小川未玲作品「もやしの唄」を観に行った話
テアトルエコーという劇場の名前は聞いたことがあったけど、行くのは初めてだった。そもそも私の観劇キャリアはとても少ない。演劇部の友達に誘われて見に行く、みたいなことが何度かある程度で、ちょっとハードルがあったというより、私の人生に演劇を見るという接点がなかった。
電車を乗り継いで、Googleマップに従い無事目的地へ到着する。すでに人がたくさんいて入場が始まっていた。
私の席は真ん中のやや後ろ。舞台全体を正面から見渡せる位置だった。舞台には日本家屋の縁側と庭の井戸、右手に納屋の入り口のような引き戸。場内には聞いたことのある古い陽気な音楽が流れていた。
席につくと妙に落ち着く。特別に座りごごちのいいような豪華な客席ではない、シンプルでそれほどゆとりもない客席なのだが、なんだか「おさまった」というような感じがした。そういえば、最近の映画館の椅子はわりとゆとりがあってクッションも厚い、座り心地のいい椅子になっているけど、もしかして座った感触としては「持て余した」感じなのかもしれない。130席の客席へ、観客がどんどんおさまってゆくのを眺めた。満席だった。
演劇のタイトルは「もやしの唄」。
公式のあらすじはこちら。
「昭和40年代、オリンピックが終わった高度成長期の日本。とある町の小さなもやし屋「泉商店」では、長男 恵五郎が男手ひとつで幼い息子を育てていた。結婚を控えた妹 十子は家電製品のことで頭がいっぱい。弟 一彦は、なぜか就職活動にも身が入らず、のらりくらりとかわすばかり。
そんな中に現れた、なにやらワケありな青年「村松」。泉家に住み込んでもやし屋を手伝うことになったのだが・・・。」
なぜ私がここにいるのかというと、なんと招待されたのである。
この「もやしの唄」の作者、劇作家の小川未玲さんに…!!
話は今年3月まで遡る。
ご存知の方も多いと願っているが私は、福岡の美術予備校時代の友人グウコちゃんとラジオをやっている。
その名も「ハコとグウコのしりとりラジオ」。
推敲ゼロで決まったこのラジオ、内容はその名の通り私とグウコちゃんが交代でしりとりしながら話すテーマを決め、適当に話していく、というものだ。適当に話していく、というのは、、謙遜でも、、例えでもなく、、本当に適当に話しているという、申し訳ない事実である。私とグウコちゃんはもともと、会えばひたすらお酒を飲みながら「ああでもないこうでもない」と延々おしゃべりを続けてしまうのだが、ただそれを本当にそのままラジオに載せているのである。
そんなスタンスでやってるくせに「お便りコーナー」は、やりたい。恐れ多くもお便りを募集してみたところ、なんとお便りが来たのである。ハコとグウコのしりとりラジオを楽しみに聴いて下さっている方が数名発見された瞬間であった!(ここにもいますよ!って方は遠慮せずにお便りください)
そして何を隠そう、そこでメールをくれた「ラジオネーム:みの字さん」が、「もやしの唄」の作者で、今回私を招待してくれた小川未玲さんだったのだ。
数回お便りをくださりグウコちゃんと二人ではしゃいで読んでいたところ、8月のあるメールで「もやしの唄」に招待してくださったのである。
こんなことあるんだね?
今回菓子折りと拙著携えご挨拶することができました。
私が来たことをとても喜んでくれている様子が伝わってきて大変恐縮した。
そしてお芝居の方はどうだったかというと、こちらはまだ期間があるのでぜひ行ってもらいたい。遠方で行けないという方にはアーカイブ配信も行うそうなので、こちらをご確認ください。
ネタバレにならない程度に感想を申し上げると、とても素晴らしかった。一つの時代を登場人物とともに過ごした気がした。何か大きな問題があってそれを解決していくわけではないけど、それぞれが抱えている心の内側のものと、折り合いをつけながら生活を営んでいく様が楽しく描かれていた。
そして特別に座り心地がいいわけではないのに、なんだかとても居心地のいい椅子にすっぽりおさまってひと塊りになった観客として、みんなで舞台を観るということが、とても楽しかった。これは、ちょっとテレビや映画館では味わえない感覚という気がした。演劇というパッケージには観客が必ず必要で、観客含めて作品になるのだと思う。ということは観劇する人にとっては当たり前のことかもしれない。上演前後の周りのおしゃべりを盗み聞いていると、どうも日常的に観劇をなさっている方が多そうだった。なるほどこういった休日の過ごし方があるんだね。
主に小川未玲作品のファンとして、今後も演劇を見に足を運びたいと思う。
キャストの皆様、関係者の皆様。いい時間を過ごさせてくれてありがとうございます。とてもよかったです。
ここまで読んでくださった皆様もよかったら、ぜひ足を運んでみてくださいね。(そしてラジオも聞いてくれると嬉しいです)
ありがとうございました。
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