英国ロイヤルシネマ『ロミオとジュリエット』今、この時だからこそのパワーが魅せる疾走感

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/2022、バレエの2作目はケネス・マクミラン振付『ロミオとジュリエット』だ。言わずと知れた、英国を代表する世界的な劇作家シェイクスピアの戯曲を原作としたもので、初演は1965年。以後英国ロイヤルバレエ団をはじめ、世界各国で上演され続けている名作である。

© 2019 ROH. Photograph by Helen Maybanks


■2人が放つ強烈な磁場

このプロダクションは英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンでも幾度も登場しているが、しかし何度見ても飽きさせることはまずない。何度見てもひしひしと感じる「本家」の誇りともども、配されたキャストがそれぞれに正面からこの役にぶつかり、自身ならではの役どころを踊る。キャストが変われば物語世界そのものが変わり、それまで気づかなかった作品の側面、奥深さやダンサーの力量など、見どころが尽きないのもこの作品の持つ力である。今回のジュリエット役には2021年プリンシパルに昇格したアナ=ローズ・オサリバン、ロミオ役にはやはり2019年にプリンシパルに昇格したマルセリーノ・サンベが配されている。いわばバレエ団の未来を担うであろう若い2人が、バレエ団では特別な意味を持つこの『ロミオとジュリエット』という作品に、今ならではの力を持って全力で挑んだ舞台である。

シネマのインタビューでオサリバンが「(ジュリエットは)バレエ団に入ったら誰もが一度は踊りたいと思う役」と語るように、英国ロイヤルバレエ団のダンサーにとってこの作品は特別な意味を持つ。開幕前や幕間でながれるインタビューやリハーサルの様子からも、主演の2人がこの役、この舞台にかける熱意はひしひしと感じられたが、舞台上で2人の醸す力はその予想をはるかに上回っていた。

© 2019 ROH. Photograph by Helen Maybanks

ロミオとジュリエット、敵対するそれぞれの家の子息子女である若き2人が一瞬で惹かれ合い、すべてを投げうち障壁を乗り越えながら恋の成就へと向かって、ただひたむきに疾走する。この物語を演じるダンサーに対し「情熱」「エネルギー」など様々な言葉が使われるが、オサリバンとサンベの「ジュリエットとロミオ」の場合、もっとも印象に残ったのは2人の間に生まれる強烈な「磁力」であり「磁場」とも言おうか。

© 2019 ROH. Photograph by Helen Maybanks

キャピュレット家で開かれる舞踏会で2人の目が合った瞬間、もう世界が一転する。惹かれ合う2人はもう離れることはできないと、その時に感じさせる説得力が、その磁場から生まれるのだ。その力は重厚な重たい音楽とともに踊られる舞踏会「騎士の踊り」の一群が、まるでシルエットのような背景と化すほど。もはや引き離すことなどできない2人の「惹き合う力」が、舞台世界に磁場を創り上げ、物語が疾走するのだ。

さらにオサリバンとサンベの間に交わされる「会話」は飾ることのない直接話法。恋の喜びと秘密の結婚、ティボルトの死によるロミオの絶望感、ロミオのヴェローナ追放による別れの哀しみ、望まぬパリスとの結婚に追い詰められ仮死の薬を飲もうと決意するジュリエット――。まるでジェットコースターのような激しい感情の起伏を、オサリバンは身心すべてをなげうって生き切り、またサンベのしなやかかつ力強い踊りを持って、オサリバンとともに終始舞台をけん引する。すさまじい疾走感のなか、でも2人の磁力は最後まで観客をひきつけ続け、走り切るのだ。

©ROH

■脇を固めるダンサーらにも注目

物語は、特にこの『ロミオとジュリエット』のような群像劇は、当然ながら主演2人だけでは成立しない。2人を取り巻き、物語に一層の厚みを持たせる表現力に長けたダンサー陣の厚さもまた、このバレエ団の大きな魅力の一つである。

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ジュリエットのいとこにして、ロミオをはじめとするモンタギュー家と敵対するキャピュレット家の旗頭的存在のティボルトにはトーマス・ホワイトヘッド。沸点の低そうな、鋭い目つきが印象的だ。

ロミオの親友であるマキューシオはノーブルさも漂うジェームズ・ヘイ、ベンヴォーリオにはレオ・ディクソンが配され、サンベ共々微笑ましいやんちゃな三人組を好演する。ジュリエットの親友には佐々木万璃子さんの姿も。しどけない姿で堂々と町を闊歩する3人の娼婦など、舞台上のすべての人々が熱を醸す。本家の面目躍如であろう。
おすすめの舞台である。

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英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/2022
ロミオとジュリエット


■日程:2022年4月8日(金)~4月14日(木)
■振付:ケネス・マクミラン
■音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
■指揮:ジョナサン・ロー
■出演
ジュリエット:アナ=ローズ・オサリバン
ロミオ:マルセリーノ・サンベ
マキューシオ:ジェームズ・ヘイ
ティボルト:トーマス・ホワイトヘッド
ベンヴォーリオ:レオ・ディクソン
パリス:ニコル・エドモンズ
キャピュレット夫人:クリステン・マクナリー
キャピュレット卿:ギャリー・エイヴィス
エスカラス:ルーカス・B・ブレンスロッド
ロザライン:クレア・カルヴァート
乳母:ロマニー・パイダク
ローレンス神父/モンタギュー卿:フィリップ・モーズリー
モンタギュー夫人:オリビア・カウリー
ジュリエットの友人:ミカ・ブラッドベリ、アシュリー・ディーン、レティシア・ディアス、佐々木万璃子、シャーロット・トンキンソン、アメリア・タウンゼント
3人の娼婦:メ―ガン・グレース・ヒンキス、イザベラ・ガスパリーニ、ジーナ・ストーム・ジェンセン
マンドリン・ダンス:ジュンヒュク・ジュン、デヴィッド・ドネリー、ハリソン・リー、フランシスコ・セラノ、スタニスラウ・ヴェグリジン、デヴィッド・ジュデス
■上映時間:2時間55分
■上映劇場
公式サイトにて確認
https://news.eigafan.com/roh-test/movie/?n=romeojuliet2021


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