くまで来てしまった。なるほど、今日の私はホストの最前線の人なんですね、と思いつつ、そりゃ日本人が来るんだから、日本人を前線に立たせるのは普通か、と思ったりする。

こうしてゾロゾロと付いていき、何故か会議に参加したり紅茶を飲んだりしていると、「エンナ、エンナ」とダンスと音楽の歓迎イベント担当の人が私を呼んだ。なるほど、このタイミングで歓迎イベントが始まるのか、と思いながら講堂に到着すると顔見知りのミュージックチームの先生が音響チェックをしていた。その先生からは私が使う無線マイクを受け取ったのだが、反対側の手には包帯がグルグルに巻いてあった。どうやら物をぶつけてしまったそうで、しばらくは楽器も弾けないらしい。音楽の先生なのに…アイヨー(あちゃ~的な感嘆詞)
そんな世間話を挟みながらも、音楽の先生から披露する音楽について聞いて、「君も舞台上でアナウンスするでしょ?」と言われ、恐れながら舞台に上がる。そうこうしていると招待客の人たちもやって来た。

若干の慌ただしさを感じながらも、最初に今日披露するダンスと歌、音楽のチームの説明をして、歓迎イベントがスタートする。イベントの順序としては音楽、歌→ダンスと交互に披露し、それぞれ5曲ほど披露する予定だ。

しかし、これで上手くいかないのがスリランカ。ダンスチームは曲ごとに違う衣装に着替える必要があり、ミュージックチームが1曲演奏するだけでは、絶対に時間が足りない。さらに、なるべく早く衣装替えをしなくてはいけないのにも関わらず、毎回ダンスルームに帰って着替えをしているものだから、より時間が掛かる。
ミュージックチームの先生はきっとそれを予想していたのだろう。追加で何曲か演奏するように舞台袖から生徒たちに指示を出す。そして、時よりダンスチームの先生に「準備は出来たか?」と電話し、自分たちの時間配分を調整する。ミュージックの先生…あなたは立派な舞台監督だよ…なんて思いつつ、私も曲ごとの紹介アナウンスでベラベラ喋って時間を稼ぐ。

ダンスチームの踊りも伝統的なキャンディアンダンスだけでなく、村の踊りや日本らしさを取り入れた創作ダンスなどもあって、実に多様だった。年末にちょっとだけだったけど、ダンスチームの練習を見に行って良かったなぁ、なんて思いながら次のアナウンスで何を喋ろうかグルグル頭の中で考える。

そんな感じで、ミュージックの先生から追加の曲について教えてもらったり「次のアナウンスで長めに喋るわ」みたいな会話をしていると、自ずと一体感が生まれてくる。ダンスチームがなかなか衣装替えから戻ってこない中、なんとかやりきるぞ!という気持ちで一緒になったミュージックチームの生徒、先生と私は、気づけばアナウンスが終わるたびに握手してた。その度に、こんな所で絆って生まれるもんなんだなって思いつつ、常々ミュージックチームの対応力に感動するばかりであった。

しかし、この前のサリー効果と言い、こんなちょっとの出来事でグッと距離感が近くなるのは、本当にスリランカの良い所だなぁと思う。

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